レギュラーシーズン終盤のロサンゼルス・レイカーズ戦でのこと。ユタ・ジャズのルーキー、ドノバン・ミッチェル(SG)はコー…

 レギュラーシーズン終盤のロサンゼルス・レイカーズ戦でのこと。ユタ・ジャズのルーキー、ドノバン・ミッチェル(SG)はコーナーで相手からボールを奪い、前を見ると迷わずオーバーヘッドのロングパスを出した。ボールは何人かの選手の頭の上を超え、先頭を走っていたチームメイトのジョー・イングルス(SF)の手もとに絶妙にストンと収まり、イングルスはドリブルすることもなく、そのままレイアップを決めた。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。



ジャズ躍進の原動力となったルーキーのドノバン・ミッチェル

「まるで、ウェス・アンセルドかと思うようなパスだった」

 ジャズのヘッドコーチ(HC)、クイン・スナイダーは1970年代に活躍した名選手の名前を挙げて称賛した。アウトレットパスの名手だったアンセルドは、偶然ながらミッチェルにとって、ルイビル大の大先輩だ。

 ミッチェルからのロングパスを受けたイングルスは、試合後に冗談半分でこう言っていた。

「彼はすごく速くて力強いパスを出してくるから、受ける側としては手が痛くなるぐらいだ。最初のうちは、手袋をはめて受け取りたいと思っていたよ」

 一方、ミッチェルは「あのパスは僕の野球とサッカーの経歴が生かされたね。彼は完全にノーマークだった。その彼を見つけてパスを出せてよかった」と、満足そうに語った。

 子どものころ、ミッチェルはバスケットボールのほかに、野球やサッカーをこなすスポーツ万能少年だった。野球では投手とショート、サッカーではゴールキーパー。高校2年になるまで3つのスポーツで一番入れ込んでいたのは、実はバスケットボールではなく野球だった。

 今もつけている背番号の45番も、マイケル・ジョーダンがNBAを一時引退し、メジャーリーグに挑戦していたときにつけていた背番号だ。もっとも、1996年生まれのミッチェル自身は、ジョーダンの野球の試合はもちろん、バスケットボールの試合ですら見た覚えはないという。

 それでもジョーダンの番号を選んだのは、自分と同じように野球とバスケットボールをやっていた選手だったから。そして、ジョーダンといえば誰もがすぐに思い浮かべる『23』は、「みんながつけているからつまらない」という理由で選ばなかったのだという。そこに、彼なりのポリシーが感じられる。

 それにしても、今シーズンのミッチェルの活躍ぶりは目覚ましい。レギュラーシーズン79試合に出場し、そのうち71試合がスターター。平均20.5得点・3.7リバウンド・3.7アシストをマークし、フィラデルフィア・76ersのベン・シモンズ(PG)と並んでNBA新人王の有力候補だ。

 ジャズでは、昨年夏にFAでチームを去ったゴードン・ヘイワード(SF/ボストン・セルティックス)に代わり、いきなりエースとしてチームを牽引している。2月のオールスター・ウィークエンドでは、スラムダンクコンテストで優勝もしている。シーズン中に何度も失敗し、小さな壁にぶつかることはあったが、そのたびに学び、成長していった。

 たとえば、相手ディフェンスからのマークが厳しくなり、判断を誤ってターンオーバーを積み重ねてしまったこともあった。そういった失敗から、ミッチェルは味方へのパスを意識するようになり、そのための努力もしたという。

「たとえルーキーであっても、選手は選手だ」

 スナイダーHCは言う。

「同じルーキーでも、選手によって成熟度も違う。ドノバンはチャレンジに対して貪欲な選手だ。だから彼に対しては、さまざまな状況でチャレンジに直面する経験をさせるのが一番だと思った」

 ミッチェルもこう言う。

「シーズン序盤はパスよりも自分でドライブインしていき、時にクレイジーなショットも打ってしまっていた。今はもう少しゆっくりと全体を見ることで、周りで誰がノーマークになっているのか見つけることができるようになった。そのために多くの試合ビデオを見て、チームメイトがどこにいるかを研究した」

 アシスタントコーチ(AC)のアントニオ・ラングは、そうやってミッチェルが努力しているからこそ、ベテラン選手たちも喜んでルーキーの彼をエースに迎え入れたのだと言う。

「それに彼は、選手として才能あるだけでなく、人間としてもすばらしいんだ」とラングACは言う。

 実際、彼は家族思いで、チームメイトやコーチだけでなく、ファンやメディアに対してもいつも明るく、丁寧に対応する。ロッカールームでも、メディアからミッチェルについて聞かれて答えていたイングルスに向かって、「僕のことを話すよりも、あのダンクのことを話そうよ!」と、その日イングルスが珍しく決めたダンクの話題を振っていた。そうやって、周りの人たちと交流することを心から楽しんでいるようだ。

 最近、地元紙のコラムニストが少し意地悪な質問をミッチェルにぶつけたことがあった。プロ1年目から注目を集め、この先さらに人気が出てスーパースターになったら、性格も悪くなっていくんじゃないだろうか--。

 そう聞かれたミッチェルは、即答で否定した。

「それは僕のDNAではありえない。それに、そんなことしたらママから怒られるよ」