【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】PSGはどこへ行く?(後編)前編を読む>> パリ・サンジェルマン(PSG)のスター選手は、自分がクラブより大きな存在だと思っている節がある(理解できなくもないが)。FWのエディンソン・カバ…

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】PSGはどこへ行く?(後編)

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 パリ・サンジェルマン(PSG)のスター選手は、自分がクラブより大きな存在だと思っている節がある(理解できなくもないが)。FWのエディンソン・カバーニは、冬休みから遅れてチームに合流したが、これはビッグクラブでは20年前に消え去った伝統だ。それにPSGのFWは、ほとんど守備をしない。

 PSGで一番のスーパースターであるネイマールは、クラブの移籍市場での方針まで変えさせた。彼がヨーロッパでは二流のリーグに移ったのは、ひとつには金のためだ。PSGはネイマールに、ブラジル人のチームメイトと一緒にプレーするチャンスまで与えた。ネイマールの入団とともに、PSGは彼の親友で34歳になるダニ・アウベスと契約した。

 だが、それでも十分ではなかったようだ。ネイマールはケガをする前、フランスのピッチでふてくされているように見えることが多かった。ここは自分にふさわしいリーグではなかったとでも言いたげに。



ケガのためチームを離脱、レアル・マドリード移籍の噂が絶えないネイマール photo by AFLO

 ネイマールは突っ立ったままパスを受け、特にスピードを上げることもなく相手DFを抜き去ろうとする(それでもけっこう、うまくいく)。だが、いつもレフェリーに文句を言いたそうだったし、周りの「田舎者」たちが自分を壊そうとしていると思っているようだった。

 この夏にネイマールがレアル・マドリードへの移籍を望んでいるという報道も、あながちでたらめではなさそうだ。「なんとか残ってほしいよ」と、PSGのブラジル人センターバック、マルキーニョスはレアル・マドリードに敗れた後に言った。

 PSGは現状を抜け出すためにどうしようとしているのか。その点は、なかなか見えてこない。PSGに対するカタール側の主な援助はカタール観光局との「スポンサーシップ契約」で、年間1億7500万ユーロ(約230億円)だ。

 しかしこの金額を含めても、PSGの売上高はヨーロッパのクラブのなかで7位でしかない。昨年の売上高は4億8620万ユーロ(約635億円)。マンチェスター・ユナイテッドやレアル・マドリード、バルセロナより1億5000万ユーロ(約200億円)以上も少ない。
 
 カタールのオーナーたちはもっと多額の金をつぎ込んでもいいと思っているだろうが、UEFA(欧州サッカー連盟)の「フィナンシャル・フェアプレー・プログラム(FFP)」の規定によって、売上高を超える支出は認められていない。しかも、ネイマールがフランスリーグに失望を感じ、PSGがチャンピオンズリーグで伸び悩んでいることから、他のスター選手もフランスのクラブへ行くのをためらうだろう。

 それでもPSGは崩壊しない。

 カタール人のオーナーたちは、少なくとも2022年のワールドカップがカタールで開かれるまではPSGを支えるだろうし、もっと長く支援するかもしれない。PSGへの出資額は、カタールがワールドカップ開催に向けたインフラ整備につぎ込もうとしている推定1600億ユーロ(約21兆円)という金額に比べればわずかなものだ。PSGを支援していれば、フランスの政界とパイプを築くことにもつながる。

 仮にカタール・マネーがなくなったとしても、人口約1200万のパリと、そこに本拠を置くトップリーグ唯一のクラブは、フランスリーグに君臨しつづけるはずだ。意外に思えるかもしれないが、おそらくPSGのサポーターには他のフランスのクラブより熱いファンが多い。

 確かにPSGの多くのサポーターは、カタール人がやって来る前はクラブと距離を置き、フーリガンとチームの凡庸さに愛想を尽かしていた。フーリガンのほうはフランス当局がほぼ抑え込んでいるが、レアル・マドリード戦でも発煙筒が焚かれて試合が2度にわたって中断したように、まだ撲滅されてはいない。しかし、PSGが安全な環境でまともなフットボールを続ければ、マルセイユは敵ではない。

 PSGは今後、過大な野心を抱かず、スーパースターの獲得もあきらめ、代わりに11人の選手をもっとバランスよくそろえようとするだろう。バルセロナやレアル・マドリードを脅(おびや)かすことはないだろうが、PSGにとってはそんな目標を掲げること自体が現実的ではなかったのだ。

 PSGは身の丈に合ったクラブになるときかもしれない。