第90回センバツ高校野球大会の開幕が目前に迫ってきた。高校野球ファンはもちろんのこと、プロのスカウトたちにとっても今年のドラフト戦線を占う待ち望んだ大会である。昨年の秋の大会を最後に、ひと冬越えて選手たちはどう変わっているのか? 駅から甲子園に向かう足どりは自然と軽やかになるという。

 すでに新聞や雑誌などでは、断トツの優勝候補として大阪桐蔭が取り上げられ、根尾昂(あきら)や藤原恭大(きょうた/ともに大阪桐蔭)を筆頭に、プロ注目の選手たちの報道もにぎやかになってきた。



昨年秋の神宮大会でも好投した創成館(長崎)の大型左腕・七俵陸

 そんな中、プロのスカウトたちには、新聞や雑誌に名前が挙がってはいないが、密かに”記憶の手帳”に刻み込んでいる選手たちがいるものだ。ベテランスカウトのひとりがこう明かす。

「マスコミから大きな文字で取り上げられているのは、昨年夏の甲子園で注目された選手か、昨年秋の大会で活躍した選手のどちらかです。大阪桐蔭の選手たちなんかは、まさにそれに該当しますよね。でも、私たちの”眼”というのは、これからどう伸びていくか……。高校生の場合は、その”伸びしろ”が最優先ですからね。逆に、ちょっといじわるな言い方をすると、いま大活躍している選手というのはここが”ピーク”かもしれない。だから秋までの結果というのは、私たちにとっては参考程度ってことです」

 よくあるケースとして、新聞や雑誌で取り上げられている”大物”の裏に、実は本当の注目株がいることがあるという。

「瀬戸内(広島)では昨年秋の中国大会で1試合4本塁打を放った門叶直己(とがの・なおき)が有名になっていますが、僕はショートの選手が面白いと思っています」

 そう言って、セ・リーグ球団のあるスカウトは、新保利於(しんぽ・りお/178センチ68キロ/右投左打)の名前を挙げた。昨年秋は腰を痛めながらも2番・ショートとして活躍し、チームの主将も務めている。

「見るからに向こうっ気が強そうな、とんがったところが好きですねぇ。最近は小さくまとまった”いい子ちゃん”が多いでしょ。新保くんのような高校生は、ある意味、新鮮ですね。プレーだって、打球に対する反応が素晴らしいし、一級品の強肩は本人も相当の自信を持っていると思います。三遊間の深いところからダイレクトで一塁を刺せるショートは貴重ですよ」

 また別のスカウトは東邦(愛知)の山本泰正(外野手/180センチ79キロ/右投右打)の名前を挙げた。

「均整のとれた抜群の体格、50メートル5秒台の俊足、低い弾道で90メートル近く投げられる鉄砲肩。肝心の野球はどこまでうまくなるかなぁって思っていたら、昨年秋は徐々に実戦で打てるようになっていました。ただ、まだ”金属バット頼み”みたいなところがあって、この春はどれぐらいバットを使いこなせるようになっているか楽しみにしています」

 ロッテの山森雅文スカウトは、担当している九州から3人の名前を挙げた。

「能力が高いわりに、あまり騒がれていないのは延岡学園の小幡竜平(遊撃手/180センチ73キロ/右投左打)じゃないですか。打てるショートはポイントが高い。彼は低めにツボを持っていて、ボール気味の低めの球を右中間に放り込んだのを見ました。肩も強いし、足もある。いい選手ですよ」

 続いて挙げたのが、創成館(長崎)のふたりの投手だ。

「エース格の川原陸ではありません。彼はもう有名でしょう。私は七俵陸(しちひょう・りく/181センチ79キロ/左投左打)と伊藤大和(182センチ75キロ/右投右打)に注目しています。投手の”素材”として見れば、川原と互角かそれ以上かも……と思っています。七俵の腕のしなり、伊藤のサイドハンドからの真っすぐのキレ。今後も注目していきたい逸材です」

 オリックスの上村和裕スカウトは21世紀枠で出場する由利工業(秋田)のエース・佐藤亜蓮(174センチ78キロ/右投右打)を推す。

「東北のなかでは有数の素質の持ち主です。オーソドックスなオーバーハンドで、フォームに悪いクセがないのがいいですね。今はインターネットでいろんな映像が見られるので、そこから参考にする投手が多い。その向上心はいいのですが、無駄な動作を身につけてしまうケースが多いんです。佐藤くんにはそういったところがない。2年秋の段階で145キロ近く投げたパワーもある。潜在能力の塊だと思いますね」

 また、興味深い話を聞かせてくれたのが、DeNAの河原隆一スカウトだ。

「ウチに細川(成也)がいるからというわけじゃないんですけどね……」と前置きした上で名前を挙げたのが、明秀日立(茨城)の芳賀大成(170センチ69キロ/右投右打)だった。

「センバツでキャッチャーをやるかもしれないんですよ」

 さすが! 細川を強烈に推して、ドラフト5位指名で入団に持ち込んだ担当スカウトだ。明秀日立の情報には詳しい。芳賀はもともと強打の二塁手だったが、このセンバツではチーム事情もあって、捕手としてチームを牽引する可能性があるという。

「今年も細川の弟の拓哉がエースで、ショートの増田陸も長打力のある面白い存在ですけど、フルスイングできる瞬発力だったら芳賀じゃないですかね」

 小柄でも、野球がパワフルなのが魅力だという。

「もしキャッチャーをやったら、ロッテの田村(龍弘)みたいになるんじゃないかな。内野手がキャッチャーをやると、フットワークがいいじゃないですか。田村だって捕ってから投げるのが速いでしょ。あれなんて、内野手のときに身につけた財産ですよ。芳賀は、金沢(奉成)監督も太鼓判を押す”野球小僧”ですし、捕手をやることで新鮮な感覚が生まれると思うんです。そこでどんなプレーをしてくれるのか楽しみですね」

 センバツにやってくるプロスカウトは100人を超える。そのひとりひとりのなかに”オレだけの注目選手”がいるはずだ。そんなスカウトたちの目に留まる選手は誰なのか? ひとりひとりのプレーから目が離せない。