急転直下というべきか、遅きに失したというべきか……。サッカー日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督に対して「解任」という決断がなされた。 就任以来、ハリルホジッチ氏の志向するサッカーについては、日本の現状にそ…
急転直下というべきか、遅きに失したというべきか……。サッカー日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督に対して「解任」という決断がなされた。
就任以来、ハリルホジッチ氏の志向するサッカーについては、日本の現状にそぐわないとの指摘や批判が絶えなかった。アジア予選はなんとか突破して、W杯ロシア大会への出場は決めたものの、メンバー選考や強化試合の内容をめぐっても、本大会へ向けての期待が高まるとは言いがたい雰囲気だった。
Sportivaにおいても批判的な論調が大勢を占めたが、なかでもスポーツライター\b・杉山茂樹氏はベルギー遠征ウクライナ戦の直後に、「7日以内」と期限を切ってハリル解任を求める記事を寄稿していた。結果的には7日間よりも若干の日数は要したが、サッカー協会が重い決断をするに至った状況を確認すべく、当時の記事を再録してみたい。
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ウクライナ戦は1-2に終わった。マリ、ウクライナを仮想セネガル、仮想ポーランドに見立てて戦った2試合を1分け1敗で終えた日本。この両チームはあくまでも”仮想”で、実際の相手はこれ以上に強い。このまま本大会に突入すれば、大苦戦必至。だが、このあと本番出発前に国内で行なわれる準備の試合は、壮行試合を兼ねたガーナ戦(5月30日)に限られる。
ウクライナ戦で浮かない顔のハリルホジッチ。すでに限界は見えていた...
これほど希望の光が見えない代表チームも珍しい。試合後のインタビューでハリルホジッチは「マリ戦よりよかった。もう2、3点決めるチャンスがあった」と、強気を装ったが、日本が2、3点決めるチャンスがあったとすれば、ウクライナは5、6点決めるチャンスがあった。
無理のある理屈だ。そうした客観性に乏しい分析を恥も外聞もなく口にするハリルホジッチそのものに、なにより無理を感じる。日本代表監督への信頼感は,本番に向けて失墜した状態にある。
思い起こしたくなるのは2010年南アフリカW杯を戦った岡田ジャパンだ。現在のムードは、その時と同じ。本番に向けて、期待が持てない真っ暗な状態にあるという点で一致する。だが岡田ジャパンは本番で結果を残した。ベスト16入りを果たし、世界のファン以上に日本のファンを驚かせた。
岡田ジャパンは本番直前に、それまでの”脈絡”を無視するかのような大手術を敢行。中村俊輔を外し、本田圭佑を0トップ(1トップ)に据えるなど、布陣を変え、選手を入れ替えることで、チームを土壇場で蘇らせることに成功した。
しかし、ハリルジャパンが岡田ジャパンと同じ道を辿れそうかといえば、答えはノーだ。
岡田武史監督(当時)は、その数か月前に、解任騒動を起こしていた。代表監督をいったん「辞める」といいながら、翌日、「あれは冗談でした」と撤回。岡田さんへの信頼は、この一件で一気に失われた。岡田さんもまた、針のむしろ状態に自分が置かれていることを強く認識していた。最悪の状況に追い込まれるなかで、南アに向けて旅立っていった。
このままではマズい。なんとかしなければエラいことになる。そんな切迫感が、火事場の馬鹿力(失礼)に繋がったと言ってもいい。
いまのハリルホジッチが当時の岡田さんのような気持ちになれるか。その可能性があるかと言えばノーだ。自分の置かれた状況を客観的に分析する冷静さはないと見る。プライドの高さも災いする。記者会見等で見せる居丈高な態度を見れば、自分を客観視できていないことは一目瞭然。岡田さんのような、恥も外聞もない改革はできないと考える。
さらに、岡田ジャパンのような改造すべき箇所も、具体的に見当たらない。何を隠そう、中村俊輔をベンチに下げて本田を1トップで使えとは、その数カ月前からこちらが提案し続けてきた意見だった。
ハリルジャパンは、まさに巨大迷路から抜け出せない、にっちもさっちもいかない状態にある。
まず、サッカーの質が悪い。縦に速いサッカー、相手の裏を突くサッカーを、ハリルホジッチはモダンサッカーと勝手に称し、提唱しているが、それができているのなら、まあ問題はない。方向性に賛同できなくても、そのサッカーが機能しているなら、好みの問題で済まされるが、現実は完成にはほど遠い状態だ。
逆にその負の側面ばかりが目立つ。パスはこれまでの代表よりはるかに繋がらなくなった。ボール支配率は自ずと低下。リズムや間が取れず、展開力の低い、見映えの悪いサッカーに陥っている。
メンバー選考に計画性がないことも混乱に輪を掛ける。選手選考の経緯を見れば、一目瞭然。「そのとき調子のよい選手を選ぶ」という調子優先の選考法では、チームは形成されていかない。サッカーはチーム競技であって、個人競技ではない。マラソンやフィギュアスケートとは違う。周囲とのコンビネーション、布陣との兼ね合い、協調性など、選手起用には様々な視点が不可欠になる。そうした当たり前の追究をハリルホジッチは軽んじている。
その一方で、好みの選手は使おうとする。宇佐美貴史、原口元気は、ブンデスリーガ2部で少し活躍しただけで招集される。調子に基づく競争だとしても、必ずしもフェアに見ているわけではない点が、話をややこしくさせている。
最終的にプレーをするのは選手なので、悪く見えるのは彼らになるが、それを問題視して批判しようという気にはなれない。
キャプテン長谷部誠が中盤で致命的なミスパスを送っても、山口蛍が積極的にボールに絡もうとしなくても、植田直通がフィードをミスしても、原口元気が協調性のないプレーをしても、それは当初から予想できたことなので、選手を責める気は起きない。
これも話をややこしくさせている原因だが、すべての責任は代表監督にある。監督がそれさえも想定内だと強気を張るなら、まだ信じようとする気は残るが、実際はその逆だ。監督までも一緒になって落胆する様子を見せられると、もはや打つ手なし、と言いたくなる。
本来なら解任だ。その条件をここまで完璧に満たしているケースも珍しい。障害になるのは、本番まで2カ月半に迫っている時期になるが、言い換えればそれが唯一の問題だ。
ならば、次期監督は誰にすべきかという話も同時に持ち上がるが、これに関して言えば、誰でも構わないと言いたくなる。考えられるベストは、個人的にはハビエル・アギーレとなるが、大げさに言えば、西野朗強化委員長でも手倉森誠コーチでも、五里霧中の状態に置かれたハリルホジッチより、まだいいと思う。
いま大切なのは、巨大迷路から抜け出すことだ。カオス状態に陥っている現在の混乱を整えることが先決。監督のクビをすげ替えることが、その一番の方策になる。
そのタイミングはいま、この瞬間に限られる。最長でも1週間以内。半月後ではもう遅いと、サッカー協会をけしかけたい気分でいっぱいだ。岡田さんは続投して成功を収めたが、ハリルホジッチには無理。2匹目のドジョウは存在しない。サッカー協会の即断こそが唯一の希望。このままでは、日本代表史に汚点として残る、最悪の道を辿ることになるだろう。