「必ず人間の身体っていうのは、ニュートラルに戻さなきゃいけない――」。 スポーツ整体「廣戸道場」を主宰し、プロアスリー…

 「必ず人間の身体っていうのは、ニュートラルに戻さなきゃいけない――」。

 スポーツ整体「廣戸道場」を主宰し、プロアスリートから、少年少女、高齢者、文化人まで、ありとあらゆる方々の身体コンディショニングを、まさに現場で見てきた“身体のプロフェッショナル”廣戸聡一さん。廣戸さんは、自身の数々の経験をもとに、身体の取扱説明書とも呼べる「4スタンス理論」を提唱していることでも知られています。

 そこで今回、その「4スタンス理論」に並々ならぬ興味を持つ、ひとりのアーティストが本企画に参戦。ヒップホップユニット「HOME MADE 家族」のMCとして多くのヒット曲を世に送り出し、現在はソロアーティストとして活躍するKUROさんが「音楽家の身体論」をテーマに、廣戸さんへロングインタビューを敢行しました。

 知っているようで知らない、身体のメカニズム……。好奇心旺盛なKUROさんが実際に廣戸さんのレクチャーを受けながら、その不思議な世界に迫ってくれました(MELOS編集部)。

<Interview & Text:KURO>

まずは身体の「軸」を実感することから

▼KURO▼

 ある先生の教え方ではうまくいったのに、別の先生に教えてもらったらパフォーマンスが落ちた、またはシックリくるかこないかで自分にはこのスポーツは向いていないと早合点した経験はないだろうか。ヒトには、性別・年齢問わず、誰もが同じように動く万人共通の動き方があるという。 

 ただし、しゃがむという動作を1つとっても最初に腰を曲げる人、最初に膝を曲げる人で目的は同じでも“入り方”が変わってくる。これらすべての基本となっているのが「軸」であり、その軸を中心にヒトは大きく4つのパターンに分かれるのだそうだ。それが今回、ご縁があってお会いした廣戸聡一先生が提唱する「4スタンス理論」。まずは、百聞は一見にしかず。自分で体感することにした。

▲KUROさん(左)と廣戸さん(右)

廣戸聡一(以下、廣戸):じゃあ、さっそくちょっとやってみましょうか。ここに滑る布をご用意しました。よく滑ります。適当に、この布の上に立って下さい。

KURO:適当に。

廣戸:で、僕のほうを向いて立っておいて下さいね。適当に立ってもらいました。いきますよ。こう!(勢いよく布を引く)

KURO:おお〜。(バランスを崩して転けそうになる)

廣戸:じゃあ、もう一回。今度は僕が誘導します。単純です。足の、この拇指球です。親指の付け根同士、それからこの内側のくるぶし同士ですね。ここに自分の指が2本分ぐらい、隙間が空くように立っていただいて。

KURO:わかりました。

廣戸:そうすると、かかととつま先を結んだアーチ、小指側を結んだアーチ、それから足の真ん中あたりを結んだアーチって三角形の曲線が3つ揃った。ここ、凹んでいる足の面のところがすごく重要なのね。今、この足幅にすると、左足のアーチの土踏まずの面、曲線の半円の面と、右足の半円の面が合って、真ん中に丸く穴が空いて見えます。

KURO:そうですね。ドームになっています。

廣戸:そう、足の裏のドーム、土踏まずのドームですね。この足の裏の直径が、実は皆さんの頭蓋骨の、(首と頭蓋骨を繋ぐ辺りを指して)この直径です。

KURO:ホントですか?

廣戸:頭蓋骨の底って円になっているんですよ。その円の直径と同じぐらいになる。

KURO:人間の身体って、よく設計されていますね(笑)。

廣戸:では、布の上に再び乗っていただきました。頭というのは、絶対に水平と垂直でいたい。それが一番“安心して集中できる状況”。さっきはそれが崩されたから転けそうになったのですね。それが、今(頭が)乗っているなと思ったら動かない。(先ほどと同じ力で布をサッと引く)

KURO:あ、ほんとだ。(ビクともせず立つ)

廣戸:ほら。

KURO:動かない。

一同:ええ~!

KURO:動かない!

廣戸:動かないでしょ? 僕がこうやって寄りかかろうとしても、動かない。

一同:すげえ~!

