11年ぶりのBクラスからの巻き返しを誓う巨人のなかに、「誰かイキのいい若手はいないのか?」と聞かれたら、真っ先に名…
11年ぶりのBクラスからの巻き返しを誓う巨人のなかに、「誰かイキのいい若手はいないのか?」と聞かれたら、真っ先に名前を挙げたい選手がいる。それが2年目の左腕・大江竜聖(りゅうせい)だ。昨年ファームの試合での”あの快投”を見てしまったら、推さないわけにはいかない。
甲子園をかけた地方大会があちこちで始まった頃だったから、おそらく7月10日前後。まだ梅雨は明けていなかったが、ジャイアンツ球場は十分に暑い盛りだった。そんな灼熱のなか、当時ルーキーの大江が日本ハム相手に見事なピッチングを披露したのだ。

ルーキーイヤーの昨シーズン、ファームで12試合に登板した巨人・大江竜聖
この日の日本ハム打線は、浅間大基、平沼翔太、高濱祐仁、横尾俊建、太田賢吾と、将来の中軸を担う有望株がこぞって出場。そんな”難敵”を相手に先発で6イニングを投げ、被安打3、与四球1で無失点の好投をみせた。それだけじゃない。奪った18個のアウトのうち、実に半分にあたる9個を三振で奪ったのだ。
「大江は(高校)1年の夏から甲子園で投げているんですけど、その当時から大舞台でも全然ぶれない子だなぁ……って感心したのを今でも覚えています」
大江を高校時代の3年間指導した二松学舎大付の市原勝人監督は、懐かしそうに振り返る。市原監督も二松学舎大付の左腕エースとして、1982年のセンバツでチームを準優勝に導いた好投手だった。その市川監督は、大江のマウンドでの立ち居振る舞いに一目置いていた。
「普段も淡々、マウンドでも淡々。人に媚びを売るようなところがまったくない。バックにエラーが出ても、苛立った表情は決して見せない。そこからピンチを迎えても、変わらず淡々としながらも、ギアだけがグッと上がっていく。そんなヤツでしたね」
市原監督にとって、忘れられないシーンがあるという。高校3年夏の東東京都大会の準決勝、東亜学園戦だ。
「あの試合で大江はスライダー、カーブがなかなかストライクにならず、ストレートまで際どいコースに決まらない。結局、ストライクゾーンのストレートで勝負するしかないところまで追い込まれたんです」
ところが、ここからの大江のピッチングが凄かったという。
「ストレートしかないという状況で、その球がどんどん強くなるんです。”生命力”あるなぁって思いましたね。ピンチになっても自分の力で切り抜けられる。逆境になった時ほど強いハートを持って戦えるヤツですね」
絶対に打たれてはいけない4番打者には、渾身のストレートで空振り三振。凡打に打ちとろうとか、そんな発想はない。相手を”粉砕”しないと気が済まない……勝負根性が大江のピッチングを支えていた。市原監督が続ける。
「ウチからプロに入った小杉陽太(元DeNA)や鈴木誠也(広島)もそうだったように、高校生の頃というのは表情を見れば何を考えているのかわかるし、どこかに”弱さ”や”かげり”のようなものがあるのが普通なんです。でも大江にはそういうところがまったくない。要するに、たくましいんですよ、いろんな面で。なんとか一人前にしてやりたいってこっちが気を遣わなくても、自分でどんどん成長していく。監督をして20年以上になりますが、大江みたいな内面の強さをもった選手は初めてでしたね」
プロ1年目の昨シーズン、大江はイースタンリーグでほぼ先発として12試合(62イニング)に登板し、4勝3敗、防御率2.30という成績を残した。「ずいぶん投げさせてもらったんだなぁ……」と調べてみたら、イニング数は今村信貴、アダメス、メルセデスに次いでチーム4番目の多さだった。
市原監督は嬉しそうに、こんな話をしてくれた。
「オフにね、大江が(高校の)グラウンドに来たんですよ。プロ野球選手なんだから、いろいろ忙しいはずなのに、次の日、また来たんです」
二松学舎大付のグラウンドは千葉県柏市にある。神奈川県座間市にある大江の実家からは3時間近くかかるはずである。
「なんか、そういう可愛げのあるヤツなんですよねぇ(笑)」
市原監督の表情も自然となごむ。
「つくったところが全然なくて、自然体なのになぜか年上に可愛がられる。ああいうのも一種の”愛されキャラ”なのかもしれないですね」
この春のキャンプ、若手中心の紅白戦を市原監督はたまたまテレビで見たという。
「大江らしく投げていましたよ。緊張してどうこう……ってヤツじゃないですから。実力通りのピッチングをして、それで打たれたらまだ実力不足ってこと。今年のスタートとしては上出来だったと思います。
プロでの成功を信じるとしたら、能力とか技術といった部分より、”生命力”とか”生き抜く力”っていうんですか、そこですね」
実力や技術はあって当たり前。プロはそこが勝負ではないと、市原監督は期待をつなぐ。
「大江は投げるのが大好きで、『任せた!』って言える頼もしさがある。ブルペンよりもマウンドに上げてからのピッチャーですから。そこの勝負になったら……アイツは楽しみな存在だと思います」
大江の3年先輩に田口麗斗(たぐち・かずと)という格好のお手本がチームにいるが、使える左腕は何人いてもいい。
飛躍の2年目。大江にとっては、むしろ”勝負の2年目”なのかもしれない。