ロシアW杯でグループHに入り、コロンビア(6月19日・サランスク)、セネガル(24日・エカテリンブルク)、ポーランド(28日・ボルゴグラード)と対戦する日本代表。2大会ぶりの決勝トーナメント進出に向けて、まずは初戦のコロンビア戦で何と…

 ロシアW杯でグループHに入り、コロンビア(6月19日・サランスク)、セネガル(24日・エカテリンブルク)、ポーランド(28日・ボルゴグラード)と対戦する日本代表。2大会ぶりの決勝トーナメント進出に向けて、まずは初戦のコロンビア戦で何とか勝ち点を手にし、2戦目以降につなげたいところだ。だが、そのコロンビアには前回ブラジル大会の第3戦で対戦し、無残にも1-4と大敗を喫したことも記憶に新しい。



ケガも癒え、調子を戻してきたエース、ラダメル・ファルカオ

 日本代表は過去5回のW杯で、南米勢と同じグループに入った大会(1998年フランス大会、2006年ドイツ大会、2014年ブラジル大会)で、1度もグループリーグを突破できていないという嫌なデータもあるが、コロンビアをよく知る記者は、ロシア大会での日本とコロンビアの再戦をどう見ているのか。

 コロンビアの首都ボゴタ在住で、英紙ガーディアン、英誌ワールドサッカーなどに寄稿するジャーナリスト、カール・ワーズウィック氏に聞いた。

――まずはグループHの印象について聞かせてください。

「本命のいない、最も拮抗したグループのひとつだろう。ポット1(開催国ロシア、ドイツ、ブラジル、ポルトガル、アルゼンチン、ベルギー、ポーランド、フランス)の中からポーランドが入ったことについては、他の3カ国はホッとしているのではないか。

 同時に、欧州勢が1カ国しか含まれていないグループは2つだけで、そのうちのひとつでもある。ここ数回のW杯を振り返っても、欧州勢が他の大陸を圧倒している。W杯の歴史で見ても、1958年にスウェーデン大会で優勝したブラジルを除いて、ヨーロッパ大陸での大会では欧州勢がいずれも優勝している。それを思えば、ヨーロッパから1カ国しか選ばれていないことは、4チームすべてにとって喜ぶべきものだと思う。

 グループHには、それぞれスタイルが大きく違うチームが集まっている。例えば、ポーランドはどう見ても攻撃力が武器だが、失点も多い。スタイルは違うが拮抗しているので、それぞれがどう戦うのか、興味深い」

――3カ国それぞれの印象についてお聞きします。まずは日本について。

「4年前の日本代表には心底ガッカリした。3試合で勝ち点1しか挙げられなかったことは、大会前の期待を大きく裏切った。初戦のコートジボワール戦は先制しながらの逆転負け。第2戦のギリシャ戦では退場者を出し1人少ない状態だった相手を攻略できなかった。そして第3戦は、控えメンバーのコロンビアに難なくやられたわけだからね。

 あれから4年が経ち、チームが変化するのは自然なことで、香川真司や本田圭佑、岡崎慎司といったビッグネームが中心メンバーではなくなり、若手にシフトしてきていると聞いた。そういう選手たちが相手にとって未知の存在だという要素は、日本にとってプラスに働くかもしれない。でも、ハリルホジッチがいまだにベストメンバーを見極められていないように見えるのは不安材料だろう。

 日本が戦ったアジア予選が他の大陸の予選に比べて楽なことは否めない。そのなかでも日本は特にディフェンスのレベルに問題があって、あれで世界を舞台に勝負できるかは疑わしいと言わざるを得ない」

――ポーランドとセネガルの印象は?

「ポーランドは明らかに攻撃が武器だ。ユーロ2016でもまずまずの戦いを見せたが、そこをベースにさらに成長を遂げている。欧州予選では『点を獲られてもそれ以上に獲る』という哲学で、印象的な戦いを繰り広げた。

 重要なのはその過程で、チームのエースであり、グループHでは数少ない正真正銘のワールドクラスの選手であるロベルト・レバンドフスキ(バイエルン)の力を最大限に引き出すシステムを見つけたことだ。問題は守備で、欧州予選を首位通過したチームのなかで、ワーストとなる14失点を喫している。

 セネガルにも好調なスピードスター、サディオ・マネ(リバプール)がいる。ほかにも中盤に強さをもたらすイドリッサ・ゲイエ(エバートン)とシェイフ・クヤテ(ウェストハム)、ディフェンスラインを支えるカリドゥ・クリバリ(ナポリ)と、欧州のトップリーグでプレーしている実力者がいる。西アフリカのチームの特徴である空中戦の強さも健在で、セットプレーはかなりの脅威になるはずだ」

――では、現地で長く取材しているコロンビアについては、どんな印象を持っていますか。長所や短所は?

