フランス・パリで行われている全仏オープン(5月22日〜6月5日)の8日目、男子シングルス4回戦。 錦織圭(日清食品/第5シードの)の全仏が終わった。地元フランスで唯一勝ち残っているリシャール・ガスケ(フランス/第9シード)…

 フランス・パリで行われている全仏オープン(5月22日〜6月5日)の8日目、男子シングルス4回戦。

 錦織圭(日清食品/第5シードの)の全仏が終わった。地元フランスで唯一勝ち残っているリシャール・ガスケ(フランス/第9シード)との対戦。雨の影響を多分に受けた一戦は、錦織が4-6 2-6 6-4 2-6で敗れ、昨年に続く準々決勝進出は叶わなかった。

試合終了直後

 そのほかの上位シード勢は、第2シードのアンディ・マレー(イギリス)が第15シードのジョン・イズナー(アメリカ)を7-6(9) 6-4 6-3で退け、第3シードのスタン・ワウリンカ(スイス)は第22シードのビクトル・トロイツキ(セルビア)を7-6(5) 6-7(7) 6-3 6-2で破って連覇へ前進。しかし、第8シードのラオニッチ(カナダ)はノーシードのアルベルト・ラモス ビノラス(スペイン)に2-6 4-6 4-6で敗れた。

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 この日、錦織には2つの覚悟が必要だった。一つは完全なるアウェーの状況。もう一つは雨だ。いずれも集中力など精神面への影響が懸念されたが、後者のほうはテクニカルな不安もはらんでいた。そして、結論から言うと、「周りの声はほとんど耳に入らない」という錦織にとって前者は問題ではなかった。錦織を苦しめたのは後者ーー雨だった。

 ガスケは初対戦から6連敗していた相手だが、この全仏の前哨戦のマドリッドとローマで2連勝している。苦手意識はもうなかったはずだ。試合は両者ラブゲームのサービスキープでスタートし、第3ゲームで錦織がダブルフォールト絡みでブレークを許す。しかしそこから3ゲームを連取し、あっという間に形勢を覆した。パラついていた雨が急に強まったのはその後、錦織サービスの第7ゲーム。デュースになったところで1度目の中断となった。

 1時間後に試合は再開。デュースだから公平と思いがちだが、実はサーバーに非常にプレッシャーのかかる状況だ。当たり前だが、1ポイントを失うことは即相手にブレークポイントを与えることになる。その上、中断は大抵劣勢だったほうに有利になるもの。冷静になり、コーチと話し、作戦を練り直すことができるからだ。錦織は、再開後2ポイント連続してアンフォーストエラーで失ってブレークバックを許すと、さらに第2セットの0-2まで6ゲームを連取されてしまう。

 あとでガスケはこう振り返った。 「中断は僕にとっては重要だった。それまではベースラインのずっと後ろに下がってスローペースの試合運びだったからね」

リシャール・ガスケ

 中断の間にプレーを修正したガスケは、別人だった。錦織にブレークチャンスはなく、第2セットもガスケ。第3セットを5-4からブレークして奪い、逆転の希望をつないだが、第4セットは最初のゲームをブレークされ、反撃の糸口はつかめなかった。

 いつもよりネットが多く、決まるはずのショットが決まらなかったのがもどかしい。ガスケのディフェンス力も大きかったが、水を吸って重くなったボールが威力不足の原因だった。「ボールが重くなったことでウィナーが取れず、彼のディフェンスからのプレーのほうが上回った」と錦織 ウィナーはガスケの36本に対して40本と上回っているが、アンフォーストエラーはガスケの2倍以上の45本あった。

 雨でボールが重くなったことによる苦戦は1回戦、シモーネ・ボレッリ(イタリア)戦も同じだった。しかし、相手が違った。15歳のときから全仏オープンに出場してきたかつての“天才少年”のプライドを見た一戦だった。それは、同国の選手が皆消え、自分の肩にすべての荷がかけられていたこととも無関係ではないだろう。

 錦織は「今回はベスト4、決勝といける可能性はあると感じてたので、もったいないというか、悔しいですね」と視線を落とした。

 トッププレーヤーが負けたあとによく言う言葉がある。 It was not my day.  自分の日ではなかったーーつまり、こんな日もあるさ、という意味。そんなふうにさらりと言って忘れてしまいたい一方で、深く思い知らされたことがある。クレーは、自然との戦いでもあるということだ。  (テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)