€「選抜第9日」 明秀日立-大阪桐蔭  明秀日立戦で完投した大阪桐蔭・根尾=甲子園【写真提供=共同通信社】

大阪桐蔭の根尾昂投手。
生まれは岐阜県の高山のもっと北の山の中。富山県と接する辺りだ。冬は雪深く、野球はできない。その間、何をするかというとスキーをする。スキーの全国中学大会で回転競技で優勝の経歴を持つ。
 小学生の5年生で100メートル全国2位、6年生でソフトボール投げで歴代1位の88メートル92を投げたという。
 中学生の頃から野球ファンの間では知られた存在だった。高山ボーイズ所属で中学3年の非公式の全日本メンバーでアメリカ遠征をしている。146キロを計測したとか、話題にもなった。
 ボーイズで同じチームだった星稜・田中秀明(一塁コーチ)の述懐。
 「根尾はタフでメンタルが強い。小学校時代から地元飛騨では有名でした。中2春、ボーイズで初めて会った。自分がファーストで根尾とキャッチボールをしてミットの紐が切れて試合で使えなくなった」
 同じく星稜のボールボーイ・佐藤海心は「150球も投げているのに球威、球速が落ちてなかったように思う。当時、キャッチボールをしていて、リリースの瞬間、見えなくなってボールがみぞおちに当たりました」
 根尾の進学する高校はどこか、と取りざたされてもいた。
 その根尾が大阪桐蔭の3年になった。2年春から3期連続出場。リリーフでマウンドに立ち、内野も外野もこなす。打っては中軸。そして、昨年のセンバツ以来のマウンドに上がった。
甲子園では初先発になった。
そのゲームを本人ではなくて、ゲームに関わった周りの人々の証言でレポートする。

 根尾の起用は西谷浩一監督によると「コーチと話して、強力打線の明秀日立には根尾の攻めるピッチングが合うんじゃないか」と決断したという。
 「ここ数日はブルペンに入る時間を多くしました。周りも根尾でいくんかなと思っていたはず。キャッチャーの小泉が練習のブルペンで、どのピッチャーを受けに行くのかなと思ったら根尾に行ったので、感じてるなと思いました」。チームの意思統一はできていた。
 しかし、ゲーム前。西谷監督は心配もあったと言う。「いつもいい時はブルペンもいいのに、そんな感じではなくて」。
初先発の緊張、強敵という力みもあっただろう。
 「前半、スライダーでカウントを取りながら、追い込んだ時もスライダーのボール球を振らせる」(西谷監督)
ところが実はストレートが走っていた。小泉が言う。「前半、真っ直ぐが良くて、タイミングも合ってなかった」。
 西谷監督は「ベンチに帰ってくる小泉に聞いたら、スピードも上がってきたと」。
 こちらはゲーム後の橋本翔太郎コーチ。
 「今日はストレートが走っていたから、もっとストレートで押していってもよかった。ライトフライが多かったのもその証拠」
140キロ台がコンスタントに出ていた。最速147キロを2回に2球、計測していて、空振り三振にとっている。さすがに9回は130キロ台が多かったが。
手元の大雑把な集計だが、153球のうち、ストレートが2対1の割合だった。
 ライトの青地も橋下コーチと同じ証言だった。
 「根尾の状態がいい時はライトに振り遅れた打球がくるという傾向がある。4回ぐらいに打たせていくからと言われた」
ちなみにレフトフライは皆無。右バッターのライトへのフライが5本と多く、左バッターの左への内野ゴロが目立った。
 引っ張られた打球は4番の左打者の芳賀のライト前と、右打者の細川に打たれた左中間のホームランだけ。被安打4本に抑えた。
 三振は11個。変化球で取ったものが6個(5回までに4個)で、ストレートが5個だった。
 四球が9個と多かった。小泉は「ばたついてコントロールが悪かった部分はあったが、落ち着いて修正できた」。
 西谷監督は「慎重にいったのは致し方ない。四球が多く、球数も増えましたが、ランナーを背負ってから紐を結び直して、自分でリセットしたんでしょう。ほどけてないんじゃないかと思いますが」と笑った。
 最終回、ソロホームランを浴びてから、ヒットと二つの四球で2死満塁。4番を迎えたが「あそこはスライダー、スライダーで冷静に三振を取ってくれました。粘りの勝利」と褒めた。

根尾はマウンドに上がると性格が変わると言う。
 「ショートの時は冷静で優等生なんですが、マウンドだとふてぶてしく、クールに我が強くなる。下級生の頃から面白い子だなと。それがピッチャーの本能だと思うんです。自然に切り替わるんでしょうね。気持ちの強さを感じました。最後も交代しないで、根尾にかけました」
 5対1。相手の金沢監督が完敗を認める。「根尾君が大阪桐蔭に投げたとして2、3点に抑えるはず。全国トップレベルの投手を打てなかった。バットを短く持って、スイングを小さくしろと言ったが、短く持つ時点で負け。力の差を感じました」。
西谷監督は最後に言った。
「勝ち上がって行くには、根尾のピッチャーとしての存在は大きいと思います。本人も周りもわかってると思う。それを示したゲームになりました」
大阪桐蔭がベスト8に進出した。
 (文・清水岳志)