この新型シビック・タイプRは、マニア間で”世界最速の市販FF(前輪駆動)車”と認定されている。ここでいう”最速”の根拠となるのは、ドイツのニュルブルクリンク北コース(以下、ニュル)におけ…

 この新型シビック・タイプRは、マニア間で”世界最速の市販FF(前輪駆動)車”と認定されている。ここでいう”最速”の根拠となるのは、ドイツのニュルブルクリンク北コース(以下、ニュル)におけるラップ記録だ。



 

 ニュルは約20kmの全長に、170以上のコーナーと約300mの高低差を有するサーキットコースで、長くて複雑なレイアウトであるうえに、コースそのものの設計が古い。

 よって、コース幅は全体にせまくて、路面もそこかしこが荒れているのだが、その攻略の難しさゆえに、世界中の自動車メーカーがスポーツカー開発のためにニュルに集まってくる。そんなこんなでニュルはいわば”スポーツカーの聖地”であり、クルマのプロたちは「ニュルで速い=どんな過酷な道でも速く、本当に優秀」という方程式でスポーツカーを評価する。

 というわけで、新型シビック・タイプRは、この2018年3月現在、FF車によるニュル最速タイムを保持しているわけだ。

 その具体的なタイムは7分43秒80。ちなみにニュルで同じく”8分切り”を果たしたFF車は、この新型タイプR以外には4台しかない。フランスのルノー・メガーヌR.S.、スペインのセアト・レオン・クプラ280(日本未発売)、ドイツのVWゴルフGTI(第73回参照)の限定モデル、そして先代のシビック・タイプR……の4台である。

 で、その7分43秒80台がどれくらいスゴいタイムなのかというと、これより速い市販車は400ps超のスーパーカーばかりで、現時点での市販車最速タイム(ランボルギーニ・ウラカン・ペルフォルマンテ)との差は1分に満たない。トータル7〜8分での1分差未満だから、僅差ではないが大差でもない。

 このように、シビック・タイプRはとてつもなく速いクルマなのだが、基本はあくまでシビックでもある。フツーのコンパクトカーと同様のFF車であり、排気量も一般的な2.0リッターである。

 そんな”一見フツー”のクルマを完全スーパーカー級のスピードで走らせるタイプRは、エンジン、ボディ、サスペンションその他すべてに超高度な技術がテンコ盛りだが、こういうレベルの速さになると、空力も超重要……なので、新型シビックRはご覧のように、巨大な羽根(リアウイング)を含めて全身が空力付加物だらけである! 結果として、シビック・タイプRの外観デザインはあっちこちにツノが生えたような状態になっており、門外漢にはもはや理解不能に近い(笑)。



 

 しかし、これらの空力付加物は”○○風”を気取ったドレスアップではなく、真面目に速く走るための本気の武装品。もはやカッコの良し悪しを超越したデザインであり、マニアにはヨダレモノの機能美でもあるわけだ。

 シビック・タイプRは私を含むアマチュアドライバーにとって、山坂道でちょっとアクセルを踏んだだけでも「MTじゃ手足が追いつかない!」と泣きが入るほど速いのだが、じつは乗り心地も望外に快適である。

 サスペンションには、路面変化に合わせてリアルタイムで硬さを変える電子制御可変ダンパーが標準装備で、柔らかめの”コンフォート”からバランスのいい中間の”スポーツ”、そしてサーキット走行やタイムアタック用のハードな”+R”という3種の制御パターンモードがある。もちろん、どれを選んでも絶対的にはスポーツカーらしい引き締まった乗り心地なのだが、最硬の+Rモードにして市街地を走っても、絶望的に硬いわけではない。



 

 この種のハードコアスポーツカーでは、ほんの数年前まで、電子制御サスペンションなど邪道もいいところだった。どんな路面の凹凸をも踏みしだくようにガッチガチに硬いのが常識で、そんな乗り心地の苦行に耐えてこそ本物のスポーツカー乗り……みたいな風潮すらあった。

 しかし、新型シビック・タイプRを開発したエンジニアによれば「ある程度は柔らかくしなやかなサスペンションで姿勢を安定させて、空力を最大限に引き出す」のが、ニュルのような刻々と変化する路面で本当に速く走らせるためのツボなのだという。

 というわけで、周囲を威嚇するように戦闘的な空力ボディに、望外に快適な乗り心地……というシビック・タイプRのツボは、まさに最新スポーツカーのど真ん中。約450万円という価格は、シビックとしてはなるほど法外に高い(?)かもしれないが、同時に、ニュルで7分台のタイムを叩き出すクルマとして異様に安い……といえなくもない。



 

【スペック】
ホンダ・シビック・タイプR
全長×全幅×全高:4560×1875×1435mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1390kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ・1995cc
最高出力:320ps/6500rpm
最大トルク:400Nm/2500-4500rpm
変速機:6MT
JC08モード燃費:12.8km/L
乗車定員:4名
車両本体価格:450万360 円