蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.15 2017-2018シーズンも終盤に入り、各地で最高峰の戦…
蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.15
2017-2018シーズンも終盤に入り、各地で最高峰の戦いが繰り広げられる欧州各国のサッカーリーグ。この企画では、世界トップの魅力、そして観戦術を目利きたちが語り合います。
サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎──。
今回のテーマは、チャンピオンズリーグ(CL)準々決勝展望。プレミアリーグ対決となるマンチェスター・シティ対リバプール、昨年のファイナルの再現となるユベントス対レアル・マドリーなど、見どころだらけの注目のカードを徹底予測します。
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――今回は、チャンピオンズリーグ準々決勝を展望していただきたいと思います。ユベントス対レアル・マドリー、セビージャ対バイエルン(以上、第1戦;4月3日)、リバプール対マンチェスター・シティ、バルセロナ対ローマ(以上、第1戦;4月4日)という4つのカードに決まりましたが、お三方はどのカードに注目していますか?

プレミア対決で注目のマンチェスター・シティのグアルディオラ監督(左)とリバプールのクロップ監督
倉敷 魅力的なカードばかりですがイングランド勢対決が目を引きますね。3チーム残ったスペイン勢に同国対決はなく2チームのイングランド勢に潰し合いをさせるなんて、UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)はこの後どんなシナリオを思い描いているのか、ペップがらみかな?なんて邪推したくなりますね(笑)。
中山 多くのイングランド人がこの抽選結果にガッカリさせられたでしょうね。特に優勝を狙える力を持つシティのファンは、苦手としているリバプールとだけは対戦したくないと思っていたのではないでしょうか。ただ、ユルゲン・クロップ(リバプール)対ペップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ)の監督対決は、世界中のサッカーファンが楽しみにしていると思いますし、このゲームは間違いなくスペクタクルになると思います。
小澤 まず、シティとしてはボールを保持して戦いたいと考えているでしょうね。逆にリバプールはオープンな展開に持ち込んで、トランジションの局面を生かしたいと考えて臨むと思います。そこで注目されるのは、クロップの狙いに対してペップがどのように封じ込めようとするのか、という点です。リバプールは序盤からハイプレスでくるでしょうから、おそらくシティはロングボールもうまく使いながらそれをかわして、リズムをつかもうとするのではないでしょうか。
現在のペップのチームは、相手の出方に合わせてリアクションもできるようになっていますし、プレミアリーグでよく見受けられるロングボールを多用するチームに対しても、セカンドボールの処理も含めたトレーニングを積んで対応できるようになっています。そういったことはバルセロナ時代はやっていなかったことですし、どんなスタイルの相手に対しても適応できるため、とても完成度が高いチームになっていると思います。
中山 僕も、チームの総合力ではシティに軍配が上がると思います。シティでのペップのサッカーはバルサ時代やバイエルン時代とも違っていて、また新しいかたちに進化を遂げている印象があります。それは、小澤さんがおっしゃるように、プレミアリーグのサッカーに適応するための工夫から生まれたのだと思います。
おそらく昨シーズンは、自分のスタイルと実際のプレミアリーグとの間にギャップがあって、それにアジャストするために試行錯誤したと思いますが、2年目の今シーズンは開幕前にサイドバックを中心に効果的な補強を行なって、しっかり態勢を整えることができました。そこにケヴィン・デ・ブライネの急成長というプラスアルファの要素なども加わって、プレミアリーグで無敵のチームになったのだと思います。
ただ、そのシティが唯一苦手としているのが、クロップ率いるリバプールでしょう。前から激しくプレスを仕掛けて、ボールを奪ったらモハメド・サラーとサディオ・マネという高速サイドアタッカーを使って速攻を仕掛けます。
さらに、中央にはロベルト・フィルミーノという柔軟性のあるセンターフォワードもいて、サラーやマネと絶妙に絡んでくるので、相手DFにとってはとてもやっかいです。そういう点で、ボールを保持することを基本としているシティは敵陣でサッカーをする時間が長いので、どうしてもリバプールの餌食になりやすい。その象徴が、シティが今シーズン唯一リーグ戦で黒星を喫した1月14日の対戦でした。
倉敷 アンフィールドのゲームは守りの固いシティにとって、全ての公式戦においての今季最多失点試合であり、4-3という激しい打ち合いの末にリバプールが勝利しました。ただ得点の取り合いに持ち込めば強いリバプールが4-1とリードしたあと、終盤にシティが2点を返し、同点で終わってもおかしくない展開でした。去年9月9日のファーストマッチはホームのシティが5-0で大勝していますが、マネが早い時間に退場した試合だったのであまり参考にならないでしょう。
シティ相手でも4点取れるリバプールの攻撃力を封じる方法はあるか? 例えば3月10日にマンチェスター・ユナイテッドが見せた戦い方はどうでしょう。モウリーニョのアプローチはリバプールのアタッカー達を攻撃センスのあるディフェンダーにマンツーマンでマークさせるもので、サラーをヤングが見事に消してみせたのは驚きでした。この戦術を採用しますかね?
