蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.13 2017-2018シーズンも終盤に入り、各地で最高峰の戦…
蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.13
2017-2018シーズンも終盤に入り、各地で最高峰の戦いが繰り広げられる欧州各国のサッカーリーグ。この企画では、世界トップの魅力、そして観戦術を目利きたちが語り合います。
サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎──。
今回のテーマは、チャンピオンズリーグ(CL)、ラウンド16で注目のカードとなったパリ・サンジェルマン(パリ)対レアル・マドリード(マドリー)のレビュー。またしても勝ち上がれなかったパリはどこに問題があったのか? マドリーのジダン監督はいつまで指揮官の座にいるのか? ロナウドは好調をキープするのか? 欧州サッカー通の3人が語り合いました。
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――チャンピオンズリーグ準々決勝が近づいてきました。今回は、準々決勝の注目カードを展望していただく前に、少し時間が経過しましたがラウンド16セカンドレグのレビューをお願いします。まずは最注目カード、1-2(2試合合計2-5)に終わったパリ対マドリーから。

ヴェラッティが退場するなど、パリは攻守がかみ合わず、マドリーにホームで敗れた
倉敷 6季連続で決勝ラウンドに進出しながら6季連続でベスト8の壁を越えられず。決勝ラウンドではバルサに阻まれることの多いパリですが、今回はマドリーが立ちはだかり、前半のシュートは3本だけというスコア以上の完敗でした。ではまず中山さんにパリ側から見た率直な感想を伺います。
中山 パリが勝ち上がるためには、”奇跡”を起こすしかなかったわけですが、蓋を開けてみたら前半に1ゴールも決められませんでした。その時点で勝負は決まったといえるでしょうね。開始からギアをトップに入れてアタックを仕掛けると予想していましたが、意外とノーマルな立ち上がりでした。
これはパリ側の問題というよりも、しっかりと対策を練って、中盤をフラットにした4-4-2で臨んだマドリーの戦略勝ちだったと思います。中盤両サイドのルーカス・バスケス(右)とマルコ・アセンシオ(左)がハードワークをして、パリのサイド攻撃をしっかり抑えることができていました。
倉敷 ウナイ・エメリ監督はマドリー相手でもホームなら5勝5敗とイーブンの戦績を持っていましたから、もう少しやれるとも思いましたが、とにかく入り方が悪かったですね。
中山 僕はパリのキーマンはアンカーのチアゴ・モッタになると予想していましたが、そこがあまり機能しませんでした。通常、良い試合をしている時のパリは、モッタがボールを持った時に両センターバック、両サイドバック、インテリオールのマルコ・ヴェラッティとアドリアン・ラビオの6人が、モッタを中心にして円を描くようなポジションをとってパスコースを作ります。
そこからパリのビルドアップが始まるので、結果的に1試合で最も多くのパス本数を叩き出すのがモッタになるわけですが、この試合ではマルコ・ヴェラッティのパス本数が最多というデータが出ています。
原因はいくつか考えられますが、まずモッタ本人がケガのためにしばらく実戦を離れていて、コンディションが万全ではなかった。ハイレベルなゲーム感覚についていけず、結局セーフティな横パスとバックパスに終始してしまった印象があります。
もうひとつは、マドリーの2トップの一角に入ったカリム・ベンゼマがしっかり寄せて、モッタがボールを持った時のパスコースを限定していたことも影響していました。結局、ビルドアップの起点にズレが生じたことで、チーム全体のパス回しが滞ってしまいました。
倉敷 僕もパリ逆転の礎(いしずえ)はモッタだと思っていました。レキップ紙が翌日「マドリーとは恒星までの距離がある」という見出しを掲げましたが、距離を縮めるはずだったモッタのコンディションが万全でないにも関わらず、誰もそこをカバーしませんでした。そしてヴェラッティはイタリア人では史上最多、CL通算3度目のレッドカードで退場してしまった。
中盤が機能せず、頼みのアタッカー陣も3人でのパス交換は6回だけ。シュートは3人で5本だけ、これじゃ勝てない。マドリーは、ルーカス・バスケスとアセンシオのサイドも印象的でしたが、強烈な潰しもできるカゼミーロ、マテオ・コヴァチッチというボランチ2枚を配置したセンターが強い印象を残しました。カゼミーロに至っては56本のパスを成功させ、その成功率はなんと98%。
小澤さんは、総走行距離でも上回ったマドリーの戦いぶりをどう見ましたか?