KURO:すごいですね。

廣戸:でも、ええ~!? って感じでしょ? だって何にもしてないから。だから、それぐらい、脳って勝手にやってくれるの。

KURO:ぜんぜん力入れてないです。

廣戸:だから、この状態だったら、好きなように動いても。

KURO:ああ、ぶれない?

廣戸:何をやってもいいの。

KURO:これが、一番良い、美しい姿。

廣戸:一番“普通”ってこと。

KURO:そうか。ということは、これ電車の中でも、ブレずに立っていられますよね。

廣戸:そう。演歌歌手の方ならいいかもしれないけど、ずっとこう直立不動で、リズムだけ取るっていうのも難しいじゃないですか。

KURO:はい。

廣戸:だけど、アスリートやアーティストは、このトップ・オン・ドーム(首の頭、頭蓋底の幅)っていうのを実際に、躍動して動かさなきゃいけないわけですよね。例えば、野球のバッターの場合、バットを持ってバッターボックスに入った時に、足で土をならしたりしているでしょ。実は僕が指導している選手には、バッターボックスの前で、一旦、立ってもらっているんです。

KURO:さっきみたいに?

廣戸:そう。身体の真ん中でバット持ってもらって。これは左バッターの場合ですが、まずは、頭の半分を左足の土踏まずの上に乗せたと思って。それで、バットをベースで叩いたり、ピッチャーのほうにバットを向けたり、そんなことやっている間に、右足側の土踏まずの上に、自分の頭を乗せたって思ってくれると。そうすることで、足を開いた幅のなかで常に動けるようになるんですね。

KURO:なるほど、なるほど。ああ、これは広がるなぁ。ダンスにも使えますし。

廣戸:僕らのところには、そういうダンサーの人たちも、レッスンに来ますよ。元世界チャンピオンも来ています。

KURO:これってまさに身体の軸ですよね。日本では、よく「軸」って言うじゃないですか。僕、アメリカでの生活が少し長いんですが、あんまり「軸」って聞いたことないんですよね。

廣戸:ないですよね。これ、日本特有だと思うんです。僕が海外で、この軸の説明をするのに、その土地の、その国の言葉で普通に訳すと通じない。要するに、物理学的な軸になっちゃうのね。アクシスとかピボットとかっていうような、要は真ん中のここらへんでしょっていう話になっちゃうんだけど、人間が持っている軸って違う感覚じゃないですか。だから、どういう言葉が適切なのかっていうのを、それぞれの国の言葉の堪能な人たちと会議させてもらったりしたんですけど、結局、この軸を説明する時に、「JIKU」(ジク)っていうことで解決しました(笑)。

KURO:なるほど(笑)。

廣戸:要するに、彼らにとっては、文化背景がないから、「JIKU」って言われたほうが理解できるんだけど、それを自分たちの知っているワードにしようとすると、んん~? ってなっちゃう。それで、「JIKU」って言って。

KURO:新しく意味を与えたほうがいい、と。

廣戸:そうそう。要は、こういうことが、“骨格”ってことですよね。骨格の意味から導き出せるのが軸。そしてその骨格をどう動かすかというところに特色が出ちゃう。それが4つに分かれるんです。だから軸の利用の仕方に若干の差があるから、「4スタンス理論」は、「4軸理論」と言ってもいい。

「4スタンス理論」が形成されたきっかけとは?

▼KURO▼

 昔からスポーツにしろ、芸能にしろ、技術を体得する上で「軸」の存在とその重要性は問われてきたが、具体的に意識できたためしがなかった。しかし、こうして自分の「軸」を実際に体感したことで、僕は俄然4スタンス理論に興味が湧いた。

KURO:すごくおもしろい視点だと思いました。どのようなきっかけで、この「4スタンス理論」を発見されたのでしょうか。

廣戸:小学生の頃にいろんな習い事をさせてもらっていて、どこかに習い事に行くと、一番初めに「こういうことが基本だから、この基本はちゃんとやりなさい」と言われますよね。その「基本」というワードが日本人の習い事にはけっこう多くて。もっともだろうと、子どもながらに思うのですが、ただ、習ってみるとその基本となるものがジャンルによってブレるわけです。極端に言えば、あるところだとやっちゃいけないと言われたものが、別のところではやらなきゃいけないことだったりして、そこで困惑していたんです。逆にうまくいっている習い事も、先生が代わると急に、「え? そんなふうに聞いてないんだけど」っていうところで。