「サッカーはエキサイティングでなければつまらない。エンターテインメントだ」というクロップのメッセージにペップのシティが今回の大舞台でどう向き合うか興味深いです。
中山 僕は、ペップもそれにしっかり乗っかって戦うと思いますし、そういう指導者だと見ています。だからこのリバプール戦で、「自分もサッカーのエンターテインメント性を追求している。そこはモウリーニョとは違うよ」という彼の志みたいなものを示してくれるのではないでしょうか。これは個人的な願望でもありますが、世界中のサッカーファンがこの試合を見守る中で、それこそ勝敗よりもサッカーの面白さを両チームが追求している姿を見せてほしいです。
倉敷 悩ましいのは第1戦と第2戦の間に共にダービーマッチがあることです。シティはマンチェスター・ダービーに勝てばプレミア優勝が決まる。ライバルをホームで叩いて優勝を決めるシチュエーションは何よりもファンが望む光景です。モウリーニョはあらゆる策を講じて阻止にかかるでしょうが、ペップにとって得るものは大きい。
一方、マージーサイド・ダービーをエバートンと戦うリバプールはアウェーですが、考えることはシンプルですし、メディアの騒ぎ方も比較すれば小さいでしょう。ダービーは第2戦に何かしらの影響を与えそうですね。
小澤 もちろんダービーで勝ちたい気持ちもあるでしょうけど、ペップにしてみればそこで優勝を決めなくてもいずれ決まるのは間違いないので、無理して勝負しない可能性もあるのではないでしょうか。
中山 確かにシティの選手層を考えれば、それなりにローテーションを組むこともできますしね。逆にリバプールはジョー・ゴメスとエムレ・ジャンが負傷中で出場が微妙なうえ、控えの人材にそれほど余裕はありません。
右サイドバックはトレント・アレクサンダー=アーノルドが起用されるでしょうが、中盤の3人はジョーダン・ヘンダーソン、ジョルジニオ・ワイナルドゥム、ジェイムズ・ミルナーなのか、あるいはアレックス・オックスレイド=チェンバレンやアダム・ララーナを使うのかなど、クロップが少ない駒をいかにして有効活用するのか、要注目です。
倉敷 一方シティは負傷により長期離脱しているバンジャマン・メンディが第2戦に間に合うかもしれません。故障者が相次いだ左サイドバックは本来中盤のファビアン・デルフやオレクサンドル・ジンチェンコがよくカバーしてきましたが、メンディがこのタイミングで復帰すれば良い感じのエピローグも待っていそうです。とにかく先制点ですね、シティは今季の公式戦で先制したゲームの勝率は9割を超えています。
では、次にユベントス対レアル・マドリーのプレビューです。前回、この対戦は両監督によるかなり戦術的な戦いになる、と予想したわけですが、細かいところも見ていきましょう。
国内の事情ですが、ラ・リーガのカレンダーもプレミアと同様、ダービーマッチを組んでいます。デルビ・マドリレーニョは3位アトレティコをポイント4差で追いかけるレアル・マドリーがトリノで戦った後に、中4日でホームゲームです。勝てば1ポイント差、色気も出そうな数字です。
一方のユベントスは2位ナポリに4ポイント差をつけた首位の状態で第1戦を戦い、週末はもはや降格が濃厚な最下位のベネベント戦。ベネベントが必死でもここは勝負にならないでしょう。国内の事情をおふたりはどう分析されますか?