「ブラジル大会のグループリーグで1試合平均3ゴールを挙げたチームにしては不思議なことに、それ以降、コロンビアはずっと得点力不足に苦しんでいる。このスランプには、ラダメル・ファルカオ(モナコ)が十字靭帯を傷めたあとの波乱万丈の2年間が大きく関係しているが、彼に代わったカルロス・バッカ(ビジャレアル)もかなり苦しんでおり、ホセ・ペケルマン監督はいろいろと試したが、他のストライカーは見つからなかった。

 実際、約2年続いた南米予選の期間中、16カ月もFWがゴールを挙げていない時期があったほどだ。アタッキングサードでの問題は、MFハメス・ロドリゲス(バイエルン)が何とかカバーしてきたが、果たしてロシアでもそれがうまくいくか。ファルカオのケガが癒え、調子も戻ってきたのは大きなプラスだが、できあがっているシステムのなかにファルカオをどう落とし込むのかは、ペケルマンの腕の見せどころともいえる。

 守備では、ダビンソン・サンチェス(トッテナム)やジェリー・ミナ(バルセロナ)といった若手のすばらしいCBが何人かいる。とくにミナは、フィジカルが強いうえに193センチと背も高く、コロンビアが長年待望していたタイプだ。心配なのはGKダビド・オスピナ(アーセナル)で、予選でもとんでもないミスが何度かあったし、所属クラブでもベンチを温めている状況だ。

 とはいえ、ピッチ上で最も手薄なのはおそらく中盤だ。数少ない頼れる守備的MFはカルロス・サンチェス(エスパニョール)で、レギュラーの筆頭でもあるが、ペケルマンは彼と組ませる選手を見つけられないままだ。

 いろいろな選手を試しはしたが、結局、アベル・アギラール(デポルティボ・カリ)に戻っているところに、コロンビアがどれだけこのポジションに苦労しているかがうかがえる。33歳のアギラールは、コロンビアで低迷するデポルティボ・カリでも出場機会がなくて、ピークをとっくに過ぎた選手だ」

――前回大会と同様、アルゼンチン人のペケルマン監督が指揮していますが、何か変化はありますか?

「ポゼッションをベースにした、流れるような攻撃でみんなを驚かせた4年前のスタイルは、残念ながら失われてしまった。今はより粘り強さや現実的なアプローチが幅を利かせるスタイルに変わり、以前にも増して、スター選手であるハメス・ロドリゲスが試合の流れをチームに持ってきてくれるのをアテにする状況になっている。

 ペケルマン自身は4-2-3-1を好んでいるが、予選を通して、コロンビアは『安定感』や『危なげない』といった言葉とは無縁の状態で、指揮官はFWを2枚に増やすなど、何度もフォーメーションに修正を加えていた。南米予選では40人以上の選手を起用してきたが、いまだに新たなスタイルは確立できていない。

 コロンビアは伝統的に、短いパスを華麗につないで、格の違う司令塔を擁し、まぶしいほどの個人技を誇るチームとしてお馴染みだ。4年前のペケルマンは、これらのアイデンティティを盛り込みながらも、チームとして戦う術を見出していた。ただし、ブラジル大会後は、同じような戦いを披露できていない」

――4年前と比べてチーム力は落ちているということですか?

「4年前のコロンビアはとてもいい状態で本大会を迎えていた。16年ぶりの出場で、大会前にエースのファルカオを負傷で失うという痛手は負っていたものの、大きな自信を胸に大会に臨めていた。でも、今回はそういう前向きな雰囲気や自信が欠けている。

 ブラジル大会以来、隣国エクアドルとの2試合を除けば、コロンビアが相手を圧倒できたことは一度もない。南米予選で挙げたポイントもほとんどが下位チームからのもので、本大会出場を決めた南米勢上位との対戦に限ると、勝てたのはペルーにだけだ。しかも勝負に徹した、退屈なゲームの末に勝ったにすぎない。

 もちろん、コロンビアが比較的楽なグループに入ったことは否定できないし、実力からすれば、少なくとも決勝トーナメントには進出すべきだとは思う。コロンビアにとって最も大きな懸念材料は、対戦相手3チームではなくて、むしろ自分たちの力量と安定感が足りないことだ」

――日本戦はどんな展開を予想しますか?

「4年前のコロンビアは、レギュラー8人を入れ替えて試合に臨んで、それでも日本にとって強すぎる相手だったが、6月19日、サランスクでは違う展開になるだろう。ブラジル大会のコロンビアがあれだけ魅力的なサッカーをしていたのは、自信を持って戦っていたからで、今はそれが足りないし、日本も4年前とはまったく違うチームになっている。

 それでも、依然として戦前の予想でコロンビアが有利なのに変わりはなく、試合の主導権も握るはずだ。おそらく日本は、カウンターで脅(おびや)かす作戦で来るだろうしね。ボールを持つ展開でやりづらそうだったコロンビアの予選の戦いぶりからすれば、日本の作戦が功を奏す可能性もある。ここから本番までの間に、まだまだ状況は変わるだろうが、現状では、接戦の末、コロンビアが1対0で何とか勝利をもぎ取る展開を予想している」

――グループHを突破する2チームは?

「順当にいけば、ポーランドとコロンビアを有力候補と考えるべきだ。ポーランドは欧州予選でも難なく首位通過したし、レバンドフスキという間違いなく世界ナンバーワンのストライカーを擁している。コロンビアは前回大会で史上最高の成績(ベスト8)を収め、今回もなんだかんだと言って競争の激しい南米予選を切り抜けた。とはいえ、両国とも弱点はある。本大会までの間に、ケガ人や調子を落とす選手が複数出たりすれば、日本やセネガルにもチャンスが出てくる可能性はあるだろう」