17歳にして次々と日本記録を更新する池江璃花子

 日本人選手の活躍で盛り上がりを見せた冬季平昌五輪。その裏で、2020年東京五輪での活躍が期待されるヒロイン候補選手が、昨年の悔しさをバネに復調の兆しを見せていた。

 2月17、18日の2日間、東京辰巳国際水泳場で行なわれたコナミオープン2018。競泳の国際大会の選考会を兼ねた日本選手権を4月に控え、最後の長水路(50mプール)で行なわれる大会として多くの選手が出場する。

 まだトレーニング期のまっただ中であるこのタイミングに、池江璃花子(ルネサンス亀戸)が日本記録を連発する。初日の200m自由形、2日目には50mバタフライでそれぞれ日本記録を更新。さらに珍しく400m自由形にも出場し、「ペース配分がわからなくて、周りを見ながら泳ぎました」と言いつつ、実力をいかんなく発揮して4分09秒29の日本高校新記録を樹立した。

 今大会、特に200m自由形での池江の泳ぎには目を見張るものがあった。焦りもなく、力みもなく、ゆったりとした泳ぎなのに、ひとかきで大きく進んでいく。昨年、どこか力みが目立っていた泳ぎが消え、伸び伸びと水面を進む。池江が泳いでいた4レーンだけ、世界が違った。

 フィニッシュして電光掲示板に表示されたのは、自身が持っていた記録を1秒29も上回る、1分55秒04という日本新記録だった。昨年7月の第17回世界水泳選手権(ハンガリー・ブダペスト)の同種目で2位に相当する好記録に、会場が大きく沸き、拍手が鳴り響いた。

「まさかここまで記録が出るとは思っていなかったのでビックリしました。前半からいこうと思っていて、その通りに泳げましたし、自己ベストも出て本当にうれしいです」

 予兆はあった。年が明けて1月14、15日に、短水路(25mプール)で行なわれた東京都新春水泳競技大会で、池江は100m、200m自由形、50mバタフライ、200m個人メドレーの4種目で短水路日本新記録を樹立。特に200m自由形は、短水路ながら従来の記録を1秒近く縮める好記録だった。

 池江がここまで記録を伸ばせたのは、昨年の世界水泳選手権での苦い経験が生きているからだ。

 昨年1月の段階では、200m自由形で日本記録を更新しており、いつも通りの勢いのある”池江璃花子”を見せていたが、4月の日本選手権、5月のジャパンオープン2017と、なかなか目標にしていた自己ベストが更新できず、徐々に表情に陰りが見え始める。

「楽しかったはずの泳ぐことが、楽しくない」

 そんな気持ちが、レース後のコメントの端々に見え隠れしていた。

 そして、メダルを狙った世界水泳選手権の100mバタフライ決勝。6位に終わった池江は「実力不足。(メダルに)自分の力が及ばなかったことがすごく悔しい」と涙を流した。

 原因はわかっていた。リオデジャネイロ五輪以降、次の目標は明確になっていたにも関わらず、どうしても練習に身が入らない。結果を残したリオデジャネイロ五輪前よりも、あきらかに冬場の泳ぎ込みが不足していた。それでも、何とかなるだろうという気持ちもあったのだろう。だが、現実は残酷だった。練習への取り組みが、ハッキリと結果に表れてしまったのだ。

「このままでは、いけない」と、池江の闘争心に火がついた。遅いかもしれないけれど、今からでも頑張ろう。そんな気持ちで、世界水泳選手権後の練習を必死にこなした。

 その成果は、世界水泳選手権から約1カ月後の世界ジュニア水泳選手権ですぐに表れた。出したくても出せなかった自己ベストが、50mバタフライで出せたのだ。さらに9月の愛媛国体では、屋外プールという環境に加えて、台風18号の影響もあるなか、50m自由形で日本新記録を更新する。愛媛国体のレース後に見せた笑顔は、2015年に中学生で日本代表入りを果たしたときに見せた、水泳が楽しい、と話すときの池江の表情だった。

 夏のレースシーズンが終わり、冬場のトレーニング期に入っても、池江は昨年のように気持ちが切れることはなかった。

「昨年の夏以降、すべての練習に対して、気持ちや態度を緩めないようになりました」

 一つひとつの練習で手を抜かず、最後までやりきる。言葉で言えば簡単だが、特に朝から晩まで自分を追い込む日々が続く冬場のトレーニング期は、精神的にも肉体的にもきつくなっていく。そんななかで気持ちを切らさず、自分を追い込むのは非常に困難だ。どこかで「今日は、ちょっと気を抜いていいかな」という日が出てきてもおかしくない。

 それでも、もう世界水泳選手権のときのような悔しさを味わいたくないという気持ちが、池江を奮い立たせた。もう一度、心から水泳が楽しいと言えるようになるために。

 記録だけを見ていれば、池江は毎年自己ベストをマークしている。だが、身体の成長とともに記録をどんどん伸ばしていた2016年までと、2017年の後半から更新した自己ベストでは、意味が大きく違う。単純に楽しいだけの水泳から、自分が水泳を楽しいと思えるのは、どんな瞬間なのか。その瞬間を味わうためには、自分は何をどう取り組めばいいのか……。池江は、自分の気の緩みが招いた世界大会での悔しさによって、本当の意味で競技としての水泳を楽しむとはどういうことなのかに気づくことができたのだ。気づいたから、どんなときでも、どんな練習でも気を抜くことがなくなったのである。

 コナミオープン2018の200m自由形後のインタビューで、水泳が楽しいと思える原動力は何ですか、という質問をぶつけてみると、池江は満面の笑顔でこう答えた。

「全部が楽しいんですよ。つたない言い方かもしれませんが、『私泳いでる、楽しい!』って。レースも練習も、泳ぐというだけで幸せですし。うまく言えないんですけど……そういう単純な気持ちを持てているのも、水泳が楽しいと思える要因だと思います」

 ただ泳ぐだけでも楽しかった。記録が出れば、もっと楽しかった。そこに悔しさという新たな経験が加わり、水泳を楽しむことの意味を自分なりに見つけ出した。こうなると、池江は強い。悩み、迷いながら、そして日々成長を続けながら、水泳を心から楽しむ池江の泳ぎを、今年は私たちも心から純粋に楽しみたい。

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