西海岸のインディアンウェルズからフロリダ半島のマイアミにかけて、現1位のシモナ・ハレプ(ルーマニア)を含む4人の”世界1位経験者”を破った大坂なおみの連勝街道は、マイアミ・オープンの2回戦でついに途絶え、「8」…

 西海岸のインディアンウェルズからフロリダ半島のマイアミにかけて、現1位のシモナ・ハレプ(ルーマニア)を含む4人の”世界1位経験者”を破った大坂なおみの連勝街道は、マイアミ・オープンの2回戦でついに途絶え、「8」で一旦の休止を迎えた。



マイアミ・オープン2回戦で対戦したエリナ・スビトリナ(右)と大坂なおみ(左)

 幼いころから対戦の日を夢見続けた、セリーナ・ウィリアムズ(アメリカ)を破ったわずか2日後――。対戦成績2勝2敗のエリナ・スビトリナ(ウクライナ)に敗れた大坂は、「今朝から吐き気がして、体調が悪かった」ことを後に明かした。

 この3週間、過去に経験したことがないほどにハイレベルな試合を立て続けに戦い、周囲からの注視や重圧にさらされてきた彼女が、本人も気づかぬうちに疲弊していたのは想像に難くない。それでも「セリーナに勝った次の試合で棄権するわけにはいかない」とコートに立ち、最後まで世界4位相手に戦い抜いたことを、彼女は「ハッピーに思う」と言った。

 体調が万全でなかったとはいえ、スビトリナ戦の大坂のプレーが悪かったかと言えば、必ずしもそうではない。試合を通じて20本のウイナーを叩き込み、手にしたブレークポイントも6本を数えた。

 ただ、その好機を1度しか生かせなかった大坂に対し、スビトリナは9度のチャンスのうち4つをブレークにつなげている。エラーの総数は大坂が31で、スビトリナはわずか13。強風がアリーナ上空を吹き抜けるなどコンディションも難しいなかで、いち早く環境に適応し、勝利への道筋を見つけたのが、3歳年長の世界4位だった。

 試合後の大坂は、この日の勝者を「ツアーでもっとも安定した選手のひとり」だと評した。「安定感」は今季の大坂が幾度も口にしてきた課題であり、そこに取り組んだ成果こそが今回、彼女に8つの連勝をもたらした最大の要因でもある。

 彼女がここで言う「安定感」とは、ひとつの試合のみならず、1〜2週間の大会期間中を……ひいては10ヵ月に及ぶツアーを通して継続することを指す。その意味でも今季すでに2大会で優勝し、この1年間トップ10に居続けるスビトリナは、確かに現在もっとも安定している選手だと言えるだろう。

 ランキングも自己最高の22位に達した今、大坂がこの先「世界1位」と「グランドスラム優勝」の夢に近づくために必要なのも、体調管理も含めた安定感の向上だ。大坂のひと足先を似た歩幅で歩むスビトリナは、自身がいかにして「安定感」を手にしたかを、次のように説明した。

「私はテニスキャリアだけでなく、育ってきた家庭環境のなかで常に両親から『焦ってはいけない。一段ずつ階段を上がっていきなさい』と言われてきた。その考え方こそが、安定感のカギだと思う。

 困難な状況に陥ったときでも、その原因を細かく分析し、ひとつひとつクリアしながら先に進むことを心がけてきた。同時に、自分にプレッシャーをかけすぎないこと。いいプレーをするチャンスは、毎週訪れるのだから」

 スビトリナの「敗因を分析し、ひとつずつクリアしながら先に進む」姿勢は、今回の大坂戦でも存分に発揮されていただろう。大坂は2016年、スビトリナに2連勝したが、そこからは今回を含めて2連敗中。その理由のひとつを大坂は、「彼女は対戦するたびにサーブがよくなっている」点に見出した。

 またマイアミでの対戦では、スビトリナは大坂のファーストサーブが入ったときですら、40%の高確率でポイントを手にしている。この点に関してもスビトリナは、「過去の対戦経験から、彼女のサーブがどこに来て、自分は何をすべきかがある程度わかっていた。問題は、どれだけ早く慣れることができるかだったが、足を使って適応し、常にコースに入ることができていた」と言った。

 大坂にとって、今後は自らが先に進むだけでなく、張り巡らされる包囲網にいかに対応していくかも、安定した結果を残すうえでのカギになる。

 新たなステージに上がったこの先に、新たな困難が待ち構えていることは当人も覚悟しているだろう。ただ、周囲が追いすがる以上のスピードで、彼女が成長しているのもまた事実。

 8試合を戦っても「ケガも疲れもなかった」というフィジカルの向上、体調不良に襲われながらも勝利を求めた精神力、そして「もっともうれしかった」というセリーナ戦の勝利――。立ちはだかる障壁をも乗り越えていくだろうと思わせてくれるだけの財産を、彼女は前向きな姿勢とともに北米2大会から持ち帰った。