ノバク・ジョコビッチ(セルビア)は、またもテニスの歴史を塗り替えようとしている。彼は、まだ優勝したことのない唯一のグランドスラム、全仏オープン(5月22日〜6月5日)で4度目(2012、14、15、16年)の決勝進出を決め…

 ノバク・ジョコビッチ(セルビア)は、またもテニスの歴史を塗り替えようとしている。彼は、まだ優勝したことのない唯一のグランドスラム、全仏オープン(5月22日〜6月5日)で4度目(2012、14、15、16年)の決勝進出を決めた。

 彼にとってこの全仏オープンには、生涯グランドスラム(すべてのグランドスラムで優勝すること)を達成しようとする試みに加え、より稀な記録の達成もかかっている。それは4つのグランドスラムを連続で制すること――この半世紀に誰も達成できていない偉業だ。

 雨にたたられたロラン・ギャロスで、4日連続でコートに立ったジョコビッチ。金曜日の準決勝で第13シードのドミニク・ティーム(オーストリア)を6-2 6-1 6-4で下し、大急ぎでこの試合を終わらせた。

 「今日の試合は、ここまでで最高のパフォーマンスだった」とジョコビッチ。12番目のグランドスラム・タイトル獲得へ、また一歩近づいた。

 彼にとって大歓迎の休息日のあとの日曜日に、彼は世界2位のアンディ・マレー(イギリス)と決勝を戦う。

 マレーは準決勝で、ディフェンディング・チャンピオンで第3シードのスタン・ワウリンカ(スイス)を6-4 6-2 4-6 6-2で退け、1937年以来79年ぶりに全仏オープンの決勝に進んだイギリス人選手となった。

 「非常に誇りに思う」とマレー。試合後の彼はオンコート・インタビューの間、声を震わせていた。「ここで決勝にたどり着くとは、決して予想していなかった」。

 世界1位のジョコビッチ、2位のマレー。どちらが勝っても全仏初優勝ということだ。

 マレーはこれまで、全仏オープンでは3度準決勝で敗れており、その中には一年前の、ジョコビッチに対する5セットマッチの敗戦(3-6 3-6 7-5 7-5 1-6)も含まれる。

 一方ジョコビッチは全仏の決勝を3度戦い、そのすべてで敗れてきた。2012年と2014年はラファエル・ナダル(スペイン)に敗れ、2015年はワウリンカに敗れた。いずれの試合も4セットで終わっている。とりわけ、ワウリンカに敗れた2015年の全仏決勝(6-4 4-6 3-6 4-6)は、ジョコビッチにとってグランドスラムでのもっとも新しい黒星だ。

 2012年のジョコビッチは今の彼と同じように、グランドスラムで27連勝していた。今回それを「28」まで伸ばすと、彼は昨年のグラスコートのウィンブルドンから始まり、ハードコートの全米オープン、今季のハードコートの全豪オープンと3大会連続での優勝に、クレーコートの全仏オープン優勝を加えて、四大大会連続制覇という完全勝利を遂げることになる。

 「ノバクは言うまでもなく、すべてのサーフェスで素晴らしいプレーをする」とマレーは言う。  全豪、全仏、ウィンブルドン、全米のタイトルを連続で獲得した最後の男子プレーヤーは、1969年のロッド・レーバー(オーストラリア)まで遡る。レーバーはキャリアの過程で、四大大会の4つのトロフィーのすべてを収集することに成功した7人の男子プレーヤーの一人でもある。そこにはジョコビッチと同世代のナダルと、ロジャー・フェデラー(スイス)も含まれる。

(1)フレッド・ペリー(イギリス)(2)ドン・バッジ(アメリカ)※年間グランドスラム1938年達成(3)ロッド・レーバー(オーストラリア)※年間グランドスラム1962、68年達成(4)ロイ・エマーソン(オーストラリア)(5)アンドレ・アガシ(アメリカ)(6)ロジャー・フェデラー(スイス)(7)ラファエル・ナダル(スペイン)

 ジョコビッチは、この大会でフェデラー、ナダル、そのどちらとも戦う必要はなかった。フェデラーは背中の故障のため事前に出場を取り消しており、ナダルは左手首の故障のため2回戦後に棄権したからだ。そして今、ジョコビッチの行く手に立ちはだかるのは、マレーのみとなった。  「そうだな」と29歳のジョコビッチは言った。「いま僕は、昨年の決勝以来、ずっといたいと思っていた場所に身を置いている」。

 ティームとの準決勝を1時間48分の省エネで終えて決勝進出を決めたジョコビッチは、コート上で6人のボールボーイとボールガールを集めて、お辞儀の振り付けを指導し、スザンヌ・ランラン・コートの観客の前で、一緒にお祝いのゼスチャー。観客は『オレ!』という掛け声でそれに応えた。  今週、ロラン・ギャロスを悩ませた驟雨がスケジュールを混乱させたせいで、男女シングルスの準決勝は別々のコートで同時にプレーされ、ジョコビッチとティームがプレーしたスザンヌ・ランラン・コートのチケットは20ユーロという特価で売られることになった。しかし、それがジョコビッチの言葉を借りれば「驚くべき状況、雰囲気」を生み出すことになった。  ジョコビッチは熱を帯びた雰囲気の中、自らが「新世代のリーダー」と呼ぶ22歳のティームに決して足がかりをつかむことを許さず、しっかりと自分の仕事をした。 「今日の彼はただただ、強すぎた」とティーム。「僕に言えるのは、それだけだよ」。  フィリップ・シャトリエ・コートでワウリンカと対戦したマレーはジョコビッチより苦労したが、ほんの少しだけ、という程度だった。マレーは最初の2セットで早めのブレークを果たし、第4セットも1-0とリードした。

 5セットマッチにもつれ込んだ1、2回戦のような劣勢に対処しなければならないこともなく、マレーは比較的すんなりとワウリンカを破ると、慣れ親しんだ相手に対する10度目のグランドスラム決勝に進んだ。

 マレーは5月15日、ジョコビッチは5月22日、ふたりは一週間違いで生まれ、ジュニア時代に知り合った。現在はともに29歳だ。

 日曜日に行われる試合は、彼らの34度目の対戦となる。対戦成績はジョコビッチの27勝10敗。グランドスラムでは7度目の対戦となり、ジョコビッチが4勝2敗でリードしている。マレーは全米オープンとウィンブルドンで1度ずつ勝っている。  ただしマレーは、もっとも最近の対戦でジョコビッチに勝った。先月のローマの大会、レッドクレー上でのことだ。

 「きっと多くの感動と、ベースラインからのラリーに溢れた決勝になるだろう。僕らは似たプレースタイルを持つからね」とジョコビッチ。「僕は彼のテニスを、彼は僕のテニスを熟知しているんだよ」。

(C)AP(テニスマガジン)