小澤 マドリーはもう優勝の可能性はないので、そこはジダンも割り切ってローテーションを組むと思います。ジダンにとっては、CLだけが唯一残されたタイトルですし、そこに全力を注ぐでしょうね。
中山 逆にユベントスはナポリとの激しい優勝争いが続いているので、相手がどこであろうと星を落とせないという事情もあります。ただし、マドリーとの第1戦ではミラレム・ピアニッチとメディ・ベナティアというレギュラー2人を累積警告で欠いてしまううえ、3月のインターナショナルマッチウィークにブラジル代表のサンドロとクロアチア代表のマリオ・マンジュキッチが負傷してしまい、第1戦で起用できない可能性が高い。それを考えると、マッシミリアーノ・アッレグリ監督は必然的に今シーズンの基本システムである4バックを採用する可能性が高いのではないでしょうか。
逆に長期離脱していたフアン・クアドラードがミラン戦(3月31日)で復帰し、さっそくゴールを決めたことは好材料でしょう。彼の大一番での勝負強さは折り紙つきなので、ジョーカーとしては強力なカードになると思います。クアドラードが右ウイングでプレーする場合、マドリーは左サイドバックのマルセロの裏を狙われた時のカバーリングに気を使わなければいけません。
倉敷 ブッフォンという偉大なプレーヤーの去就を考えてもこのカードは見逃せません。クアドラードも帰ってきたユベントス、マドリーは無失点のゲームを作れますかね。では、残る2カードについても触れておきましょう。まず4月3日のセビージャ対バイエルンです。セビージャはエベル・バネガを出場停止で欠くなか、どのように戦うべきでしょうか。
中山 両チームの戦力、監督力、経験値と、あらゆる面から見てもバイエルン有利は否めないでしょう。しかもバイエルンは直前の国内リーグでドルトムントとの”デア・クラシカー”を6-0で粉砕するなど良いバイオリズムの中で第1戦を迎えます。
もちろん、長期離脱中のGKマヌエル・ノイアーに加え、アルトゥーロ・ビダルとキングスレイ・コマンといった重要な戦力が負傷中ですが、それを補うだけの選手層があるので大きな問題にはならないと思います。
特に最近はウイング、センターフォワード、中盤、トップ下と、複数のポジションで柔軟にプレーするトーマス・ミュラーが絶好調なので、彼がキーマンになるのではないでしょうか。当然セビージャとしてはロベルト・レバンドフスキをどう封じるかということが最大のテーマになるとは思いますが、ベテランのアリエン・ロッベンとフランク・リベリーも脅威ですし、ハメス・ロドリゲスも好調を持続しています。
もっとも、解任されたカルロ・アンチェロッティの後を引き継いだユップ・ハインケス監督こそ、セビージャにとっての難敵かもしれません。個性の強いワールドクラスを巧みに操り、ベンチワークにも隙がない百戦錬磨の名将と比べると、どうしてもヴィンチェンツォ・モンテッラは見劣りしてしまいます。
倉敷 ラモン・サンチェス・ピスファンでバルサを倒せていればスタジアムの持つ不思議な力が蘇りそうでしたけどね、バイエルンはインターナショナルマッチウィーク明けの難しいゲームもドルトムントを相手に前半だけで5得点、ゲームをあっという間に終わらせる理想的な展開でした。レバンドフスキのハットトリックなどに勢いを感じますね。最後にバルサ対ローマです。
中山 この両チームは2015-2016シーズンのグループステージで対戦していて、その時はローマのホームで1-1のドロー。カンプ・ノウでの第2戦は6-1でバルサが圧勝しています。もちろん当時とは監督も選手も異なるわけですが、ローマのエウゼビオ・ディ・フランチェスコ監督としては、せめてその時と同じように何とか第1戦で引き分け以上の結果を残し、望みをつなげたかたちで第2戦に持ち込みたいところでしょう。
とはいえ、ディ・フランチェスコが引いて守るサッカーをするとは思えません。通常ローマは4-3-3を敷いて、中盤のダニエレ・デ・ロッシ、ケヴィン・ストロートマン、ラジャ・ナインゴランの3人がゲームをコントロールするという攻撃的なサッカーを標榜しています。ただ、ナインゴランが負傷してしまったので、第1戦の中盤の構成がどのようになるのかは不透明になってしまいました。
確かに現在移籍マーケットの注目株であるブラジル代表GKアリソンは頼りになりますが、もともとローマの最終ラインはそれほど強固ではないことを考えると、やはり第1戦のポイントはシステムも含めたディ・フランチェスコの戦術になるでしょう。
注目のメッシ対策については、ディ・フランチェスコは「マンマークはつけない」と明言していて、どうやら別の方法で対策を練ることを考えているようです。果たしてその別の方法というのは何なのか、そこが気になります。
ナインゴランの不在は誤算だと思いますが、今シーズンのバルサのスタイルと照らし合わせた場合、意外とホームでの第1戦ではローマがボールを保持する展開になるのではないかと予想しています。もちろんバルサ側はローマにボールを握られても相手の隙を突いてゴールを決めるだけの力があるので、ローマにとっては難しい試合になることは間違いありませんが。
倉敷 国内リーグについてもフォローしておきますね。バルサで触れておくべき点は特になさそうですが、ローマは第1戦の直後が調子を取り戻したフィオレンティーナ戦、第2戦の後はラツィオとのローマ・ダービーです。ローマとラツィオは来季のチャンピオンズリーグの枠入りを直接争っているのでこれは熱い一戦です。
ラツィオは日程でいうとヨーロッパリーグを戦っている分、不利かもしれませんが、そうするといよいよローマは負けられない。ディ・フランチェスコはバルサ戦だけに集中できるのか? 会長やティフォージはローマと監督の采配に何を望むのか? フットボールにはいつもたくさんの切り口がありますね。個人的には一瞬ですべてを変えてしまうメッシが今度は何を見せてくれるのか、毎試合ゴールが期待できるメッシを見ているのが楽しくて仕方ありません。4試合とも素晴らしいプレーがたくさん見られるはずです。どうぞお見逃しなく!
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