世界最高のスタンドオフ、ダン・カーター インタビュー(前編) 日本のラグビー界に来シーズン、とびきりのビッグスターがやってくる。 現役プレーヤーで最高のスタンドオフ、元オールブラックスのダン・カーターが来季から神戸製鋼でプレーするのだ。…

世界最高のスタンドオフ、ダン・カーター インタビュー(前編)

 日本のラグビー界に来シーズン、とびきりのビッグスターがやってくる。

 現役プレーヤーで最高のスタンドオフ、元オールブラックスのダン・カーターが来季から神戸製鋼でプレーするのだ。



元オールブラックスのダン・カーター。現在はフランスリーグ、ラシン92でプレー

 現在36歳のカーターは、これまでのキャリアでワールドラグビー年間最優秀選手賞を3度受賞、ニュージーランド代表でW杯2連覇(2011年、2015年 ※2011年大会は練習中のケガで本戦は欠場)、スーパーラグビー、トップ14など所属クラブでも多数のタイトルを獲得している。

 そして、スタンドオフとしてもっとも名誉な、テストマッチ個人通算ポイント数歴代最多記録(1598点)保持者でもある。2位はイングランドのレジェンド、ジョニー・ウィルキンソン(2014年現役引退)だが、その彼の得点数を350点以上も上回っているのだ。

 彼自身が「ラブリースポット」と呼ぶ、正確なキックを生み出すためのボール上のミートポイント、ギュッと眉を寄せてその一点を睨みつけてから、勢いよく左足を振り抜くお馴染みのキック。不可能と思われる角度や距離からでも、彼はしばしばキックを成功させてきた。2015年のW杯決勝戦、グングン追い上げてきたオーストラリアの勢いをばっさりと断ち切った、69分のあの華麗なドロップゴールを忘れられないファンも多いことだろう。

 しかし、彼のプレーの魅力は精度の高いキックだけではない。

 周囲の動きを的確に観察しつつ、巧みに相手をすり抜けるスピーディで力強いラン、勇猛果敢なタックル……彼のワンプレーから、常に攻撃が始まるのだ。

 2015年のW杯後はフランスリーグ、トップ14のラシン92に史上最高額で迎えられ、初年度でリーグ優勝に貢献。そして3年目、最後の年となる今季はリーグタイトル(4月20日現在3位)とヨーロッパチャンピオンズカップのダブル優勝に挑んでいる。

 レギュラーシーズンも大詰めの23節、強豪トゥーロンを17-13で下した試合のあと、カーターはまるでちびっこのようにペタペタと靴下姿で取材エリアに現れ、来季の日本行きへの思いを笑顔で語ってくれた。

――来季、カーター選手の姿をトップリーグで見られることを日本のファンは今からとても楽しみにしているのですが、日本でプレーすることを決めた理由は?

「僕にとって、少しチェンジが必要な時期にきていたんだ。3年間フランスで素晴らしいシーズンを過ごした。本当に楽しんだよ。でも、もう少しだけ故郷のニュージーランドに近い場所に行きたかったというのがまずあった。日本はここ(フランス)よりもずっと近いからね。

 でもそれだけじゃなくて、日本にはこれまで4回行ったことがあるんだけれど、ラグビーも含めて、スポーツがものすごく盛んな国だと感じた。それに、毎回日本に行くたびに、人々やフレンドリーで礼儀正しいカルチャーにすっかり魅了されてしまってね。今は日本で生活を始めることをとても楽しみにしているんだ!

 僕自身は代表でのキャリアには終わりを告げたけれど、日本はこれからラグビーW杯と東京オリンピック開催を控えている。一選手として、そんな国でプレーできるなんて素晴らしい機会は他にない。そのことも日本でプレーすることを選んだ理由のひとつなんだ」

――日本のラグビーについては、どのくらいご存知ですか?

「ニュージーランド人のラグビー仲間が何人も日本でプレーしていて、彼らからは、リーグのレベルも年々上がっていると聞いている。選手のレベルも含めてね。

 実際、日本代表だって、ものすごく印象的だ。2015年のW杯では南アフリカを破ったし、ここ(Uアリーナ)での試合でも、フランスと引き分けたし(2017年11月25日、 23-23)、日本が勝ってもおかしくない試合だった。日本のラグビーはどんどん強くなってきていると感じている。リーグのレベルもね。そこで自分がどこまでやれるか試してみたいんだ」

――自分を試すというのは、なんとも謙虚な発言です。むしろ日本のラグビー界に与えてくれるものをたくさんお持ちではないかと……。

「ハハハ(笑)。もう、けっこう長いことこの世界でプレーしてきたからね。そこで培った経験や知識はある。いまの僕は、そういった経験や知識を他の選手と分かち合っていきたいというところにいる。でも、まだプレーも続けたい。そして試合に出たら、毎回、持てる力を出し尽くして戦うつもりだ。

 ここフランスでもそうなんだけれど、日本でも若い選手たちと一緒にプレーするのをすごく楽しみにしているんだ。これまで自分が世界の高いレベルでプレーしてきたなかで学んできたことを伝授して、少しでも彼らの成長の役に立てたら、これほどうれしいことはない。自分の経験をチームメイトたちと共有できたら素晴らしいと思っているよ」

――神戸製鋼は、日本のラグビーファンにとって伝説的なクラブでもあります。このクラブについては何か聞いていますか?

「まだそれほどよく知っているわけではないけれど、コーチ陣のトップに就任したウェイン・スミスは、その過去の輝かしい栄光をまた取り戻そうとしていると聞いた。素晴らしい歴史を築いてきたクラブだ。でも、そんなトップクラブでありながら、近年はトロフィーから遠ざかっている。来シーズンは、その栄光を取り戻せるような充実したシーズンにしたいし、そのために僕も貢献したいと願っているよ」

(つづく)

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