KURO:はい。

廣戸:性根から負けず嫌いだったものですから、結果を求めていくっていう形をしていた時に、「どうもこの先生とは俺、合わないかもしれない」とか「憧れている先輩の動きだけど、どうやってもできないな」ということがあって。人にはタイプというものがあるのではないかというところに行き着いたのが、10歳ぐらいですね。

KURO:へー、けっこう早い段階で。

廣戸:そこから、いろんな人を見ていると、特性というか、何か構えた時に、前足になんとなく軸線が見える人と、後ろにタメて軸線を持っている人と分かれてきて、どうやっても僕は前側に軸線を持っていくことができなくて。あ、なんかこんなんで二分されるんだなと。そういう人の動きというのを常日頃見るようになって、18〜19歳頃に、どうもおおまかに4つのパターンに分かれるんじゃないかなっていうようなところに行き着いたんです。

KURO:これは後天的なものなのでしょうか。例えば、左手だった人が右手に変わって、それによってスタンスが変わってきたりとかするのでしょうか。

廣戸:良い指摘ですね(笑)。利き手っていうのは、右投げ左打ちとか、ボクシングでも両サイドで構えたりとかっていうこともできて、利き手度数というものがあるんですよ。だから訓練をしていくと、ある程度コントロールができるんですね。だけど、「利き目」っていうのは変えようがない。根性じゃどうしようもできないから。だから基本的にはそちらの方に含まれる身体の特性ではないかと思ったりするんです。

KURO:なるほど。

廣戸:僕たちって「意識的にこうやって努力しましょう」とか、「こうやって身体を使いましょう、そこを意識して」と言われたりするんだけど、実はこれが現代医学やスポーツ科学だと、ちょっと無理な世界でもあるんです。要するに、自分の頭、自分の骨格が今どういう座標であるか、位置関係でフォーメーションされているかってことを、全身の協応という感覚。“協同して応じる”感覚ですね。それで、“自分の形がちゃんと良い形で網羅されているかどうか”ってことを感じるってことが、準備体勢。これがルーティンっていうものなんです。そこがこの骨格学っていうのかな、この身体学の一番おもしろいところだなと思うんです。

音楽の現場にも浸透してほしい

▼KURO▼

 身体は限りなく意識を無意識にさせていくこと。この話は音楽を生業にしている自分にも大変興味深かった。例えば、楽器を弾くとき、歌を唄うとき、思えばその動作の一つ一つに準備体勢というものが無意識の内にある。そしてあるときからそれがルーティン化されていく。そのどれかが少しでも欠けたり崩れたりしたとき―—。つまり軸がブレると、途端に平常心を失い、パフォーマンスは心もとなくなる。だが、もしも自分の「4スタンス」を知り、その特性を掴むことができれば、本来の力点に瞬時にまた立ち返ることができるかもしれない。

KURO:この理論は音楽の現場でも役に立ちそうですね。音楽の現場にもっとこの理論が浸透するといいなと思ったのは、リズムを裏で取っている人と、すごく走ってしまう人間に分かれるんじゃないのかなと感じていて。

僕は、裏でリズムを取ることに憧れるんです。外国人、特に黒人はみんな、リズムをそうやって取るので。そういうのを、自分がまずどっちなのか。まれに後ろで取ってるアーティストもいるんですけどね。それを知ってどう改善していくのかっていうのを習得することが、けっこう勉強になるんじゃないかって感じました。

廣戸:僕は、スポーツでもジャンルは問わないんですが、結局はどこに表現をおくかっていうだけの話ですよ。バットをヴァイオリンに持ち替えたり、ゴルフクラブをギターに持ち替えたりするだけのこと。たとえば、スポーツの練習中に「声を出そう」って呼びかけますが、指導者が何十人もいる選手の声を聞き分けて状態を知るってわけじゃありません。しっかりと声が出ているということは、その選手の構えや動きの状態が良いってこと。逆に声が出ていない選手は、調子が悪いかもしれない。声をしっかり出すためには、身体の形状も良いほうにもっていかないといけない。だから選手に「声を出せ」と呼びかける。楽器も同じで、身体が良い形じゃないと優れたパフォーマンスはできない。身体も含めて楽器なんです。こんな研究も始めて、はや十数年になりますよ。

