WEEKLY TOUR REPORT米ツアー・トピックス 2位に2打差をつけて迎えた最終18番ホール(パー4)。バッバ・ワトソン(アメリカ)は最後に2mのパーパットを難なく沈めて、ジェネシスオープン(2月15日~18日/カリフォルニア州…
WEEKLY TOUR REPORT
米ツアー・トピックス
2位に2打差をつけて迎えた最終18番ホール(パー4)。バッバ・ワトソン(アメリカ)は最後に2mのパーパットを難なく沈めて、ジェネシスオープン(2月15日~18日/カリフォルニア州)の優勝を決めた。
2014年、2016年大会(当時はノーザントラストオープン)に続いて、リビエラCCでの勝利は通算3度目。偉大なるプレーヤー、ベン・ホーガン、アーノルド・パーマーの記録に並んだ(※最多は通算4勝のマクドナルド・スミスとロイド・マングラム)。
その瞬間、高々と両腕を上げたワトソンだったが、直後にはみるみると涙があふれて、キャディーの胸に顔をうずめた。
2年ぶりにツアー優勝を飾って涙するバッバ・ワトソン
ツアー通算10勝目は、ワトソンにとって2年ぶりの復活優勝だった。ちょうど2年前、この大会を制したあとから、ワトソンは勝利から見放されていった。未勝利に終わった昨季は22試合中7試合で予選落ちを喫するなど低迷し、人知れず苦しい日々を過ごしてきたのだ。
「この2年間のことを思うと、(涙が)堪(こら)え切れなかったんだ」
もとより感情の起伏が激しいワトソンではあるが、その大きな肩を揺すって号泣する姿に、18番グリーンを取り囲んだファンから大きな喝采が送られた。
苦悩の始まりは2年前、2年に1度開催される欧州選抜vs米国選抜のチーム対抗戦、ライダーカップのメンバーに選出されなかったときだった。わずかなポイント差でランキングによる出場資格を逃すと、キャプテン推薦においても、そのときのキャプテンを務めたデービス・ラブIII(アメリカ)が当時世界ランキング7位のワトソンではなく、直前に好調なプレーを続けていたライアン・ムーア(アメリカ)を選出。ここでまず、ワトソンは涙した。
それでも、ラブIIIはワトソンに米国選抜の副キャプテンへの就任を要請。ワトソンはこれを快諾し、チームの勝利にひと役買った。
「プレーはできなかったけど、チームの一員として貢献できたことは、僕にとって生涯の宝だ」
ライダーカップを終えたあとは、そう喜びの声を発したワトソンだったが、今度はその後に突然、体調を崩した。そして同じ頃、夫人のアンジーさんが足の手術を受けるなど、ファミリーにも問題が起こって、体重は10kgほども減少した。
ワトソンが当時を振り返る。
「(あのときは)僕は十分に食べることもできなかった。その結果、坂道を転がり落ちるように、成績も下降線をたどっていった」
2017年はまさに厳しいシーズンとなった。最高位は、JB・ホームズ(アメリカ)と組んだチーム戦のチューリッヒ・クラシックの5位。予選落ち7回、棄権1回という厳しい状況が続く中、「引退」という文字も脳裏によぎったという。
「本当に”引退”を決意するまで、あとわずかなところだった。僕はもう『(ゴルフを)やめてもいい』と思ったんだ。でも、妻は違った。『泣き言を言っているヒマがあったら、しっかりゴルフをしなさい』と叱りつけられた。彼女は僕よりもずっと強いんだ(笑)」
もとプロバスケットボールプレーヤーのアンジーさんの言葉は、誰よりもワトソンの心に響いた。
「体調を崩した要因は言いたくない。でも、(夫人の叱咤激励を受けて)夏にはようやく体重も戻って、少しずつ自分らしいプレーができるようになった」
そしてシーズン終了後、当初は長いオフを過ごす予定だったが、新シーズンが開幕したばかりの昨秋にも試合に出場。徐々にゴルフに対する意欲も取り戻していった。
今回、久しぶりの勝利を飾ったワトソンは、ある言葉を繰り返した。
You never know……(何が起こるかわからない)。
「人には何が起こるかわからない。僕はもう2度と勝つことができないかもしれないし、これから100勝するかもしれない。例えば、ビル・ハース(アメリカ)のように、突然の惨事に見舞われるかもしれない。本当に、この勝利が僕にとっての最後になるかもしれない。明日、何が起こるかなんて、誰にもわからないことなんだ」
今大会直前、コース近くで交通事故に巻き込まれたハース。本人は無事だったものの、乗っていた車のドライバーを亡くす悲劇もあって大会出場を棄権した。ワトソンはそんなハースに対しても想いを馳せながら、自らの現状を改めて見つめ直していた。
かつて「ツアー10勝を挙げたら、引退する」と公言していたワトソン。しかし、苦悩のときを経て、今やそうした考えはさらさらない。
「まさか僕がこのPGAツアーで10勝を挙げられるなんて、夢にも思っていなかったからね。10勝は、僕にとって”殿堂入り”と同じくらいの価値がある。
今回のこの勝利によって、2年シードを得た。だから、あと2年はがんばるよ。そして、マスターズには(委員会のメンバーから)追い出されるまで、ずっと出場するつもりだ」
世界ランキングは117位から40位に上昇。2012年、2014年と2度の勝利を飾っているマスターズでも、一躍優勝候補へと浮上した。
何が起こるかわからない――この4月、ワトソンがマスターズで3度目の栄冠を手にしても不思議ではない。