球史に残る大乱戦が2度も行われている福山市民球場「筋書きのないドラマ」とはうまく言ったもの。完全試合、大逆転劇など、野球…
球史に残る大乱戦が2度も行われている福山市民球場
「筋書きのないドラマ」とはうまく言ったもの。完全試合、大逆転劇など、野球では考えられないことが度々起こる。それが試合数が多い球場ならばともかく、地方球場となるとその確率はかなり低い。しかしそういったことが何度も起こる不思議な球場がある。福山市民球場である。
広島県福山市は広島市から東へ電車で約2時間ほど行った、岡山県にほど近い地方都市だ。福山城などがあり観光地として有名である。ここにある福山市民球場(正式名称は竹ケ端運動公園野球場)では、球史に残る大乱戦が2度も行われている。
福山市民球場は約1万5000人収容の実に立派な球場。74年の開場以来、高校、大学、社会人などアマチュア野球で主に使用されてきた。プロ野球では広島がオープン戦や公式戦を定期的に開催。球場の老朽化などもあり公式戦は2011年以降やっていないが、オープン戦は18年も3月11日にヤクルトと行われた。
「現役時代、何度もここでプレーしました。いい球場なんですけど、風が強くて寒いイメージですね」
苦笑いを浮かべて語ってくれたのは、好守の内野手として活躍した現カープ広報担当の松本高明さん。
芦田川の真横に立地するため、風が強く例年寒いのがここの特徴。今オープン戦でも、広島・松山竜平の打球は完全にホームランの角度。しかし逆風に戻されヤクルトのライト荒木貴裕がフェンスにぶつかりながらの好捕という、結果的に見所あるプレーを球場が演出した形となった。(この試合でもSFジャイアンツ本拠地AT&Tパークのライト後方の海に飛び込む「スプラッシュヒット」のように、川にボールが飛び込んでいた)
坂口の記憶「ずいぶん長く攻撃しているな、と」
その風のいたずらか、両翼90メートル、中堅120メートルという決して広いとは言えないサイズのせいなのか。この球場では球史に残る「打ち合い」が展開されている。
記憶に新しいのは10年6月7日、広島-オリックスのセ・パ交流戦。6回表、オリックスは坂口智隆(現ヤクルト)に二塁内野安打から攻撃開始。打者一巡して坂口がレフト前ヒットを放つまで10者連続安打で8点を挙げた。対する広島も粘り、結果は試合時間4時間7分、21-10でオリックスの勝利。両チーム総得点31、総安打数43はいずれも交流戦記録である。
乱打戦のきっかけを作ったとも言える坂口は、「ずいぶん長く攻撃しているな、というのは覚えています。でも1イニングに2本ヒットを打ったのは覚えていなかったですね。試合時間も長かったな(笑)」
そして福山市民球場の伝説として語り継がれているのが1998年8月9日、広島-横浜の22回戦。この試合も序盤から打ち合いとなり8回終了時点で6-6の同点。延長に突入した試合は、15回表に相手投手の暴投で1点勝ち越したのをきっかけに一挙8得点。6時間13分、14-6で横浜が結果的に圧勝した。
試合終了は当然、深夜に及んだため球場からの交通手段も終了。帰宅できなかったファンが球場周辺で一夜を過ごしたという逸話も残っている。
正田氏の記憶「流れって怖い」、試合時間の歴代3傑は…
延長戦でも守備についていた、首位打者2回を誇る名選手、広島OB正田耕三さん(現韓国プロ野球・起亜タイガースコーチ)は語る。
「プロ生活でもかなり印象に残っている。とにかく長いし、真夏だったから暑かった。もう途中からは早く終わってくれないかって思っていた。本当に横浜打線が止まらないし、打ち取ったと思ってもヒットになる。流れって怖いよね(笑)」
ちなみに試合時間の歴代上位3試合は、1位が92年9月11日、甲子園、阪神-ヤクルトの6時間26分(延長15回、3-3、中断37分)。2位が15年8月21日、広島、広島-巨人の6時間21分(延長11回、3-4、中断1時間26分)。3位が96年9月8日、神宮、ヤクルト-横浜の6時間19分(延長14回、6-5)。
17年CSファイナルは広島とDeNAの対戦が同じ広島のマツダスタジアムで行われ、雨天中止などでシリーズの流れが揺れ動いた。奇しくも18年はこの歴史的長時間試合、そして横浜日本一から20年という節目、という「記念すべき」年となる。
広島東洋カープvs横浜DeNAべイスターズ。何かが起こりそうな気配漂う対戦から目が離せなくなってきた。(山岡則夫 / Norio Yamaoka)
山岡則夫 プロフィール
1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿している。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選手たち」(株式会社舵社)。Ballpark Time!オフィシャルページにて取材日記を定期的に更新中。