3月10日、カリフォルニア州のスタブハブセンターで、WBA世界ミドル級王者・村田諒太(帝拳)のタイトルを狙う挑戦者が雄叫びをあげた。 現在WBA 同級13位のエスキバ・ファルカン(ブラジル)が、サリム・ラルビ(フランス)に1回2分6秒…

 3月10日、カリフォルニア州のスタブハブセンターで、WBA世界ミドル級王者・村田諒太(帝拳)のタイトルを狙う挑戦者が雄叫びをあげた。

 現在WBA 同級13位のエスキバ・ファルカン(ブラジル)が、サリム・ラルビ(フランス)に1回2分6秒KO勝ち。プロでの戦績を20戦全勝(14KO)としたファルカンは、試合後に早期の村田挑戦を訴えた。


10日の試合に勝利し、笑顔を見せるファルカン

 photo by Mikey Williams / Top Rank

「村田にチャレンジしたい。2012年のオリンピック決勝の再戦がしたい」

 そんなファルカンの言葉通り、村田とこの28歳のブラジリアンは2012年ロンドン五輪の決勝で対戦している。周知の通り、その際は村田が判定勝ちを収め、バンタム級以上の日本人選手として初めてオリンピックの金メダルを獲得する快挙を成し遂げた。

 あれから約6年――。村田、ファルカンの米国での試合をプロモートするトップランク社は、2人のプロでのリマッチを今夏に行なう計画を立てている。

 村田は4月15日に、横浜アリーナで同級8位のエマヌエレ・ブレンダムラ(イタリア)との初防衛戦が決まっており、まずはこの試合をクリアすることが必須条件だ。その試合で大きなケガをすることなく防衛を果たせれば、ファルカン戦にゴーサインが出る。トップランク社のプロモーターであるボブ・アラム氏は、「7月7日か14日にラスベガスで開催」と明言しており、実現の可能性は極めて高そうだ。

 10日のラルビ戦の前日、筆者はファルカンに電話でのインタビューを行なった。非常に友好的ではあったが、村田に対するこだわりはかなり強かった。

 質疑応答の中で、ファルカンは「自分こそが真の五輪王者(True Olympic Champion)だ」という言葉を繰り返した。さらに取材中には、ファルカンの広報担当を名乗る謎の人物がいきなり電話口に登場し、こうまくし立てた。

「村田とエスキバは(2011年の)世界選手権とロンドンオリンピックで2度対戦し、村田の2勝という結果が残っている。しかし、オリンピックでの2点の減点はフェアではなかった。あれさえなければ、エスキバが勝っていたはずのファイトだった」


激闘の末に、ロンドン五輪の金メダルは村田が手にした

 photo by Reuters/AFLO

 小差の判定負けを喫したボクサーと、その陣営が不服を訴えるのは珍しい話ではないが、ファルカン側の主張に根拠がないわけではない。

 ロンドン五輪のミドル級決勝は大接戦となり、村田が14-13 で辛勝。あらためてその試合映像を見直しても、どちらが勝っても不思議ではなかった。その第3ラウンドには、ファルカンにホールディングによる2点減点が告げられ、結果的にはこの裁定が勝敗に直結してしまった。

 この試合後にブラジル五輪委員会が国際ボクシング協会に抗議したが、訴えは退けられている。村田の勝利には文句のつけようがなく、とやかく言われる筋合いはない。しかし例えそうだとしても、ファルカンとその陣営はモヤモヤと収まりがつかない心情を抱えているのだろう。

「私こそがオリンピックの真の王者であり、自分にはプロで世界王者になる準備が整っていることを示したい」

 そう宣言するファルカン。7月の村田戦が実現すれば、積年の思いを胸に王者に挑むことになる。

 誤解のないようにつけ加えておくが、ファルカンは「オリンピック決勝では自分が勝っていた」と信じてはいるものの、けっして村田を見下すような発言はなかった。

「村田はとてもいい選手で、しっかりした技術がある優れたファイターだ。プロ入り後も基本的にはアマチュア時代と変わらないボクサーファイターだが、プロ入り後にパワーがついたと思う」

 その話しぶりからは、すでに2度も拳を交えたライバルで、プロで先に成功を掴んだ村田をリスペクトしているようにも感じられた。この姿勢のままでいられれば、ラスベガスでの再戦も爽やかな盛り上がりを見せるはずだ。

 ともに母国では”ビッグネーム”である村田とファルカンだが、まだアメリカでの知名度は高いとは言えない。特にファルカンは、プロではまだ十分なテストマッチを行なっておらず、「ラスベガスのリングで対戦させるのは早すぎる」という声もある。しかし、百戦錬磨のトップランク社には、「”ナイスガイ同士のライバルストーリー”を華やかに売り出せる」というもくろみがあるのだろう。

「日本には巨大なブラジル人コミュニティがあるし、ブラジル、日本の両方で僕を応援してくれる人がいるのも知っている。そんな多くのファンのためにも、リマッチのチャンスがほしい。村田に勝って世界王者になりたいんだ」

 そう語るファルカンにとって、人生を懸けた勝負の時が迫っている。プロでの実績は村田がはるかに上回っていても、アマチュア仕込みの経験とリベンジへの熱い思いは侮れない。今夏のラスベガスは、6年越しの因縁の決着の場として熱く燃え上がることになりそうだ。