KURO:もう始まっているのですね。

廣戸:実際に僕のクライアントで、十数年前に手を痛めたために、楽器は諦めた方がいらっしゃいます。でも、その後、治療に来てくれて治ったことで、いまだに元気よく楽器を弾いて下さったり、ピアノを弾いて下さったりする方がおられるので、そういう人たちが、その後継者の人たちをどうやって育てるかっていうことも含めて、なるべく音楽を楽しめるように、難しく考えない身体で表現するってことが大事かなと思います。テクニックじゃない前の段階の、その前段を普及してもらいたいってことも含めて、そういった研究会っていうのを発足させて現在に至ります。

▼KURO▼

 やはり自分の特性を知ることは、パフォーマンスに劇的な効果がありそうだ。すでに有名な国際ピアノコンクールの青少年部門では4スタンス理論をトレーニングした子どもたちが3人も入賞し、うち1人は1位を取ってしまったという。おもしろいのは、彼らがみんな舞台に上がる前に一度正しい姿勢を取ってから演奏に入るので、遠目で見ても一発で自分の生徒だと分かるのだそうだ。今後は、4スタンス理論が及ぼす音楽での効果をさらに研究するために『4スタンス音楽協会』なるものを発足させて、今まさにエビデンスを集めている最中だという。2018年3月初旬にFacebookで立ち上げ、会員を募集し、春にセミナーが開催されたという。これは今後の自分にとってもぜひとも注目したい動向である。 

[プロフィール]
廣戸聡一(ひろと・そういち)/1961年生まれ、東京都出身。スポーツ整体「廣戸道場」主宰。日常生活の動作をはじめ、スポーツ競技、文化芸能における身体動作、コンディショニング、介護、リハビリテーション、栄養摂取まで総合的に指導するアドバイザー。整体施療家として、一般クライアントからプロアスリートまで30万人を超すケア実績を誇る。ヒトの身体特性を4種類に分類する「4スタンス理論」を含む、動作における軸、個体別身体特性などを解明した総合身体理論「レッシュ理論 (REASH Theory)」を提唱している。プロスポーツ団体への総括的フィジカル・アドバイザリー契約及びアスリート個人へのパーソナルトレーニング契約を結んでいるほか、日本ゴルフツアー機構(JGTO)のアドバイザー、JOC(日本オリンピック委員会)強化スタッフ(平成22年度より)、千葉ロッテマリーンズ・アドバイザーとしても活躍。その他に、水中身体トレーニング「ハイドロ・トーン」の指導も行う。一般社団法人「レッシュ・プロジェクト」代表理事。身体コンディショニングに関する著書も多数。
【廣戸道場】http://www.h-dojo.net/
【REASH PROJECT】http://www.reash-project.net/
【4スタンス倶楽部】http://www.4stance.com/
【4スタンス音楽協会】https://www.facebook.com/4stance.music.society/

[プロフィール]
KURO/1977年生まれ、アメリカ・シカゴ出身で12歳まで在住。ミュージシャン、アーティスト。1996年、大学時代の友人だったMICRO、U-ICHIとHIP HOPユニット「HOME MADE 家族」を結成。ラップ、作詞、作曲、ハーモニカを担当。「サンキュー!!」「少年ハート」「サルビアのつぼみ」などヒット曲を多数リリース。個人としても、槇原敬之との共作や、May J.、浦田直也(AAA)、福山潤(声優)らへ歌詞提供を行うなど、作家としての評価も高い。2016年の「HOME MADE 家族」の無期限活動休止に伴い、2017年からソロプロジェクトを始動し、新バンド「eNBAND」のMCとして活動中。また読書家としても知られ、開高健、沢木耕太郎、原田宗典、David Ritz、ピーター・ギュラルニックらを愛読し、本の口コミサイト「シミルボン」で書籍レビュー連載も担当中。
【公式HP】http://www.home-made.jp/
【公式Twitter】@mckuro_1119

《取材協力:ブックパス/https://bookpass.auone.jp/》

《廣戸聡一さんの著書のご紹介》


『4スタンス理論バイブル』廣戸聡一

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<Photo:佐藤宏亮>