小澤 やはりジネディーヌ・ジダン監督の采配がポイントだったと思います。もちろんトニ・クロースとルカ・モドリッチが故障明けだったこともありますが、選手の序列に惑わされることなく、勝利するためのメンバーとシステムを選択したことが勝因のひとつとして挙げられます。
第2戦では前半に失点しないことが重要なミッションだったわけですが、開始15分までは積極的に前からハイプレスを仕掛けて、相手の出鼻をくじくことができていました。試合開始直後に、カゼミーロとコヴァチッチがモッタに対して2人でプレッシャーをかけていった場面は、その象徴だったと思います。
それと、センターバックのセルヒオ・ラモスとラファエル・ヴァランの守備範囲の広さも目立っていました。特にマドリーはマルセロが高いポジションをとるので、どうしてもその裏を突かれやすいのですが、この試合ではキリアン・ムバッペとダニ・アウヴェスというパリの強力な右サイドに対して、通常より左にポジションをとっていたセルヒオ・ラモスがしっかりカバーリングして蓋をすることができていました。
その時、カゼミーロ、またはコヴァチッチが最終ラインに下がって、セルヒオ・ラモスが空けたスペースを埋めるペルムータ(カバーリングに出た選手のカバーリング)と呼ばれる戦術アクションも怠っていませんでした。
倉敷 パリの凱旋門は通過しましたが、優勝を目指す上でマドリーの守備に不安はありませんか? 結局、この試合もクリーンシートを逃しました。今シーズンはほとんどの試合で失点していて、リーガでは8試合しかクリーンシートがありません。(第29節終了時点)。存在感を見せたセルヒオ・ラモスもイエローカードをもらっています。
小澤 失点の原因として考えられることとしては、サイドを破られた時にセンターバックが早めにそのサイドに出ていくという守備の方法があると思います。たとえばアトレティコ・マドリーの場合、サイドを破られた時に基本的にはディエゴ・ゴディンとホセ・マリア・ヒメネスのセンターバックが出ていくのではなく、ボランチかサイドハーフが下がってカバーリングに出ていくという約束事があります。ただ、これはどちらが良いということではなく、あくまでも監督の好みだと思います。
そういう意味では、セルヒオ・ラモスやヴァランのようなスピードがあってカバーリングエリアが広いセンターバックがいるのであれば、僕はセンターバックがサイドに出ていくやり方がマドリーには適していると見ています。
確かにパリとの2試合でも失点しましたけど、守備面でいうと非常に締まっていましたし、このセカンドレグに関していえば、ゲームとして負けそうな気配もなく、ほとんど決定機も与えていなかったので、それほど不安要素にはなっていないように思います。
中山 マドリーの守備という点では、この試合ではカゼミーロも効いていましたね。1対1の勝負ではほとんど勝っていましたし、このレベルの試合になった時のカゼミーロの凄味をあらためて感じました。コヴァチッチとともにラビオとヴェラッティのところをしっかり抑えたうえ、嫌らしいディフェンスをしてエースのエディンソン・カバーニをイライラさせる仕事もやっていて、この試合の陰のMVPと言える仕事ぶりだったと思います。
倉敷 勝ち上がったマドリーについては、また次の機会で触れるとして、ここでは敗退してしまったパリにもう一度視点を戻しますね。4-4-2で中盤も外もがっちり走って守ったマドリーの守備を破るためには、やはり2億2000万ユーロの男、ネイマールが必要だった気がします。
彼がいないとムバッペとカバーニはいよいよ本来のプレーから遠ざかる。ムバッペからカバーニへのパスはわずか1本でした。左サイドでムバッペがチャンスを作ったのは1回だけ。エメリ監督は後半からサイドを入れ替えましたが、独りよがりなプレーも多く、このレベルでの経験がまだまだ必要なことを露呈してしまいました。
右サイドでスタートしたアンヘル・ディ・マリアには大きな期待がかかりましたが、ヴェラッティから良いタイミングでボールが入らないためにリズムが悪く、頑張ってボールに触ってはいましたが、クロスの精度を欠くなど彼の日ではありませんでした。
経験値の高い選手が揃うパリですが、チームとしてはそれを発揮できなかった。この夏4億ユーロを費やしましたが、優勝はおろかこのラウンドすら通過できなかった。勝つための経験はお金では買えないということをあらためて感じますね。
中山 今シーズン、パリがダニ・アウヴェスを獲得した意味というのはそこにあったわけですけど、その本人が大事な試合で失点につながるボールロストをしてしまいました。それと、ディ・マリアに関していえば、あまりにもパスミスが多かったですし、ボールを奪われることも多かった。
