横浜DeNAベイスターズ・今永昇太インタビュー(後編)インタビュー前編はこちら ベイスターズの今永昇太は今年の1月、…
横浜DeNAベイスターズ・今永昇太インタビュー(後編)
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ベイスターズの今永昇太は今年の1月、スポーツトレーナーの鴻江寿治(こうのえ・ひさお)さんが福岡の八女(やめ)を拠点に行なっているトレーニング合宿に参加していた。その期間中、一緒に練習していたホークスの石川柊太(しゅうた)にこう訊ねた。
「石川さん、あのパワーカーブ、どうやって投げるんですか」

今年1月の自主トレでホークスの石川柊太からパワーカーブを教わった今永昇太
今永は、この合宿の前から石川が来ることを聞いていて、このオフに取り組んでいた速いカーブの投げ方について、石川の話を聞きたいと考えていた。石川は、バッターに向かいながら急激に曲がり落ちるパワーカーブを武器に去年、中継ぎとして、先発として、一軍で勝ち星を積み重ねている。そんな石川は、今永の問いにこう答えたのだという。
「オレは横の時間を意識してるよ」
横の時間とは、つまり、足を上げてから体重移動して、ボールを投げるためにバッターに正対する、その直前までの、右ピッチャーなら三塁側に、左ピッチャーなら一塁側に体の正面を向けている時間のことだ。今永は驚いた。
「僕はてっきり腕の振りとかリリースとか、そういうことを意識しているのかと思っていたんです。でも、石川さんは『パワーカーブを投げるときには横の時間を長く取って、最後の最後でパッと回るようにしてるよ』という表現を使った。正直、ビックリしました。でも、その瞬間、ピンとくる感じもあったんです。
僕が解釈したのは、パワーカーブを腕で投げようとすると、腕の力って限界があるのでうまく力が伝わらないんだ、ということ。そうじゃなくて、横の時間を長く取ることで体の力を使いながら、腕で投げるんじゃなくて体で投げるイメージを持つ。ギリギリまで開かないように、腕は後からついてくる感覚で、最後の最後にパッと回る。
そのとき、腕は何も力んでない状態を作る……そうやって投げられれば、バッターは『いつ投げてくるんだろう』って感覚になると思いますし、タイミングも合わせにくくなるはずなんです」
もともと、ストレート、スライダー、カーブ、チェンジアップが今永の持ち球だったのだが、そこへパワーカーブを加えようと考えたのは、チームメイトの筒香嘉智のこんな何気ない一言があったからだった。
「バッターって、横の動きには早く慣れるもんだよ」
今永はハッとした。思い当たる節があったからだ。今永は昨シーズン、球数の多さに悩まされた。9回を投げ切って完投した2試合は132球と141球。5回で100球に達することも珍しくなかった。その原因が、筒香の言葉から垣間見えたというのである。
「去年、どれだけキレのいいスライダーを投げていても、試合の後半になると当てられるようになったんです。今日はスライダーがいいと思っていても、だんだんファウルを打たれたり、見切られたりする。結果的に打ち取れたとしても球数を要して、スライダーでは決着をつけられなくなりました。
その理由を筒香さんと話していて気づかされたんです。横の動きにバッターの目は慣れるのが早い……だったら、早い段階で勝負を終わらせたり、ときには3球勝負を挑める球種が欲しいなと思って、パワーカーブに取り組もうと考えたんです」
今永にとって、チェンジアップは追い込んでからボール球にして振らせたい球種であり、これまでの緩いカーブはカウントボールのイメージだった。
「これまで投げていたカーブは、ツーストライクに追い込んだあと、予測されてない状況で投げても当てられちゃうボールなんです。緩すぎるんですかね。それじゃ、決め球には使えません。だから、待ってない状況でそのボールが来たら、アッと思って手が出ないとか、待っている状況で来ても、想像以上に落ちて打ち損なうとか、そういうカーブが投げたくて……そのためには速さもキレもあるパワーカーブがいいんです」
理想は「127キロから130キロ」(今永)のパワーカーブ――このボールを決め球としてうまく生かすことができれば、120球以内で完投できる。そういうピッチングを身につけることで、1年間、ローテーションを余裕を持って守ることができる。今永に期待されているのは、押しも押されもせぬベイスターズのエースとして、長年、君臨し続けることなのだ。
「そんな域にはまだ全然、足りていません(苦笑)。他のチームで、11勝して『僕はエースです』って言っている人はいないでしょう。菊池(雄星)さん、東浜(巨)さん、千賀さんは2年連続で2ケタ勝利していますし、菅野(智之)さんも17勝しています。そういうピッチャーがエースと呼ばれるに相応しいんだと思います。
高校時代、『エースはずっとエースでいなければいけない』と監督さんに教えていただいたんですけど、その言葉を思い出すと、今の自分にはまだ違和感しかありません。マウンドの上でも練習のときにも、グラウンドにインするときでもエースであれ、と……もっと言えば、食事をするときも寝るときも、エースはエースでなければならないんです。そうすればすべての行動に責任も生まれますし、適当な練習もできなくなる。そう考えると、そう呼んでいただくために、僕にはまだまだやらなきゃならないことがたくさんあります」
とはいえ、今シーズンの開幕投手候補のひとりとして名前を挙げられている。エースとしては発展途上だという今永も、その第一歩となる開幕のマウンドにはハッキリと意欲を覗かせた。
「12人しかそのマウンドに上がることはできませんし、今年は本拠地で迎える開幕ですから、もちろん、やってみたいという気持ちはあります。1年で最初の、一番きれいな横浜スタジアムのマウンドに、真っ先に立てるのはベイスターズの開幕投手だけなので、そこを目指してやっていかなきゃいけないと思っています」
プロ1年目には、打たれた試合のあと、「暗いオーラ」を出してしまったという今永。そこを反省して、去年は打たれてもポジティブに過ごすことを心掛けた。
「落ち込んで、それを態度に表してもプラスになることはないと気づいたんです。そんな雰囲気を出してみても、誰かが同情してくれるわけでもない(苦笑)。そんなの、カッコ悪いじゃないですか。強がりでも、ウソでもいいから、無理にでも気丈に振る舞うことでチームがうまく回るなら、そんなにいいことはありませんからね」
メカニックを理解した”今永昇太のフォーム”と、決め球に使える”パワーカーブ”。さらには”エース”と呼ばれるに相応しい結果と、チームのための”ポジティブ・シンキング”――プロ3年目の今永は新たな武器を携(たずさ)えて、進化を続けている。開幕のマウンドに立つことができれば、その経験値は、またこのピッチャーを次のステージへ押し上げてくれるに違いない。
(おわり)