今、卓球は1つのブームになっている。日経新聞でも卓球業界の近年の活況を「ピンポノミクス」と称した記事がとりあげられた。今年の10月からはいよいよTリーグの開催が予定され、海外からも有名選手が参戦を表明している。2020年の東京五輪ではベテラ…

今、卓球は1つのブームになっている。日経新聞でも卓球業界の近年の活況を「ピンポノミクス」と称した記事がとりあげられた。今年の10月からはいよいよTリーグの開催が予定され、海外からも有名選手が参戦を表明している。2020年の東京五輪ではベテランから10代の若手選手に至るまで幅広い年齢層の選手が活躍することが期待される。

しかし、現在の人気のなかに一抹の不安を覚えるときがある。「卓球のブームが過ぎたら、卓球から離れる人が増えてしまうのではないだろうか」

ではどんな人がブームと関係なく卓球を続けているのか。

それは、卓球が「生きがい」になっている人達だ。

これまで、筆者はいくつかの卓球場に足を運んできた。そこで感じてきたことは、卓球を「生きがい」にする人達のよりどころは、街の卓球場であるということだ。15年以上続くとある卓球場で、ハチマキをした80代の男性が筆者にこう語りかけた。

「私はこの卓球場がオープンした頃から通い続けている。もう550回は通っているかな。それでも、なかなか上手くならないがね」

そう話すと、男性は、ハチマキをしめて、自分の番が回ってきた多球練習に精を出していった。



その男性が卓球に「生きがい」を見出すその卓球場は東京都杉並区の人気の町、荻窪にあった。

地下にあるその卓球場は、階段を降りる前からかけ声と沢山のピンポン球の音が鳴り響く。



荻窪の卓球場「クニヒロ卓球」



 



今回訪問したのは、「クニヒロ卓球」という都内有数の人気を誇る卓球場だ。



クニヒロ卓球代表の国広哲弥氏。

オープンは17年前。代表の国広哲弥氏が27歳の時に、杉並区上井草に卓球場を開いたのがきっかけだ。

国広氏は小学校から大学まで卓球を続けており、地元の学校で卓球コーチをやっていた。就職をきっかけにコーチ業はやめたのだが、週末にコーチに来て欲しいという人が中にはおり、細々と続けていた。



水谷隼選手とは古くからの付き合い。リオのメダルを持って道場に来たこともある。今年1月の全日本選手権では、国広氏が水谷選手のベンチコーチにも入った。

PTAの人達などに卓球を教える中で卓球を人に教える楽しさを知り、それがやがて仕事につながっていく。

ある時、元々あった民間の卓球場が閉店し、杉並区に卓球の出来る場所が無くなる危機が訪れた。そこで、元々教えていた生徒達から卓球場を作って欲しいと希望の声があり、27歳の時に卓球場を初めて開くことになった。



当日の練習の様子。休日に沢山の方が練習に来られていた。

当時は、まだ卓球の人気が低迷し、都内にも卓球場が4~5店舗しかなかった頃だという。今でこそ、卓球場は40店舗ほどになり、町中で見かける頻度も多くなったが、場所を移転しながら、「クニヒロ卓球」は15年以上続いてきた。現在では、代々木に2店舗目が始まり、少しずつ規模も大きくなってきている。

月会員制度を持たず、フルにコーチが入る

現在、「クニヒロ卓球」は定期的に通い続ける人達が毎月300人ほどいるという。

クニヒロ卓球のプログラムは、レベルに合わせた個人レッスン(1時間5100円~)と予約のいらない卓球教室(月曜、木曜、土曜)がメイン。その他に、初心者向けの金曜教室、月・木・金曜日のジュニアスクール(月謝制)がある。



丁寧なアドバイスが、初心者でも分かり易いと好評だ。

取材した当日は、午前10時〜午後12時半までの2時間半で、卓球台6台に6人のコーチが1人ずつ台に入り、それぞれに6~7人の受講者が習っていた。この卓球コーチ人材難の時代に、これだけのコーチを確保するのは容易ではないが、生徒の満足度向上のため、全ての台にコーチが入るように準備しているという。教室の間はコーチとしか打たない為、相手に気兼ねすることがないのがクニヒロ卓球の売りだ。



小学生からシニアの方まで積極的に練習に参加している。

年齢層は幅広く、小学生から上は80代まで参加されていた。これまでの最高齢は90代だという。荻窪店は、40~60代の参加が多いが、国広氏は「特に、募集する年齢層などは決めてない」という。現在は、代々木にも卓球台を2台設置した店舗を構えており、より若い層が集まるという。

「健康の為に卓球を続ける人もいれば、上達したいので練習に出ているが試合は出ない人もいる。練習中に爆笑が多くて、純粋にこの空間が好きだという人もいる。年齢やレベルは関係ありません」(国広氏)



スタッフ同士で実演を行うこともある。台ごとに練習のテーマが異なる。

教室で行う練習内容については、月単位でテーマをコーチの間で決めており、毎週2回のスタッフミーティングを開き、国広氏がスタッフに指導法の教育を行っている。

楽しいから行こうと思う、誰かの「生きがい」になれる場所

取材して気づいたのだが、「クニヒロ卓球」の練習では、参加者が爆笑する場面多い。コーチが気持ちよく盛り上げて、来ている人を楽しませようという雰囲気作りがスタッフに徹底されていると感じた。



荻窪店の会田店長。笑顔と元気がひときわ目立っていた。

国広氏は、こう語る。「楽しいから行こうと思える場所、色んな人にとって意味のある場所であり続けるようにしたい。『ここに遊びに行くのが楽しみ』『ここがあるから仕事を頑張れる』という話をウチではよく聞くのです。」

クニヒロ卓球があることが誰かの「生きがい」になることが国広氏の願いである。

卓球を生きがいにしている生徒さんたちの充実した表情から、クニヒロ卓球の人気の秘密が垣間見えた気がした。

取材・文:座間辰弘(Rallys編集部)



クニヒロ卓球 荻窪店

施設名 クニヒロ卓球 荻窪店
住所 東京都杉並区上荻1-18-13 文化ビルB1F
アクセス JR中央線 荻窪駅北口から 青梅街道を田無方面に徒歩2分
TEL 03-3393-2731
URL https://www.kunitaku.com/