もちろん追い込まれた状況で迎えた試合だったので、選手たちに焦りはあったと思います。しかし、やはりこういう状況になった時は、ネイマールのような別格のタレントが試合を決めることが多いので、彼の不在はパリにとって想像以上に大きかったと思います。ネイマールの背中を見ながら成長しているムバッペも、頼る先輩がいなかったことで、どこに軸を置いてプレーすればいいのか迷っていたように見えました。
結局、マドリーのクリスティアーノ・ロナウドはこの2試合で3ゴールを決めていますが、こういう大事な試合を決めるのはやはり彼。同じことは、バルサのメッシにもいえます。ところがパリは、その2人と肩を並べそうなビッグネームのネイマールを手に入れながら、もっとも重要な試合で起用できなかった。これは、パリのアル・ケラフィ会長にとっても痛恨だったと思います。
倉敷 エメリのサイクルはおそらく終わりでしょう。今後はパリが誰を監督に据えるでしょうか? いろいろ噂は聞こえていますね。
中山 リーグタイトルと国内カップ戦のタイトルが残っているので、とりあえず今シーズンまではエメリが指揮を執るはずですが、シーズン終了をもって退任することは確実でしょうね。
現在、フランスメディアではチェルシーのアントニオ・コンテや、かつてパリを指揮したカルロ・アンチェロッティの名前が挙がっていますが、個人的にはパリの次期監督として最も相応しい人物は、フランス人であるジダンだと思っています。
監督としてのジダンに対する評価はフランスでも高いですし、何と言ってもフランスの英雄ですから、異論は出ないと思います。それに、彼が監督ならネイマールも監督の言うことをある程度は受け入れるでしょうし、タレント軍団をひとつにまとめてコントロールできることは間違いないでしょう。ジダンこそ、パリが抱える問題の解決方法を見つけられる数少ない人物でしょう。
倉敷 さて、前人未到のCL3連覇を目指すマドリーは準々決勝ではユベントスと対戦します。昨シーズンの決勝戦と同じカードです。この対戦のプレビューはまた改めて行なうとして、小澤さんはここまではどんな印象で注目していますか?
小澤 この対戦については、すでにスペインの「マルカ」紙では”オペラシオン・トゥリン(トリノ・オペレーション)”ということで、”オペラシオン・トリウンフォ”という人気コンサートの頭文字にかけ合わせた「O.T.」と銘打って盛り上がっています。
その中には、早くもトリノでの第1戦はパリとの第2戦と同じように、ルーカス・バスケスとアセンシオを両サイドに起用する4-4-2で戦うべきだ、という論調の記事もあります。もちろん4-3-3にして「BBC」を使うという方法もありますが、「マルカ」紙のようなマドリー寄りのメディアも、現在はこの若い2人のスペイン代表を推しています。
絶好調のクリスティアーノ・ロナウドのパートナーとしては、パリとの第2戦で守備に奔走しつつ、しっかりロナウドを生かす動きをしていたベンゼマが有力でしょうし、ジダンも今の流れを変更しないと思います。また、ユベントス相手にボールをこねくり回すサッカーをするよりも、後方にラインを作りながらしっかり守備から入って、手堅い試合を仕掛けるのではないでしょうか。当然、ユベントス側も守備から入ってくると思いますが。
中山 僕も、ユーベのマッシミリアーノ・アッレグリと、マドリーのジダンという両監督の采配に注目しています。小澤さんがおっしゃったように、ジダンには中盤フラットの4-4-2をはじめ、中盤ひし形の4-4-2、4-3-3という選択肢があります。一方のアッレグリも、4-2-3-1、4-3-3、3-1-4-2(3-5-2)といった複数のシステムを使い分けて戦うことができます。
ラウンド16のスパーズ(トッテナム)との第2戦でも、4-3-3に見せつつも、実際は左サイドバックのサンドロがスライドする変形の3-1-4-2でスタートし、逆転が必要になった後半途中には両サイドバックを順番に交代させて、完全な4バックにしてゲームの流れを変えることに成功しています。
そういう意味では、まずトリノでの第1戦で両指揮官がどんなシステムとメンバーでスタートするのか大注目ですし、その読み合いみたいなものが見逃せないポイントになりそうです。
倉敷 昨シーズンのファイナルは4-1という大差でマドリーが勝ちましたが、今回は一発勝負ではなく2試合あります。おそらくそこが重要なポイントでしょう。また次回じっくりとプレビューいたしましょう。
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