大阪桐蔭の試合が終わると、甲子園球場内の控室へと戻ってきた”逸材”たちを新聞、テレビ、雑誌など多くのメディアが取り囲む。

 根尾昂(あきら)、藤原恭大(きょうた)、柿木蓮といった看板選手が鈴なりの報道陣を前に堂々と受け答えする。そんな傍らで、所在なげにたたずんでいたのが山田健太だった。



昨年からレギュラーとして活躍する大阪桐蔭・山田健太

 3月26日の伊万里(佐賀)との初戦を終えた直後、筆者と1対1で向き合った山田は大勢の報道陣に囲まれる根尾や藤原に視線をやりながら、こう語った。

「今はこんな感じですけど(笑)、勝ち進んでいくなかで大事な場面で1本打って、注目してもらえればいいかなと思います」

 7番・セカンド--。それが山田に与えられた役割だ。お世辞にもチームの中核とは呼べない立場で、多少結果を残したくらいでは多くのメディアが食いつかないのも無理はない。だが、そんな山田のポテンシャルに注目しているプロスカウトも多いのだ。

 山田は身長183センチ、体重83キロという大型選手ながら、機敏な動きが求められるセカンドをこなす。昨春センバツで打率.571、1本塁打と大爆発し、優勝に貢献したことを鮮明に覚えている高校野球ファンも多いに違いない。

 長打力のある右打ちの内野手はプロ側の需要が高いだけに、今秋までにアピールできればドラフト指名を受ける可能性も十分あるだろう。もし根尾や藤原が同じチームにいなかったら、もっとスポットライトを浴びていてもおかしくない存在だ。

 今年の大阪桐蔭の最上級生は、例年にもまして有望選手が集まった。そのためか、有望選手の代表格である藤原は1年前にこんなことを言っていた。

「みんな『オレが、オレが!』という気持ちが強過ぎて、今のところ同期はまとまっていませんね(笑)」

 藤原や主将の中川卓也ら、アクの強いメンバーが強烈に自己主張するなか、山田は自虐交じりに「自分は控えめな方だと思います」と自己分析する。根尾や藤原が脚光を浴びることについて聞いても、「周りにいい選手はいますけど、チームのために個人の欲を消して自分の役割をまっとうしたいです」と優等生発言が返ってくる。

 だが、こうした姿勢こそ大阪桐蔭の強さの象徴でもある。藤原が「まとまっていない」と語ってから1年。チームスローガンの「一球同心(いっきゅうどうしん)」を体現する選手たちが、今年も甲子園球場を舞台に躍動している。

 山田は言う。

「大阪桐蔭の背番号をもらっている以上、レギュラーも2ケタ番号の選手も技術が高くて当然だと思っています。そんな選手たちが『チームバッティングをしろ』と言われれば誰でもできる。できて当たり前という雰囲気がチームにあります」

 才能あふれる選手が集まり、チームとしてまとまる。これで強くならないはずがないが、見落とされがちなのは山田が言うように「高い技術」という裏づけがあることだ。西谷浩一監督ら指導陣による、選手の個性に応じた技術指導があるからこそ、大阪桐蔭の選手は高いポテンシャルを開花させていく。

 今冬、山田は打撃フォームの改良に取り組んできた。

「前まではグリップを高い位置に置いていたんですけど、橋本(翔太郎)コーチのアドバイスでトップの近くに置くようにしました。できるだけスムーズにバットが出るようにしようと。バットの芯で捉えられる確率が上がりました」

 大阪桐蔭といえばバットのヘッドを巧みに使って強烈な打球を放つイメージが強い。その点については、山田はこのように理解している。

「西谷先生から『インパクトを大事にしろ』と言われています。でも、余計な力が入っていてはヘッドが使えないので、いかに抜いた状態でボールに力を伝えられるかを考えています。ヘッドをしならせるイメージですね」

 山田の高校通算本塁打は15本(3月28日現在)。そのうちの3本は、今春の対外試合解禁後の8試合で放ったものだ。オフに取り組んだウエイトトレーニングの成果もあり、「下半身を使って打つ」という打法に手応えをつかみつつある。

 また、本人が「才能はないけど頑張りたい」と苦笑するセカンド守備も、着々と成長を見せている。中学時代は主にレフトを守っており、セカンドは高校で初めて経験し、一から取り組んだ。

「大阪桐蔭のノックは中学までとスピード感が全然違うので、最初は『こんな先輩みたいになれるのかな?』と思いました。毎日やっていくうちにスピードに慣れてきた感じです。セカンドは脚力が必要な大事なポジションなので、1歩目の動きを大切にしています」

 日頃から身近で山田を指導している橋本コーチは、「課題は全部」と辛口ながらも「だからこそ伸びる余地があって楽しみです」と山田の高い潜在能力に期待する。そして、本人は「控えめ」と語る性格についても、橋本コーチは闘争心がないわけではないと強調する。

「いろんな性格の選手がいて、藤原や中川なんかはその負けん気が表に出るタイプなんですけど、山田はただ表に出ないだけで。みんな負けん気は強いですよ!」

 日本屈指のタレント軍団で内なる闘志を燃やす大器が、満天下にその実力を示す日はそう遠くないうちに訪れるはずだ。