NBAオールスターの直前に行なわれるメディアセッションでは、出場選手たちが世界中から集まった記者の質問に答えるのが恒例になっている。 本格的なプレーに関する質問から、「好きな色は?」「料理はできますか?」「バスケットボールを裸でプレー…

 NBAオールスターの直前に行なわれるメディアセッションでは、出場選手たちが世界中から集まった記者の質問に答えるのが恒例になっている。

 本格的なプレーに関する質問から、「好きな色は?」「料理はできますか?」「バスケットボールを裸でプレーしたことはありますか?」といった奇抜なクエスチョンまで。ここでどれだけのメディアに取り囲まれるかは、その選手のリーグ内での立ち位置を測るバロメーターでもある。



オールスターで豪快なダンクを決めるアデトクンボ

 現地時間の2月18日にロサンゼルスで行なわれた今年の”夢の球宴”で注目を集めたのは、レブロン・ジェームズ(クリーブランド・キャバリアーズ:以下キャブズ)、ケビン・デュラント、ステフィン・カリー(ともにゴールデンステイト・ウォリアーズ)といったリーグを代表するトップスターたち。そして、17日に開催されたセッションでは、”売り出し中”のヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)も多くのメディアに取り囲まれ続けた。

 23歳のヤングスターに対する質問は途切れることがなかった。そんな姿に、この選手に寄せられる期待の大きさを見ることができる。

 2013年にドラフト1巡目、全体15位でバックス入りを果たしたアデトクンボは、ここまで確実に成長を遂げてきた。昨シーズンは得点、リバウンド、アシスト、スティール、ブロックのすべてでチームトップの数字をマーク。まだ4年目ながら、主要5部門でチームリーダーになったリーグ史上5人目の選手になった。

 今シーズン前半も、平均27.8得点、10.4リバウンド、4.8アシストを挙げ、バックスをイースタン6位の32勝25敗に導いてきた。前半戦を終えた時点での勝率.561は、長く低迷を続けてきたバックスにとって2000-01シーズン以来のハイペース。その躍進の立役者となってきた若武者は、早くもシーズンMVP候補に挙げられている。

「(ここまでの自身の軌跡は、)自分で想像できた範囲を上回っているよ。NBAには到達できるかもしれないとは思っていたけど、23歳にしてオールスターに2回も出て、MVP 候補に挙げられて、チームを背負って立てるなんて思ってもみなかった」

 アデトクンボはそんな殊勝なコメントを残してはいたが、”グリーク・フリーク(ギリシャの怪物)”という愛称で呼ばれる彼がいないNBAオールスターなど、もはや考えにくい。それだけの実績を残してきたのはもちろん、アデトクンボの最も素晴らしいところは、そのプレーにこれまで誰も見たことがないようなオリジナリティとスケールの大きさが感じられることだ。

 身長211cmの長身ながら、パワー、バネ、ポイントガード(PG)が務まるほどのスキルを兼ね備えている。カモシカのような足でコートを縦横無尽に駆け回り、約224cmのウィングスパンを生かした豪快なダンク、ブロックでファンを魅了する。

 NBAのシーズン中は、アメリカのスポーツ専門テレビ局『ESPN』のニュースで、アデトクンボのハイライトシーンを見ない日はほとんどないようにも感じられる。一方で、彼はナイジェリアからギリシャに渡った移民の息子であり、そのステイタスゆえ、プロ入りの際には「一悶着あった」という話も興味深い。

「3つの国をまたぐライフストーリー」「ユニークなプレースタイル」「特徴のあるルックス」という要素が相まって、アデトクンボは存在自体がどこかフィクションのような趣(おもむき)を醸し出している。今年度のオールスターファン投票でもイースタン・カンファレンスでレブロンに次ぐ2位に入ったほどの人気は、そんなバックグラウンドの影響も受けているのだろう。

「オールスターに選ばれると気分がいいよ。とにかく楽しみたい。(選出されるということは)努力が報われたということだからね」

 晴れやかな笑顔でそう述べいてたアデトクンボだが、今回のオールスターでは大爆発するには至らなかった。

 27分間の出場で16得点どまり。ケンバ・ウォーカー(シャーロット・ホーネッツ)のショットを豪快にブロックした場面では観客を大いに湧かせたが、ハイライトはそれくらいだった。ただ……たとえそうだとしても、今季後半戦、その後に続くプレーオフで、アデトクンボがリーグ屈指の注目選手である事実に変わりはない。

 アデトクンボのポテンシャルは誰もが認めているが、彼はまだプレーオフでのシリーズ勝利を手にしたことがない。昨シーズンは、プレーオフ1stラウンドで上位シードのトロント・ラプターズと対戦し、2勝1敗とリードしたところから3連敗を喫して敗退。アデトクンボは6戦で平均24.8得点、9.5リバウンドという好成績をマークしたが、バックスを次のステージに導くまでには至らなかった。

 NBAで真のスーパースターとして認められるには、プレーオフでの活躍と勝利が絶対不可欠だ。アデトクンボにとってもそれが次のステップになる。バックスはエリック・ブレッドソー、クリス・ミドルトン、ジャバリ・パーカーといった多くのタレントを擁しているが、最終的にはすべてアデトクンボ次第。若きエースが大舞台でどんなプレーができるかが、チームの浮沈を決定づけると言っても過言ではない。

「とてつもないタレントで、プレーオフではさらに一段上のレベルに上げてくるんじゃないかと期待している。そうなれば、ヤニスは真の意味でリーグのトップ3プレーヤーになる。プレーオフで自分がすべてを切り開かなければいけないと気づいたとき、彼は完全に解き放たれ、これまでにないようなスーパー・パフォーマンスを見せてくれるかもしれない」

 筆者が『ダンクシュート』誌の企画で展開した現地記者座談会の中で、アメリカのバスケットボール専門誌『SLAMマガジン』のライン・ネルソン記者はそう述べていた。その期待通り、2018年のプレーオフでアデトクンボは完全開花するのだろうか。

 イースタンでは、4連覇を目指すキャブズ、シーズン序盤を突っ走ったボストン・セルティックス、そして現在勝率1位のラプターズが”本命”となる。対するバックスは、いわば”ダークホース”。そんな立場にあるチームを、上昇一途のアデトクンボはどこまで導けるのか。また、試練の中で覚醒し、真の意味でNBAのエリートに躍り出る瞬間は訪れるのか。

 ナイジェリアで生まれ、ギリシャで磨かれ、アメリカに辿り着いたダイヤの原石が大きな輝きを放とうとしている。同世代に過ごすスポーツファンは、今後、その軌跡から絶対に目を離してはいけない。