「キャプテン」松田丈志の目線

 日本が伝統的に強い種目、200mバタフライにまた新たなスター誕生の予感だ。

 幌村尚(ほろむら・なお)、19歳。身長170cm、体重68kgと決して身体は大きくないし、表情にはまだあどけなさが残るが、彼の泳ぎの技術はすでに世界トップクラスといっていい。



日本選手権200mバタフライを制した幌村尚

 4月6日に行なわれた日本選手権水泳競技大会、男子200mバタフライ決勝。このレースにはリオ五輪銀メダルの坂井聖人や昨年の世界選手権銅メダリストの瀬戸大也など、実力者が揃っていた。前日の準決勝ではまだ誰も手の内を見せてないため、決勝は誰が勝つのかわからない。そんなワクワクするレースだった。

 結果は幌村が1分53秒79の自己ベストで初優勝。初めての日本代表を決めた。このタイムは昨年の世界選手権なら銅メダルに入るタイムだ。

 本人の「第3ラップを上げるように意識した」とのコメント通り、100m~150mの50mを29秒64で泳ぎ、ライバルを引き離してそのまま逃げ切った。

 幌村の持ち味は、何といっても泳ぎの技術が圧倒的に高いことだろう。バタフライにもいろいろな泳ぎ方があって、人によって様々だ。皆それぞれに持ち味と課題点がある。しかし、幌村の泳ぎはほぼ理想形に近い。バタフライを速く泳ぐ人型ロボットを作ったら、こういう泳ぎになるんじゃないか……そんな泳ぎをしている。

 競泳のパフォーマンスを決めるファクターをざっくり大きく分ければ、泳技術、パワー、持久力の3つとなる。それらが複雑に絡みあって、パフォーマンスが決まる。

 さらに技術の部分を簡単にいえば、腕や足を動かして推進力を獲得する技術と、その推進力をなるべく消さないように抵抗の少ない姿勢を作る技術がある。要はできるだけ推進力を生み出し、抵抗はなるべく減らしたいのだ。その2つの技術が合わさって、どれくらい前に進むかが決まる。幌村はその2つが高いレベルで両立できているのだ。

 幌村は手が入水して直ぐに肘が立ち、推進力を獲得しはじめるのが速い。一方で、推進力を獲得する時の姿勢が素晴らしい。腕が頭の横にあって、抵抗の少ない状態で肘が立ち始めるのだ。これは推進力を獲得するタイミングが速く、かつ抵抗の少ない姿勢も作れている、ということだ。

 兵庫県出身の幌村は高校時代まで練習量は少なかったが、その分、限られた練習のなかで技術にこだわり、高い技術を培ってきた。2017年に早稲田大学に入学してからは、トレーニング量も増え、レベルの高いライバルと競い合うことでパワーとスタミナも向上し、今回の好成績に結びついた。

 例えば、私の現役中と比べてみても、幌村の現段階でのフィジカル面でのパワーやスタミナでは、おそらく私の現役時の方が上だろう。しかし、彼の技術の高さがそれらを補い、今の高いパフォーマンスに繋がっている。

 なぜなら競泳のパフォーマンスを決める計算式は、泳技術×(パワー+持久力)だからだ。どんなにパワーとスタミナがあっても、泳技術が0だったらパフォーマンスは0なのだ。

 幌村はこれから、これまで培ってきた高い泳技術に筋力、パワー、持久力を丁寧に上乗せしていけば、まだまだ伸びていくだろう。小さい身体で世界のライバルを圧倒し、世界を驚かせてほしい。

「今夏のパンパシフィック選手権とアジア大会では金メダルを狙いたい。そして日本記録も更新したい」 

 本人もそう語っていた。どこまでいけるか楽しみだ。

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