開幕戦がストリート、第2戦がショートオーバル、第3戦がまたストリートだったインディカーシリーズ。第4戦、今年初めての常設ロードコースでのレースが、アラバマ州のバーバー・モータースポーツパークで開催された。 全車共通のユニバーサルエアロ…

 開幕戦がストリート、第2戦がショートオーバル、第3戦がまたストリートだったインディカーシリーズ。第4戦、今年初めての常設ロードコースでのレースが、アラバマ州のバーバー・モータースポーツパークで開催された。

 全車共通のユニバーサルエアロキット装着インディカーはストリートより全体的にスピードの高いロードコースでどんな走りを見せてくれるのか、バトルはどんなものになるのか、非常に楽しみな一戦だった。

 ところが、金曜にプラクティスが2回、土曜日はプラクティス1回と予選、日曜はプラクティスなしでいきなり決勝というユニークなスケジュールの週末は、予選までがずっと快晴だったが、レースデイは朝から雨。決勝は今年初のウェットレースとなってしまった。



雨に見舞われたシリーズ第4戦で8位だった佐藤琢磨

 ユニバーサルエアロキットが各チームに行き渡ったのが昨年末のこと。今年1月からテストが重ねられてきたが、ウェットコンディションで新空力パッケージを走らせた者はほぼ皆無だった。そもそもインディカーのチームは雨の中でマシンを走らせることを極端に嫌う。雨での経験をドライバーに重ねさせるという考え方もしない。

 もう30年近くインディカーを取材してきたが、週末を通して雨というケースは非常に少ない。たとえレースの行なわれる日曜が雨でも、スタートからゴールまでずっと雨ということは、これまでに数えるほどしか経験していない。

 今年の第4戦ホンダ・グランプリ・オブ・アラバマの場合、日曜が雨になる予報はかなり前から出ていて、それはずっと変わらなかった。決勝日の朝が訪れると、予報の通り雨が降り出した。

 雨で速いのは誰か? 

 現地のメディアに聞いて回ると、佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)、セバスチャン・ブルデー(デイル・コイン・レーシング・ウィズ・ヴァッサー・サリヴァン)、ライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)の名前を挙げる人が多かった。

 第3戦ロングビーチで勝ったばかりのアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)はどうか? カリフォルニア出身だし、若いし、雨の経験は少ないと思ったが、「インディカーにデビューしてもう3シーズン目になるけど、ウェットレースが実現するのを心待ちにしていたんだ」と、自信満々のコメントが飛び出した。

 実際にレースが始まると、ジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)がポールポジションからトップをキープ。先頭を走る彼には、クリアな視界という非常に大きなアドバンテージが与えられ、22周で赤旗中断となるまでトップを守り通した。

 逆に2番手スタートだったウィル・パワー(チーム・ペンスキー)は、赤旗中断の原因ともなったクラッシュを演じた。コースの端から水が湧き出していたところに前輪が乗って起きたアクシデントだったようだが、ルーキーも含めほぼ全員が走り続けているなかで、パワーだけがクラッシュしたのは、もちろんテクニックの問題ではなく、精神的安定を欠いていたからだろう。

 開幕から、予選でポールポジションを惜しいところで取り逃がし続け(4戦で2位が3回目)、勝利も挙げていないパワー。昨年チーム・ペンスキー入りしてすぐさまチャンピオンとなった若いチームメイト、ニューガーデンが、第2戦で早くも1勝を挙げ、バーバーでの予選ではパワーからPPを奪い(予選ファイナルの最終ラップで逆転)、さらにはレースでもリードを許していた焦りから、ミスを犯したのだ。ほんの小さなミスがアクシデントに繋がるウェットコンディションの罠に見事にはまってしまった。

 琢磨は予選18位。これは予選中にトニー・カナーン(AJ・フォイト・レーシング)がクラッシュして赤旗が出され、アタックをする前に予選が終わってしまう不運からだった。

 しかし、雨のレースでは22周の中断時で8番手まで順位を上げた。その時点までで最も多くのポジションアップを果たしていたのが琢磨だった。

「インディカーには強力なテールライトが装備されているんだけど、今日の水しぶきはすごくて、2~3台分も車間が開くと、もう赤い光が全然見えなくなっていた。このコースのメインストレートは、一般的なコースと比べて3倍ぐらい水しぶきがひどかったと感じた。それでも体内時計を使ってターン1への進入のタイミングを計って走っていました。ブレーキを踏むと追突される恐怖もあるんですけどね」(琢磨)

 結局、レースは翌月曜日に延期、23周目から再開されることになった。90周が予定されていたレースは、ウェットスタートが切られたため、競技時間が2時間に制限されるルールを適用。月曜の戦いは日曜の22周でかかった約40分間をマイナスした1時間20分ほどでゴールを迎えることとなった。

 灰色の雨雲は消え、月曜のアラバマは晴れ。レースはドライコンディションでスタートしたが、ゴール前20分でまたもや雨が降り出した。

 ここでニューガーデンは早々にウェットタイヤに交換。一方、ブルデー、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)、ハンター-レイという大ベテランの元チャンピオンたちがスリックタイヤで走り続けるというギャンブルに出た。しかし、雨は強まってニューガーデンが完勝でシーズン2勝目。2位はハンター-レイ、3位には状況判断が結果的に正解だったジェイムズ・ヒンチクリフ(シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)が入賞した。

 琢磨は月曜のスタートと同じ8位でゴールした。燃費をセーブして1ストップで走り切る作戦に出たが、それが外れてしまった。

 結果的に月曜の戦いでは、2ストップでスピードを追求し、早めにウェットタイヤへと換える作戦が正解だった。雨に速い琢磨がその選択をしていればと考えると、惜しいレースとなってしまった。