キャンプ最終盤、山田哲人(ヤクルト)に今年の沖縄・浦添キャンプの感想を聞くと、「いい練習ができています」と力強い、…

 キャンプ最終盤、山田哲人(ヤクルト)に今年の沖縄・浦添キャンプの感想を聞くと、「いい練習ができています」と力強い、実に清々しい表情で答えが返ってきた。



昨シーズンは打率2割4分7厘と苦しんだ山田哲人

「このキャンプでは量を振っているので、自分自身、バットが振れているなと思います。練習量もすごいですし、これだけ長い時間球場にいて……やらなきゃいけない環境にありますからね。本当に1日1日、すごくいい練習ができているので、確実に成長していると感じています。

 仕上がりは、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)に合わせた昨年よりも早いですね。それまでも4月の開幕に合わせて仕上げていましたが、今年は自分自身のレベルアップをこのキャンプ中でしたいと。気持ちとしては、絶好調で4月を迎えたいんですけど、とにかくレベルアップしたかった。そういう意味で、本当にいいキャンプを過ごすことができました」

―― そう山田選手を突き動かしたのは、昨シーズンの成績が影響しているのでしょうか。

「そうですね。シーズン96敗は忘れたくても忘れられないですよ。ファンの方たちの期待を裏切ってしまいました。勝負の世界なので負けることもありますが、さすがに96敗はちょっと負けすぎたかなと思います。自分自身も打率が2割4分7厘でしたからね。本当に悔しかったです」

―― 全体練習は基本的に9時半に始まり18時に終了。練習時間の長さはもちろん、内容もすごくハードです。そんな過酷な状況のなかでの笑顔が印象的でした。やらされている感じがないから、そういう表情になれるのでしょうか。

「やらされている部分はもちろんあります(笑)。ただ、『1球1球をしっかりやろう』という気持ちになっているので、それが『今日もいい練習ができたな』という感情になり、笑顔につながっているんだと思います。練習もいろいろな方法があるので、真剣にやるなかで楽しむことができています」

―― “算数ティー”のときには、石井琢朗コーチに「何の練習ですか」と興味深そうに質問しながら、実に楽しそうにバットを振っていました。

「あの練習は面白いですよ。頭の中で別のことを考えながらも、無心で打たないといけないですし、考えることで間(ま)がつくれる効果もあると思いました」

 この”算数ティー”は、たとえばコーチが「3+6」とトスをしながら出題。選手は「9」と回答しながらスイングする。実にシンプルな練習だが、選手によっては「7+5」と出題されると「14……違う12や!」と珍回答が出るなど、頭と体を同時に動かすのは見ている以上に難しそうである。

 この練習メニューを考案した石井コーチに、その意図を聞いた。

「前頭葉を鍛えるというんですかね。野球というのは、多くの雑音が入ってくるなかで集中しなければいけないスポーツです。頭で違うことを考えながら、しっかりと自分の形でアジャストできるか。計算することで、打つときにインパクトが弱くなったり、自分のフォームで打てなくなったりしてはダメです。おそらく、神経が研ぎ澄まされて体が無意識に反応するときって、頭の中は真っ白な状態なんですよ。そこが狙いです。ほかにも、人によって効果はさまざまで、考えることで間が取れることもありますよね」

 石井コーチにここまでの山田の印象について聞いてみた。

「自分で課題を持って取り組んでいますよね。流れ作業のようにスイングするのではなく、課された回数をしっかり考えながら振っている。たいしたもんだと思います。今さら量を振らせる選手ではないのですが、このキャンプでは今までに経験したことのない量を振っています。まだ25歳ですからね。30歳を過ぎてからガクッと体力が落ちないように、そのための準備段階として絶対に必要なことだと思っています」

 そして石井コーチは「哲人には、技術的なことは何も言わないです」と言い、こう続けた。

「杉村(繁)さんとやってきたことを継続していけばいいと思います。哲人は多くを語るタイプではありませんが、信念を持ってやっている。そこを尊重して、彼の邪魔にならないように少し離れたところから見ている感じです」

 これまで山田と二人三脚で歩んできた杉村繁巡回打撃コーチは「新生・山田哲人に期待しています」と言い、こんな話をしてくれた。

「例年はキャンプの第3クールあたりから仕上げていくんだけど、今年は初日からしっかりバットが振れている。去年までは、真中(満)前監督とオレの体制で『質の濃いことをやろう』とやってきた。今年はそれにプラスして、石井コーチが時間、量とも使って限界に挑戦している。練習量は倍ぐらいになったんじゃないかな。

 山田は”ヤクルトの打撃理論”で育ち、2年連続トリプルスリーを達成した。そこに石井コーチという他球団を知る指導者の教えも加わり、打者としての引き出しも増えるはず。山田には今年にかける気持ちを爆発させてほしいね。こんな25歳の野球選手は、世界中にもそうはいないんですから」

 山田は2月19日のDeNAとの練習試合でホームランを放ち、試合後の会見ではこう力強く語った。

「しっくりこないところもありますけど、日に日にいい状態に近づいています。今の自分に合ったスイングができていると思います。上半身の部分がもっとしっくりすれば、完璧になる手応えはあります。今日のホームランは真っすぐを狙い、無心で打ち返すことができました。僕の基本であるバッティングができたので、あとはその確率を上げるための工夫をしていきたいです」

―― 先日の囲み取材では「今までは感覚で打っていましたが、今年は頭で考えながらやっています」とコメントしていました。

「僕も8年目となり、いろんな記憶が頭にありますからね。その経験をもとに探ったりしています。そういう部分で『ここはこうだったな』といった感じで、経験の積み重ねが頭を使うバッティングにつながっていると思います」

―― 理想は、感覚のバッティングと頭を使うバッティングの両方を使いこなすことですか。

「そうですね。基本は自分の感覚というか、打席では無心でありたいです。意識して『こうだな』と頭を使うのは、練習のときですね。試合でもある程度は考えますが、ざっくり程度です。打席であれこれと考えていたら、体が動かなくなってしまうので」

―― チームは今季”スモールベースボール”を掲げています。小川淳司監督は、山田選手の打順について「1番か3番」と明言しています。どのようにチームに貢献したいと考えていますか。

「僕自身は”打って・走って・守って”という選手だと思っているので、塁に出れば走りますし、打つときはフルスイングします。シーズン開幕まで無駄のない1日を過ごしたいですね。今は『絶対にやってやる』という強い意志を持って練習をしています」

 昨シーズンの山田はチームで唯一、全試合に出場した。だからこそ、96敗という現実を誰よりも重く受け止め、昨年秋のキャンプから真摯に向き合ってきた。山田は2月25日の日本ハムとのオープン戦でもホームランを放ち、紅白戦、練習試合を含め、実戦6試合で3本塁打。悔しさを晴らす準備は、着実に整っている。

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