かつて、愛媛の松山商業、高知の高知商業、香川の高松商業、徳島の徳島商業といった全国制覇の実績のある「四国4商」をはじめ、四国の高校が高校野球をリードしていた時代があった。しかし、その勢力図は今や大きく書き換えられた。

 ここ数年の四国勢の戦いを見ていると、「四国は野球どころ」と言われていたことが懐かしく思える。2017年のセンバツには明徳義塾と中村(ともに高知)、帝京第五(愛媛)の3校が出場したが、いずれも初戦で敗退。そして今年のセンバツも、明徳義塾以外の英明(香川)、高知(高知)、松山聖陵(愛媛)の3校が初戦で姿を消している。




甲子園通算50勝を達成した明徳義塾の馬淵史郎監督

 長らく「四国の横綱」の座に座っているのは、馬淵史郎監督率いる明徳義塾だ。

 ある愛媛の強豪校の監督はこう言う。

「生徒には『四国の1枠は明徳に決まっとる。もうひとつか、ふたつの出場枠を取らないとセンバツには出られん。明徳と互角にやれれば、全国でもいいところまでいけるから』と言っています」

 甲子園を目指す四国の強豪は、練習試合で横綱の胸を借り、公式戦でしのぎを削る。大きな壁であり、全国レベルの基準でもある明徳義塾に勝つことを目標に、チーム作りを行なっているのだ。

 2017年秋の四国王者として明治神宮大会に乗り込んだ明徳義塾は、中央学院(千葉)、静岡(静岡)、創成館(長崎)を下して日本一になり、この春のセンバツでも優勝候補のひとつに挙げられていた。

 迎えた初戦(2回戦)の中央学院戦は、主砲の谷合悠斗のスリーランで逆転サヨナラ勝ちをおさめ、馬淵監督の甲子園50勝に花を添えた。続く3月30日の第2戦(3回戦)日本航空石川(石川)戦に勝てば、全国屈指の強豪である東海大相模(神奈川)と対戦することが決まっていた。しかし、あと3つアウトを取ればベスト8進出が決まるというところで逆転サヨナラスリーランを打たれてしまった。

 初戦は4番の劇的なホームランでサヨナラ勝ち。そして2戦目はエース・市川悠太が8回まで3安打無失点の好投を見せていただけに、試合後の馬淵監督は悔しさを滲ませていた。

「今年はチャンスと思うたけどな……」

 馬淵監督は敗因についてこう語った。

「27個目のアウトを取るまで野球はわからん。今日は打てなすぎたけど、打撃戦でも投手戦でも勝たないと上には行けない。ゲームの流れが悪かったね。9回表に1点でも入っていれば、あのまま勝ってますよ」

 明徳義塾が1-0とリードして迎えた9回表の攻撃、1アウト満塁の場面で馬淵監督が選択したサインはスクイズだった。しかし、打者がそれを見逃して得点できず、ファーストゴロでダブルプレー。追加点が入っていれば、最終回のマウンドに立つ市川のプレッシャーを軽減できたはずだった。

「でも、バッターが見逃すサインを出した監督の責任です」

「チャンスの後にピンチあり」という言葉の通り、チャンスを逃した後の9回裏にヤマ場が訪れた。日本航空石川の1番打者がライト前ヒットを放ち、続く2番打者がフォアボールを選んでノーアウト1、2塁。瞬く間にサヨナラの舞台が整った。

 日本航空石川の中村隆監督は、3番打者の原田竜聖に「バントするか?」と聞いたが、返答は「打ちます!」だった。

 馬淵監督はあの場面を「昔の高校野球やったら考えられんよね」と振り返る。

「9回裏のノーアウト1、2塁の場面でバントさせずに、3番バッターに打たせるんやもん。普通なら、バントで送って1アウト、2、3塁にするところやろうけど」

 同点のランナーを3塁に、サヨナラのランナーを2塁に進めるというのがこれまでの高校野球のセオリーだった。ところが、日本航空石川の中村監督は打たせる決断をし、原田は初球を叩いてレフトスタンドに放り込んだ。

「ダブルプレーになってもしょうがないと腹をくくったんやろうね、日本航空の監督は。3番の子はいいバッターですよ」

 攻撃でも守備でも粘り強くプレーし、相手を追い込んで自滅させるのが四国の野球だった。しかし、この試合では自らのミスで流れを渡してしまった。

「『スライダーの抜け球には注意せいよ』と言うとったんやけど……。でも、プロでも失投はあるし、失投でも抑えるときもある。それが野球の面白さ。相手のバッターが見事やったということです。サヨナラスリーランで勝って、サヨナラスリーランで負ける。自分の人生みたいですよ。また出直しです」

 ここ2年のセンバツで、四国勢は1勝7敗という厳しい結果に終わっている。四国の高校野球ファンにすれば悲しい現実だ。

 四国野球の復権はあるのか。時代の経過とともに野球のセオリーが変わり、全国の新勢力が力をつける中で、「四国の横綱」が甲子園でかつてのような強さを見せることがその足がかりになるだろう。四国勢にとって全国レベルの基準であり、目標である明徳義塾にかかる責任は、これからも重い。