「箱根駅伝出走」を目標に掲げる1年生・西田壮志東海大・駅伝戦記  第23回 立川・学生ハーフ(3月4日)は、冬の練習の総決算と言われている。 箱根駅伝を走った選手は数日間休むが、それ以外の選手は1月4日から練習が始まる。東海大の選手は1…



「箱根駅伝出走」を目標に掲げる1年生・西田壮志

東海大・駅伝戦記  第23回

 立川・学生ハーフ(3月4日)は、冬の練習の総決算と言われている。

 箱根駅伝を走った選手は数日間休むが、それ以外の選手は1月4日から練習が始まる。東海大の選手は1月14日の高根沢町ハーフ、奥球麿(おくくま)ロードレースが冬の強化の最初のレースになった。それ以降、選手はそれぞれのテーマに沿って、レースを選びながら強化を続ける。2月には両角速(もろずみ はやし)監督との個人面談を行ない、1年間の個人の目標、テーマを決める。

 關颯人(せき・はやと/2年)、鬼塚翔太(2年)、館澤亨次(2年)、阪口竜平(2年)の4人は2月からアメリカ合宿に旅立った。3月末まで約2カ月間、現地でトレーニングし、強化を続けている。現地でレースにも参戦しており、館澤はボストン大学での1マイルレースで3分57秒43と日本室内新記録を出すなど、順調に練習を消化している。

 国内組では箱根組の三上嵩斗(しゅうと/3年)、松尾淳之介(2年)、西川雄一朗(2年)に加え、羽生拓矢(2年)、塩澤稀夕(きせき/1年)がこの学生ハーフの1週間前に福岡クロスカントリー競走大会(シニア10km)に出場した。松尾が箱根の屈辱を晴らすような走りで10位(30分12秒)に入り、世界学生クロカン選手権への出場権を獲得した。

 そして、総決算となる学生ハーフには、東海大から23名もの選手が出場した。

 箱根エントリー組で出場しているのは郡司陽大(あきひろ/2年)と6区を走った中島怜利(なかしま・れいり/2年)、西田壮志(たけし/1年)の3名だけ。小松陽平(2年)ら中間層の選手がメインだが、ここで冬の練習の成果をしっかり見せることが両角監督へのアピールとなり、春のシーズンからの伸びしろにも影響してくる。

「西田が今日、イケますって言っていたんで、期待したいですね」

 箱根駅伝後に引退した元主務の西川雄一朗(4年)がユニフォームに着替える西田を見つめながらそう言った。

 西田は2月11日の唐津10マイルに出場し、47分18秒で6位に入賞した。東海大内ではトップの成績で、先頭集団を引っ張って走るなどレース内容もよく、調子のよさをアピールしていた。

 ちなみにこの学生ハーフには箱根王者の青学大、さらに駒沢大、順天堂大、早稲田大など箱根常連校も参戦している。気温が14度まで上がり、暑さが気になるが、この環境下で強豪校相手に東海大の選手たちはどんなレースを見せてくれるのか、注目した。



好天に恵まれた立川ハーフ

 午前9時30分、レースがスタートした。

 序盤から西田は先頭集団に入り、積極的な展開を見せた。そのまま13kmぐらいまでは西田が青学大の梶谷瑠哉(3年)、順天堂大の野田一輝(3年)、駒沢大の伊勢翔吾(3年)の前に立ち、トップ集団を引っ張った。

 15km地点、トップが梶谷、2位が西田、3位野田とアナウンスされる。梶谷との一騎打ちの様相を呈してきたが、両者とも一歩も引かない。18.9km地点では梶谷を抜いて、再度トップに立った。箱根では4区を走り、青学大4連覇に貢献した3年生相手に互角に戦っている。このまま優勝かと思ったが、20kmで梶谷がトップに立ったというアナウンスが流れた。

 ゴール地点に向かい、先頭で入ってくる選手を確かめる。最初に見えてきたのは梶谷だった。1時間03分20秒で優勝。西田は伊勢にも抜かれて1時間03分35秒の3位でゴールラインを駆け抜けた。

 その後、東海大の選手は小松が9位、郡司が56位、東優汰(3年)が85位、中島が103位と続いた。

 汗に濡れ、悔しそうな表情を見せたのは、小松だ。

「現状の力は出せたと思うんですが、今日は、うーん70点ですね。暑さと最後、公園内のアップ&ダウンがあるんで、ちょっと抑え気味にいったんです。終始余裕を持ち過ぎてしまい、最後1000mでちょっと(ペースを)上げただけだった。もっと先頭に食らいついていけば、順位も変わったなぁと思うと悔しいですね」

 小松は昨年6月に全日本大学駅伝の関東予選会を走り、本大会出場を決める走りを見せたが、本番の出雲、全日本と駅伝メンバーには絡めず、悔しい思いをした。箱根駅伝はエントリメンバー発表前の富津合宿に参加していたが、16名のメンバー入りはできなかった。それだけに3年生になる今シーズンに懸ける気持ちが強い。

「今年は駅伝のメンバーに絡めるようにしたいですね。そのためには春のトラックシーズンで5000mの自己ベストを更新し、13分台を出すこと。そして出雲、全日本、箱根とすべての1区を走りたいと思っています。箱根と東海の相性がよくないので、その力になれるように自分のスピードを活かしていきたいです」

