全仏オープン(5月22日〜6月5日/フランス・パリ)の女子シングルス決勝前日、セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)のコーチ、パトリック・ムラトグルーは、ガルビネ・ムグルッサ(スペイン)を倒し、シュテフィ・グラフ(ドイツ)とタイ…

 全仏オープン(5月22日〜6月5日/フランス・パリ)の女子シングルス決勝前日、セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)のコーチ、パトリック・ムラトグルーは、ガルビネ・ムグルッサ(スペイン)を倒し、シュテフィ・グラフ(ドイツ)とタイ記録となる22番目のグランドスラム・タイトルを獲るために、セレナはプレーレベルを引き上げる必要があるか否か、について論議していた。

 「なぜ皆が、こうもガルビネに感銘を受けているのかわからないよ」とムラトグルー。「彼女はこれまでスラムに勝ったことがあったかい?」。 くすくすと笑いながら言った彼のコメントは、故意に軽薄に流そうとしてのものだったが、24時間後、彼には新しい答えが必要とされていた。

 ムグルッサは、初めてのグランドスラム・タイトルを勝ち獲り、セレナの22番目のグランドスラム・タイトル獲得を阻んだ。土曜日のロラン・ギャロスで、第4シードのムグルッサは、ディフェンディング・チャンピオンで世界1位のセレナを7-5 6-4で打ち破ったのだ。

 「彼女には明るい未来が待っているわ、言うまでもなく」とセレナは言った。34歳の彼女は、ムグルッサより12歳年上だ。「彼女は大きな舞台でどうプレーするべきかを知っている。そして…明らかに、どうやってグランドスラム大会に勝つかも知っている」。

 ムグルッサは、持ち前のパワフルなグラウンドストロークを使って、セレナを揺るがせ続け、一方で9本のダブルフォールトという形で現れた、自らのナーバスさと緊張の兆しを克服した。非常に印象的なことに、ムグルッサはセレナのサービスを4回ブレークしており、そのうち3回は連続でのブレークだった。

 「この日が私にとって何を意味するのか、言葉では説明できない」とムグルッサ。

 この決勝は彼女にとって、グランドスラムで2度目の決勝だった。1度目は昨年のウインブルドンで、セレナに敗れている。しかしムグルッサは今、2014年の全仏オープン2回戦と合わせると、セレナにロラン・ギャロスで2回勝っていることになる。つまり2013年から2016年までのセレナの全仏オープンは、ムグルッサに0勝2敗だが、ほかのすべての選手には勝っていて、21勝0敗なのだ。

 「鍵は何かって? 私はただ、とてもアグレッシブなテニスをするのよ」とムグルッサ。「私は思いきってショットを打ち込む、後悔なく」。

 セレナは、オープン化以降のグランドスラムのシングルス・タイトル数でグラフが持つ「22」に並ぼうとする試みを、延期させることになった。史上最多記録は、マーガレット・スミス コートが持つ「24」タイトルがある。

 セレナは、2015年のウインブルドンで優勝し、2014年全仏オープン優勝から数えると、4大会連続のグランドスラム制覇に成功し、獲得タイトル数を「21」まで伸ばした(連続グランドスラム制覇は2002-03年にも成功している)。 以降、彼女は、2015年全米オープンは準決勝でロベルタ・ビンチ(イタリア)に、2016年全豪オープンは決勝でアンジェリク・ケルバー(ドイツ)に、そして今、全仏オープンはムグルッサに敗れた。セレナがグランドスラムの決勝で続けて敗れたのは、彼女のキャリアにおいて初のことである。

 ムラトグルーは決勝のあと、グランドスラム・タイトル「22」を追うことは、セレナにとって、頭から離れない妄執のようなものではないと言った。 「彼女は、朝起きるたびにそのことを考えているわけじゃない。それは間違いないよ」と彼は言った。それからこう言い添えた。 「ただ、歴史に決して消えない跡を残すプレッシャーは、比類なきものなんだ」  セレナはまず、「信じられないようなプレーをした」と言ってムグルッサを称えた。それから「(記録を達成するため)私にできる唯一のことは、ただ、トライし続けることよ」と続けた。  ムグルッサの今大会は、実はかなり幸先の悪い形でスタートしている。彼女は世界ランク38位のアンナ カロリーナ・シュミドローバ(スロバキア)に対して、第1セットを落としてしまったのだ。しかし、ムグルッサはその試合で、見事に流れを逆転させた。彼女はボールを非常に早くとらえるテニスによって、そこから14セットを連取していくのである。  決勝は、厚い雲に覆われた空の下で始まったが、少なくともルーブル美術館を一時的に閉館にさせることになった、洪水を引き起こしたような雨はまったく降らなかった。雨が大会の日程を乱し、セレナは決勝まで4日連続でプレーすることになった。しかしセレナは、そのことを問題としなかったし、足の筋肉に問題を抱えることもなかった。  ムグルッサはコイントスに勝って、セレナに先にサービスを打たせた。サービス力のあるセレナにそれをさせるという、かなり興味深い選択だった。そして、セレナがサービスを打った最初の6ポイントのうち、ムグルッサがリターンからラリーに持ち込めたのがたった1回だったため、その決断はいっそう疑わしいものに見えたのだった。  にもかかわらず、それは結局、よい結果を生んだ。 「私は、自分が本当にいいプレーをし、ストレスをうまく管理できるのだということを、自分自身に証明してみせた」とムグルッサ。「そして、世界最高のプレーヤーの一角に対して勝つことができる、ということも」。  第1セットのムグルッサは、ラリーが10ショットか、それ以上になった6つのケースのすべてでポイントを取った。ふたりともがボールをハードヒットする中では、どんなミスも『アンフォーストエラー』と呼ぶのは不当であるように思えたほどだった。最終的にセレナは、ムグルッサよりも3本少ない、22本のアンフォーストエラーを記録した。

 ムグルッサに第1セット、第2セットでリードを与えたいくつものブレークのあと、セレナは決して挽回することはできなかった。しかし、ムグルッサが5-3から握った4つのマッチポイントは、振り払うことに成功している。しかし、5つ目のマッチポイントについてはどうすることもできなかった。ムグルッサはそのポイントを、ベースライン上に落ちる見事なロブで、ものにしたのである。  セレナは拍手を送った。ムグルッサはおそらくそのショットに驚いたのか、それとも自分がグランドスラムのチャンピオンになったことに驚いたのか、まごついたような表情で、客席のコーチや、ほかのサポーターたちのほうを向いた。そしてすぐに気づいたのか、仰向けに倒れ、テニスウェアと腕を、決して忘れることのないだろう錆色の土にまみれさせた。  「重要なポイントでいいプレーをしなければいけない、それを証明しているわ」とセレナ。「そして彼女は今日、重要なポイントで本当にいいプレーをした」。  それは、通常ならセレナの対戦相手が言う類の言葉だった。(C)AP