両者のポイント差が「9」も離れているため、首位攻防戦と呼ぶにはやや緊迫感に欠けた。それでも、好調チーム同士の一戦であることに変わりない。無敗で首位を独走するサンフレッチェ広島に対し、追いかける2位のFC東京がどのように立ち向かうのか。…
両者のポイント差が「9」も離れているため、首位攻防戦と呼ぶにはやや緊迫感に欠けた。それでも、好調チーム同士の一戦であることに変わりない。無敗で首位を独走するサンフレッチェ広島に対し、追いかける2位のFC東京がどのように立ち向かうのか。水曜日に味の素スタジアムで行なわれた一戦は、そういう試合だった。
現在7ゴールで得点ランキング1位に並んだディエゴ・オリヴェイラ
広島の躍進の要因は、9試合でわずか2失点の堅守にある。難攻不落と思われる紫の牙城をいかに攻略していくのか。FC東京のテーマは、その一点に集約されていた。
しかし、そのミッションはあっさりとクリアされる。開始5分にPKで先制点を奪うと、4分後にも追加点を奪取。1点獲れれば御の字、2点獲ったら万々歳と思われたが、わずか9分間でFC東京はこれ以上ない最高の状況を手に入れた。
よもやの展開を演出したのは、FWディエゴ・オリヴェイラだ。今季、柏レイソルから期限付き移籍してきたこのブラジル人ストライカーは、長谷川健太監督の言葉を借りれば「オールマイティな選手」である。
強さあり、速さあり、高さあり、うまさあり――さらには献身性まで兼ね備える。「いくつも武器がある、今までにはない助っ人」(長谷川監督)は、その特長を重要な一戦で遺憾なく発揮してみせた。
立ち上がりにバイタルエリアでボールを受けると、果敢に仕掛けてPKを獲得。これを自ら冷静に蹴り込むと、9分には高い位置でボールを奪った味方のパスに反応し、FW永井謙佑のゴールをお膳立て。いずれもキレのある動き出しとスピードで相手守備陣を翻弄し、ふたつのゴールを導き出したのだ。
「前のふたりが攻撃でも守備でも、スイッチを入れてくれているので助かります」
司令塔のMF髙萩洋次郎が話すように、今のFC東京の好調はディエゴ・オリヴェイラと永井の2トップによるところが大きい。オールマイティな前者に対し、後者は圧倒的なスピードが武器。このふたりが攻守両面で大きなカギを握っている。
象徴的なのは2点目の場面。前線からのプレスで相手のビルドアップのミスを誘い、2列目がボール奪取を狙う――この試合では、そんなシーンが何度も生まれていた。もちろん攻撃面でもふたりの存在感は絶大で、背後を狙う鋭い動き出しや高い推進力を示し、相手のディフェンスラインを後方へと追いやった。
永井はふたりの関係性を次のように語る。
「お互いに推進力を備えているので、ふたりで(攻撃を)完結できればいい。どちらかが相手の背後を突いて、ラインを下げようというイメージも共有できている」
強烈なハイプレスを仕掛けてきたかと思えば、隙を見せれば一気にトップスピードでスペースを突いてくる。広島の堅守をもってしても、このふたりの勢いを食い止めることができなかった。
勝負を決定づけたのも、ディエゴ・オリヴェイラだった。後半立ち上がり、髙萩のスルーパスに抜け出すと、追いすがるディフェンダーを振り切って3点目を奪取。「2点リードしていたので、カウンターを狙うというのはディエゴとハーフタイムに話していた」と髙萩が振り返ったように、まさに狙いどおりの一撃で、広島の息の根を止めた。
その後は広島の攻勢を浴びて1点を返されたものの、終盤の猛攻もDF森重真人を中心に守り抜いた。2トップの躍動に隠れがちだが、最終ラインの奮闘も見逃せないポイントだろう。
広島の攻撃のキーマンは、直近3試合で5得点を奪っているFWパトリックだった。しかし、この巨漢フォワードに入ってくるボールに対し、森重とDF丸山祐市のセンターバックコンビがしっかりと対応。たとえ競り負けてもセカンドボールに素早く反応し、相手に流れを渡さなかった。
森重は守備の手応えを口にする。
「試合を重ねるごとに、それぞれがどうすべきか、ということを話し合いながらできている。理想は前線からプレスをかけていくことだけど、身体が重くなって出遅れてしまっても、後ろをコンパクトにして、状況に応じて違うやり方もできている」
ハイプレスを仕掛けて能動的な守備を仕掛けた前半、押し込まれながらも後ろでしっかりと対応した後半。状況に応じてうまく対応した守備の安定性も、今季のFC東京の強みである。
「広島相手に先制できたことが大きかった。3点目もいい時間帯に取れたし、終盤に押し込まれたがDF陣が最後まで身体を張って1点に抑えてくれたことも大きいと思う」
試合後、長谷川監督は穏やかな口調で選手たちの奮闘を称えた。一方で、今後への課題も口にする。
「まだまだ選手の層が十分ではない。今はディエゴと永井のスピードを生かした戦いでいいサイクルに入っているが、今後、その特長を消してくる相手に対して、次の一手を考えないといけない」
昨季、柏で不遇をかこったディエゴ・オリヴィエラが、新天地で覚醒の時を迎えている。「監督が私を信頼してくれている」と充実感をにじませるこのストライカーが、FC東京の躍進を導いていることは間違いない。
しかし、指揮官が指摘するように、今後は厳しいマークが待っているだろう。その際にいかに対応できるかが、FC東京のタイトル奪取のポイントとなるはずだ。昨季まで率いたガンバ大阪に多くの栄冠をもたらした名将が放つ、次なる一手とは? その手腕に注目が集まる。
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