「94年組」という言葉が生まれたのはいつ頃だったのか。1994年生まれの女子選手に逸材が多かったことから、いつの間にか定着していた。「なでしこジャパン」ほど気の利いたものではないけれど、そもそも個人戦のテニスだし、こんなざっくりした愛称も悪…

「94年組」という言葉が生まれたのはいつ頃だったのか。1994年生まれの女子選手に逸材が多かったことから、いつの間にか定着していた。「なでしこジャパン」ほど気の利いたものではないけれど、そもそも個人戦のテニスだし、こんなざっくりした愛称も悪くない。

 17年全豪オープンの女子ダブルスで穂積絵莉と加藤未唯が準決勝進出を果たしたことで、一躍、94年組の存在感が増した。

 日本選手同士が組んでの四大大会4強は、02年全仏の杉山愛/藤原里華以来15年ぶりだった。杉山が女子ダブルスで全米、全仏、ウィンブルドンを制したときのパートナーはいずれも外国人選手。高いスキルを持つ日本選手が馬力のある外国選手と組んで強みを発揮する例が多かったが、穂積/加藤のダブルスには、日本人同士のあうんの呼吸と異なる個性の融合の妙、その両方がある。

 加藤はネットで自由奔放に動き、穂積はベースラインでしっかり返球し、うまくバランスを取る。11年全豪ジュニア準優勝など、以前からダブルスを組む機会が多く、気の合う二人ならではのコンビネーションだ。

 その全豪から半年後、ウィンブルドンの女子ダブルスでは外国選手と組んだ二宮真琴が4強入りした。全豪での穂積、加藤の活躍を見て「すごいなと思ったが、私もできると思った」という二宮のコメントがいい。実際に4強入りを決めると、二宮は「やっと並べた感じです」。以前は慎重な発言の多かった二宮だが、「ここまで来たら優勝を目指して頑張ります」と威勢のいい言葉も聞かれた。

 ジュニア時代から切磋琢磨してきた仲間の活躍に刺激を受け、「私もできる」と自分を励ます。二宮の例だけでなく、94年組には常にその好循環が見られる。

 最初にグループを引っ張ったのは尾崎里紗だった。06年の全国小学生大会で優勝。その直後に、早生まれで学年が一つ上の穂積が全日本ジュニア12歳以下を制し、競争が激しくなった。

 11年の全日本ジュニア18歳以下では尾崎が単複優勝。ダブルスのパートナーは二宮だった。シングルス準優勝が澤柳璃子で、澤柳は翌12年も準優勝。優勝したのは加藤だった。

 四大大会ジュニアでは、前述の穂積/加藤の11年全豪準優勝に、尾崎が12年全豪ジュニアのシングルス8強で続いた。

 世界への登竜門とも位置付けられる全日本選手権では、穂積が13年に19歳で初優勝を飾った。今のところ94年組ではこれが唯一の優勝だ。

 日比野菜緒はジュニア時代はライバルたちに先行されていたが、15年にWTAツアーのタシケントオープンで初優勝し、世代の先頭に躍り出た。四大大会でも、初出場の16年全豪から本戦に定着している。

 ほかの選手も続いた。17年の全豪で尾崎と穂積が四大大会のシングルス初出場を果たすと、同年の全仏で加藤も本戦デビューを飾る。さらに、尾崎と日比野は17年全米でそろって四大大会初勝利を挙げた。

 国別対抗戦フェドカップでは尾崎が14年に初の代表入り。翌15年に穂積が初代表、16年には日比野が初めてフェド杯の日の丸を背負った。さらに18年には初代表の加藤と二宮が日本のアジア/オセアニアゾーン優勝に貢献した。

 ご覧のように、出世争いは抜きつ抜かれつの団子レース。しかも、年ごとに高いレベルでの競争となっているのが頼もしい。

 切磋琢磨と言えば聞こえはいいが、それなりの敵愾心、嫉妬心はあって当然で、生々しい闘いもあったと思われる。

 ジュニア時代、日比野はどちらかと言えば2番手グループに属し、ロンドンとリオの五輪を目指す日本テニス協会の強化策では尾崎、穂積、加藤らが中核だった。だから日比野はプロ転向時にも迷いがあったという。同年代が活躍する中、結果が出ない苛立ちで「テニスなんて好きじゃない」と気持ちが屈折することもあった。そうした苦い思いを飲み込み、ぎらぎらした思いも大なり小なり持ちながらの競争なのだろう。

 それでも、彼女たちの関係は見ていて清々しい。互いに仲がいいけれど、もたれ合う関係ではないからだ。それぞれがしっかりしたパーソナリティとモチベーションを持ち、互いをリスペクトする気持ちも強いからだ。

 それぞれ個性は違うが、みな、アスリートらしい明るさを持っている。誰が一番大きな花を咲かせるか。同年代の競争はまだまだ続く。(秋山英宏)

※写真は左から尾崎里紗 (Photo by Power Sport Images/Getty Images)、加藤未唯(Photo by Power Sport Images/Getty Images)、日比野菜緒(Photo by Scott Barbour/Getty Images)、穂積絵莉 (Photo by Jack Thomas/Getty Images)、二宮真琴 (Photo by Darrian Traynor/Getty Images)