 西出仁明(としあき)コーチは「自分から行く姿勢を見せてほしい」と注文をつけていたが、性格的におとなしい小松にとってはその積極性が成長のカギになる。自分が引っ張るんだという強い意識で走れば、今年はかなり伸びていきそうだ。

 西田は非常に悔しそうだった。

「いやぁー13kmまで引っ張って、19kmで抜き返したんですよ。めっちゃキツかったし、負けたくなかったんですけどねー。悔しい。まぁ、まだ力が足りなかったですね」

 競り合った梶谷は経験豊富な3年生、西田はまだ1年生で、そのハンデはある。それでも互角に張り合うところに西田の調子のよさが見て取れる。今年の箱根は残念ながら5区を走れなかったが、箱根以降は好調を維持している。その要因はいったい何なのだろうか。

「それは誰にも負けたくないからです。やっぱり箱根で5区を走れなかったのがすごく悔しくて……。箱根を走るためには關さんとかアメリカ組やチームの誰にも負けたくない。その気持ちが強いんで、集中して練習ができていますし、常に自分が先頭に立って頑張ろうという意識に変わったので、それが結果に出ているのかなと思います」

 その意識はレース展開にも見られた。西田は相手の背後についていくのではなく、終始自分が前を走るという攻めのレースをした。

 両角監督もその姿勢を高く評価していた。

「西田はよく攻めたと思います。彼には箱根5区を期待していますが、あそこは1人で走る展開が多いので、ついているだけの走りだといい記録が出にくいし、いい走りをするのも難しい。西田もそこはわかっているようで、今日は攻めの走りができていましたし、唐津10マイルでも同様に前に出て引っ張っていた。西田にとっては、いい形で冬のトレーニングを終わることができたと思います」

 いい形でトレーニングが進んでいるのは、西田の体つきを見てもわかった。昨季は全体的に線が細かったが、上半身が逞しくなっていたのだ。「身体、大きくなった?」と聞くと、西田は嬉しそうに「でかくなりました」と笑顔を見せた。

「昨年から続けたウエイトのおかげです」
 
 西田は自信ありげに言う。西出コーチは「いや、まだまだです。簡単に(筋肉が)ついたら苦労はしないんで」と厳しいが、本人は手応えを感じている。

「体重とかは変わっていないんですが、筋肉はつきました。それで走りも変わってきています。これからもごはんをたくさん食べて、走れる筋肉をつけていきたいです」
 
 ウエイトトレーニングの導入は、確実に選手の力を伸ばしている。館澤はその成功例で、1500mを走ったかと思えばハーフも走り、箱根8区でも激走するなど、中・長距離の両輪で強さを見せている。

 西田はそういう先輩に負けたくないのだ。

「自分は練習を積まないと走れないんで、2年になってもそのスタイルは貫いていきます。自分は山を走るために東海に来たんで、山だけを狙っていきます。そのために長い距離をしっかり走って練習して力をつけたい。5区を走りたいという気持ちは誰よりも強いですし、誰にも負けたくないんで」

 そういう気持ちを強く持つことは、競技者にとって非常に重要だ。最後、1000mの勝負になった時、何が勝敗を分けるのかといえば、古くさいようだが気持ちなのだ。おちゃらけた雰囲気もなくなり、西田は今シーズン大化けしそうだ。

“気持ち”で言えば、中島もある相手を意識して、負けられないという思いで走っていたという。レースには中島と同じく6区を走った青学大の小野田勇次(3年)が出場していたのだ。

「後ろに小野田さんがいたんですよ。平地ですけど、ここで勝っておかないといけないと思いました。日頃から自分がレースに勝って、小野田さんに『あいつは強い』というイメージを植えつけることができれば、箱根でも優位に戦えると思うんです。箱根は実力も大事ですが、精神的なものが大きいんで。そのためにも今日は勝ちたかったんですけど、最後にやられました」

 小野田は1時間06分00で96位、中島は1時間06分04秒で103位だった。結果は今ひとつだが焦る様子はない。今年もマイペースで箱根を目指すという。

「自分は館澤のように1500mを走ってハーフもいけるみたいな才能はない。平地を走りたい気持ちはありますけど、今年もひとつに絞って自分の長所を出していけたらいいかなって思います」

 4月から3年生になる中島、来季の6区も楽しみだ。

*    *    *

 全員が集まり、両角監督と西出コーチの話を聞き、解散した。

「今日はS、Aチームの選手が少ないなか、しかも箱根に出ている大学が出場しているレースで、西田と小松の2人がひと桁に入れたんでね。まぁ、西田は勝ちたかったと思いますけど内容も悪くなかったですし、チームとしてはまずまずの収穫だったと思います」
 
 両角監督は、表情を崩してそう言った。これで冬の強化はひと段落ついた。すでに主将の湊谷春紀(3年)を中心に新チームがスタートし、2018年シーズンのチーム目標は「学生長距離5冠」に決まった。関東インカレ、全日本インカレ、出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝の5大会を制覇するということだ。

 キャッチフレーズは昨季の「打倒青山学院!」に代わり、今季は「速さを強さに」となった。箱根駅伝で5位に終わった時、両角監督が「うちのチームには速さはあるけど、強さがない」と述べたが、その言葉をそのまま、キャッチフレーズにした。全選手でそれを意識できれば、5冠達成が見えてくる。 

 果たして、今年はいくつのタイトルを獲れるのだろうか。新チームへの期待が膨らむ───。

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