今大会も甲子園春夏通算最多勝(30日に勝って66勝)を更新する智弁和歌山・高嶋仁監督。ベンチの中央で腕を組んで仁王立ちする姿は甲子園の風物詩の一つと言っていいだろう。あの姿に多くの監督が挑んできた。今日、新たに挑んだ監督がいる。

国学院栃木の柄目(つかのめ)直人監督だ。
国学院栃木は18年ぶり4回目の出場。その時の主将で1番バッターが柄目監督だった。18年前の準決勝の相手がこの智弁和歌山だったのだ。

 高嶋監督は昔のことを問われて笑った。
 「18年前のことは忘れとった。やったことがあったんかいなと、言われて気づきました。記録を見せられて10対2で勝っとるやないですか」
 ほんとに忘れていたかどうかはわからないが、さらりと、かわした。

智弁和歌山は準優勝で、夏は全国制覇を成し遂げた。柄目監督にとっては大敗。ある意味、原点でもある。
  「自分が高校の時は自分のチームのことだけしか見えていなかった。智弁さんの野球に接して、打撃を強くすることを教えられて指導者としてやってきた」
 2009年に監督に就任して以来、智弁にどこまで近づけたか、勝てるのか、という思い出やってきた。自分の思いと選手の力が試される直接対決が実現した。

 しかし、まだまだ、大きな山だった。
智弁和歌山打線は初回から攻め立ててきた。1番の神先がいきなりヒット。野選があった無死1、2塁から今大会注目の左バッター、智弁の3番・林がレフトオーバーの大飛球。2点タイムリースリーベースになる。6番のファーストへのゴロを一塁手の須藤がベースを踏んだ後、本塁に送球。3本間に挟んだが、三塁手の島田が捕手へ悪送球してしまって、四球で出ていた一塁走者まで生還する。あっという間に4点を先制した。
 「守りの面で崩れたのが大きかった。智弁さんの球足が速かった。私がノックで強いゴロを取らしていなかったかもしれません。練習の質も上げていかないといけない」
続く2回は一死から神先がライトの頭上を越えるスリーベース。2番の西川がレフト前に弾き返した。3回にもタイムリーが出て3イニング連続得点で序盤で大勢は決まった。
後半は国学院栃木も粘った。7回に併殺崩れで1点。8回に長短打3本を絡めた攻撃ので3点を返したが、届かなかった。

 「いやぁ、悔しいですね。勝つつもりできましたので」と柄目監督は目を充血させて第一声を漏らした。
 「智弁さんの強打の圧力、集中力は伝統的にありました。でも、決して遠くない存在だと思います。付け込めなかったですが隙はあった。隙を強打で覆い尽くしていたところは勉強になりました。出直したい」

 ゲーム中は仁王立ちの監督と相対した。
 「仁王立ちされて、心の感情の波が全くない。それが選手たちに伝わってるなと。まだまだ高嶋先生のように成長しないといけないなと感じました。監督の差だと思います」

 かつての柄目主将は当時、仲間を鼓舞して引っ張った。今でも精神面の強さを求める。
  「智弁さんのように一人一人の力がある相手には、初球から積極的に行く、立ち向かう気持ちがないと。全国でやるときは気持ちの強さが大事。練習で心を込めてしっかりやってきた者が結果を出すし、してないのはビビるし。練習の成果が出るんだと」

それでも収穫もあった。
 「宮はいつも通り、大舞台でも投げてくれたと思います。キャッチャーの大久保は水澤、渡邉、宮の3人のピッチャーをよくリードしていた。周りを見ていたし、相手の監督まで見ている。レベルの高いキャッチャーに成長してきている。夏まで大エースを作りたい」

栃木県には難敵、作新学院が待っている。
 「作新さんの空気感はまた違う。大舞台でつかんだ自信と経験が生きるかどうか、夏にかかっている。このチームはもっと強くなって行く可能性を持っています。練習がまだまだ甘いと感じたし、彼らも感じて欲しかった。今のままじゃ、作新には勝てないです」

「もちろん、いつか智弁さんにリベンジしたいです」
 再び甲子園で挑戦するためには、作新学院を倒さないといけない。
(文・清水岳志)