名コーチ・伊勢孝夫の「ベンチ越しの野球学」連載●第22回 プロ野球が開幕したが、注目のルーキー・清宮幸太郎(日本ハム…
名コーチ・伊勢孝夫の「ベンチ越しの野球学」連載●第22回
プロ野球が開幕したが、注目のルーキー・清宮幸太郎(日本ハム)は二軍スタートとなった。そこでよく声に挙がるのが、ルーキーの育成についてだ。特に高卒ルーキーの場合、「二軍でじっくり鍛えるべき」という意見もあれば、「少しでも早く一軍で慣らすべき」という声もある。
かつて、ヤクルトや近鉄などで多くの打者を育ててきた伊勢孝夫氏は、「選手によって個人差があるから一概には言えない」と前置きした上で、「スーパールーキーほど育てるのが難しい」と語る。その理由を聞くと、実に意外なものだった。一体、スーパールーキーの育成は何か難しいのか。
(●第21回 打撃に悩む大谷翔平に名コーチが言う。「インコースは捨ててしまえ」>>)

開幕二軍となったロッテのルーキー・安田尚憲だが、今後の成長が楽しみだ
清宮も安田尚憲(ロッテ)も開幕を二軍で迎えた。もちろん、清宮は体調不良による大幅な調整遅れが原因だろうから、技術的な問題をとやかく言うことはできないが、まあ妥当なところだろう。
2月下旬、名護で清宮の屋外フリー打撃を見たが、まだ多くの課題があった。とはいえ、栗山(英樹)監督は、もし清宮が元気だったら、少々の調整遅れでも一軍に残していただろう。あのスイングの速さ、シャープさがあれば、二軍に置いておく必要はない。少しでも早く、一軍のピッチャーに慣れさせるというのが本筋だろう。
一方の安田は、オープン戦を含め対外試合で結果が出せなかったから、こちらも開幕二軍は仕方がない。
ただ清宮と安田では、キャンプから首脳陣の接し方がなんとも対照的だったように思う。
そもそも清宮は合同自主トレの段階で手を痛めていたが、それでもアリゾナの一軍キャンプに参加させた。帰国後も体調を崩すまでは一軍に帯同し、オープン戦にも出場。その間、さしたる結果も出せていなかったし、気になる修正ポイントも目についた。
にもかかわらず、日本ハムのコーチ陣は静観していた。彼らだって清宮の修正すべきところはわかっているはずだ。それでも何も言わないのは、おそらく「今はその時期ではない」と判断したのだろう。
逆に安田は、キャンプ早々からフォーム修正に取り組んでいた。新任の金森栄治コーチならではの、体を鋭く回転させコンパクトにバットを出すスイングを繰り返していた。ただ、このスイングはアベレージヒッターには適しているが、長距離タイプには向かないように思う。案の定と言ったら失礼だが、安田のスイングは小さくなり、高校時代に見せていた懐の深さは影を潜めてしまっていた。本来のスイング、フォームを見直す意味でも、二軍で鍛え直すことはいいことだと思う。
同じ高卒のスラッガーとしては、なんとも対照的な指導に思えたが、どちらが正しいかは簡単には言及できない。球団の指導方針もあるだろうし、外部の者が口を挟むべきことではない。いずれにしても、すべては預かっているコーチの責任になるのだ。
古い話で恐縮だが、私がヤクルトの打撃コーチをしていたとき、ひとりのスーパースターが入団してきた。長嶋一茂である。私の役割は、彼を一人前の打者に育て上げることだった。
ところが、一茂はミスター(長嶋茂雄氏)の息子ということで、キャンプ、シーズン中を問わず、多くの評論家が彼に助言をする。
ある年のキャンプでは、ある有名評論家が臨時コーチとして招かれた。だが、その評論家は2週間ほどして「こりゃダメだ」と言って帰っていった。勝手にいじられ、挙句の果てに放り出す。コーチの私としてはどうしたらいいのか……呆れるやら、腹が立つやら、やりきれない気持ちになったことを今でも覚えている。
臨時コーチでなくても、評論家のなかに”にわか指導者”がいるのは日常茶飯事である。これは選手にとって、とても迷惑なことだ。来る人来る人、言うことが違い、なかには目の前でやってみろと指図する評論家もいる。そもそも、わずか数分見ただけで、何がわかるというのか。もちろん、指摘するポイントが正しいこともあるが、若い選手、特に高卒の選手の場合、指導するにも段階というものがある。
たとえば、キャンプで打者に1回30分ほどのフリー打撃をさせることがある。30分ぶっ続けで打てば、下半身はガタガタになり、筋肉も張ってくる。そんな練習をキャンプ中に最低3回取り入れることで、下半身でバットを振る体力、感覚が身につく。
特に金属バットで育った高卒の選手は、上半身に頼ったバッティングだったため、下半身が”プロ”のそれになっていない。そんなときに評論家がきて、「下半身が使えていない」などと言ったところで意味がないのだ。
だが実際には、こうした空気の読めない評論家のアドバイスによって、スイングを狂わされる選手は多い。そういう私も評論家のひとりだが、仕事として技術論評はしても、直接、選手に口を出すことは一切ない。
このような評論家の無責任なアドバイスは論外としても、チーム内でもコーチによって考え方、指導法が違うことがある。今は打撃コーチでも2人体制のチームが多く、それぞれが自分のやり方で指導しようとする。これも選手にとっては、大変不幸な話だ。
では、どうやって若い選手を伸ばしていったらいいのか。私は”コーチ専任制”が大事だと思っている。一軍には12~13人の野手がいるが、そのうち強化指定の若手はせいぜい2~3人。だから、どのコーチが1年間、誰を指導するか決めるのだ。そしてほかのコーチは横から口を出さない。意見があれば、監督やヘッドコーチを交えたコーチミーティングで意見を言い合い、合議していく。そうすれば具体的な日々の指導も理解しあえるのではないだろうか。なにより、選手は混乱することなく、落ち着いて練習に取り組むことができるはずだ。
こうしたやり方は、何も特別なことではない。若い選手が台頭してくるチームは、実質的にひとりが担当して指導しているものだ。選手の能力を伸ばすということは決して容易ではない。だからこそ、指導する側はシンプルに接してやることが必要になるのではないだろうか。
いずれにしても、評論家たちがバッティングケージの周りに集まり、注目の若手選手をつかまえ始めたら要注意だ。それだけは何としても阻止しなければ……。