フランス・パリで行われている全仏オープン(5月22日~6月5日)の6日目。 第4シードのラファエル・ナダル(スペイン)が28日(土)に行われるはずの3回戦の棄権を発表し、暗雲が立ち込めたロラン・ギャロス。そのとき世界ランク52位のフェル…

 フランス・パリで行われている全仏オープン(5月22日~6月5日)の6日目。

 第4シードのラファエル・ナダル(スペイン)が28日(土)に行われるはずの3回戦の棄権を発表し、暗雲が立ち込めたロラン・ギャロス。そのとき世界ランク52位のフェルナンド・ベルダスコ(スペイン)との第4セットを戦っていた第5シードの錦織圭(日清食品)は、苦しみながらも6-3 6-4 3-6 2-6 6-4で勝利し、第9シードのリシャール・ガスケ(フランス)との4回戦に駒を進めた。

 また、全豪オープンに続く3回戦進出で注目されていた大坂なおみ(日本)は、第6シードのシモナ・ハレプ(ルーマニア)に6-4 2-6 3-6で逆転負けを喫した。

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 英語の質問に「Very Happy」と答えながら、錦織は全然ハッピーそうに見えなかった。一番の原因は3時間21分を戦った疲れだろう。そして、「ベストのテニスではなかった」という自分のプレーに対する不満もあったのかもしれない。

 第1セットを6-3で先取し、第2セットはより接戦だったが6-4で取り、2セットアップになっても決して楽勝ムードではなかった。第2セット途中から明らかにベルダスコの調子が上がっていたからだ。第1セットで5本だったウィナーも14本に増え、第3セット3-3からの3ゲーム連取ですっかり勢いづいた。

 最高時には世界7位で、クレーでの優勝回数5回というクレー巧者ベルダスコは、その片鱗を随所に見せる。錦織を前におびき寄せてのパッシングショット、ロブ、ドロップショット……。そして、錦織が警戒していたフォアハンドがやはり脅威だった。

 「第3セットと第4セットはフォアを打たせすぎた」 錦織はあとで反省したが、それがときどき現れる錦織の「勝負したい」性格らしい。

 第4セットではベルダスコのサービス力が増し、錦織はファーストサービスの確率が下がった。ベルダスコが2度のブレークに成功し、勝負は最終セットへ。

 ベルダスコは2セットダウンからの逆転勝ちがキャリアを通じて5回。この芸当を持つ者は、観客を惹きつけるタイプの選手が多い。ガッツなのか、技なのか、愛嬌なのか、とにかく観客を自分の味方につけていくから、試合が長引けば長引くほど優位になっていく。ましてや32歳のやや下り坂の元トップ10プレーヤーが、優勝候補の一人と言われている26歳を相手に接戦を演じているのだ。

 同時に、錦織が2セットアップから負けたことはない。2セットアップから最終セットに持ち込まれたことも1度しかない。錦織がブレークした2008年の全米オープン、3回戦で当時4位のダビド・フェレール(スペイン)を破った試合だ。18歳だった錦織は最終セット7-5で勝利したが、完全に挑戦者だった当時の錦織と今の立場では、追い上げられるプレッシャーの大きさは全然違っただろう。

 しかし経験の力は大きい。錦織は最終セットで立て直した。それができたのは、フォアとバックの力の差が歴然のベルダスコに対し、両方のウィナー数が同じということに象徴される総合力、安定性が大きいのかもしれない。最終セットは第5ゲームをブレークし、最後まで守った。

 154対151。これは両者のポイント獲得総数だ。上回っているのは実はベルダスコ。勝っても浮かなかった錦織の表情の理由を物語っている。たとえ錦織がそのデータを知らなかったとしても。

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 18歳という年齢のせいもあるのだろう。その成長スピードは見ていて爽快だ。敗れたが、一昨年の準優勝者であるハレプに対し、大坂は一歩も引かない攻撃的テニスでスザンヌ・ランラン・コートを沸かせた。

 2回戦では「安定性重視」を心がけたと言っていたが、この試合ではフォアもバックもライン際を強気で攻め続けた。ハレプはミスが少なく、ショットの組み立てが巧い。根気よく打ち合っていても2日前の相手のようにはミスをしてくれないだろう。実際大坂の攻めは功を奏し、2-4から4ゲーム連取でセットを奪った。しかし、攻めた分、ミスが増えた。第2セットと第3セットではハレプの2倍以上のアンフォーストエラーを記録した。

 最終セット、第4ゲームでブレークを許したが、第5ゲームで4度のデュースの末にブレークバック。しかし、ふたたび第8ゲームでラブゲームでのブレークを許した。大坂にとっては致命的なサービスダウンで、勝利へ勢いづいたハレプからブレークバックのチャンスをつかむことはできなかった。

 「少なくともオーストラリアの3回戦よりはよかったと思う」  それは疑いようがない。ビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)に敗れた試合は1-6 1-6だった。

 〈次〉が今から楽しみだ。

(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)