2月上旬に開催される丸亀国際ハーフマラソンは、”国内屈指の高速コース”として知られている。例年、国内トップクラスの選手たちが集まるが、今年の2月4日に行なわれたレースは、その3週間後の25日に迫る東京マラソンの、国内招待の男子選手12名中4名が参戦した。


丸亀ハーフを

「異次元」の走りで制した設楽悠太

 その中で最も注目を集めたのが、設楽悠太(Honda)だ。「東京マラソンに向けた調整ではなく、出る以上は記録を狙っていますし、全力で挑みたい。日本記録を破れるのは僕しかいないと思うので」と、自身が保持する日本記録(1時間0分17秒)をターゲットに掲げていた。

 スタート時の気温は2.1度。ウォーミングアップ中には雪が舞うなど厳しい条件になったが、設楽は5kmを14分10秒、10kmを28分02秒というハイペースで突っ走る。後半の向かい風に阻まれて日本記録には届かなかったものの、1時間1分13秒の2位(日本人トップ)でフィニッシュ。日本人2位の村山謙太(旭化成)に29秒、同3位の鈴木洋平(愛三工業)に40秒という大差をつけて、圧倒的な強さを見せた。

 レース後のインタビューで、「今回は勝ちにこだわって走ったので、日本人トップになれて嬉しかったです。東京マラソンは、みなさんが楽しみにしている記録の更新を目指します」と話した設楽。昨年は東京マラソンの「前半」を意識して丸亀ハーフを走ったが、今回は記録更新につなげるために「全力」で駆け抜けた。

 一方、設楽以外の東京マラソン国内招待選手である市田孝(旭化成)、佐藤悠基(日清食品グループ)、神野大地(コニカミノルタ)は、1時間2分30秒前後でゴールしている(市田1時間2分27秒、佐藤1時間2分33秒、神野1時間2分35秒)。3人とも東京マラソンに向けた「調整」の一環で出場。1月には40km走などのマラソン練習を積んできたため、丸亀ハーフは余力を残した状態で走り、身体に刺激(スピード)を入れるのが目的だった。

 東京マラソン出場組のなかでは、設楽だけが”別次元”のレースをこなしたことになる。しかも、設楽は2月11日の唐津10マイルでも「全力で」走り、46分12秒で完勝。このレース出場のペースは、日本マラソン界の常識を逸脱している。

 連戦といえば川内優輝(埼玉県庁)が有名だが、設楽はリオ五輪1万mにも出場したスピードランナーだ。連戦でも持ち味のスピードを落とすことなく、”軽く”仕上げているような印象があり、川内とは明らかにタイプが異なる。

 前回の東京では一度も40km走を行なわず、初マラソンに挑戦した。10kmを29分12秒、20kmを58分34秒、中間点を1時間1分55秒で通過。33km付近まで日本記録(2時間6分16秒)を上回り、2時間9分27秒でまとめている。

 その成功体験もあり、「40km走をやったからといって、マラソンは走れるわけではない」と、設楽は日本人選手がベースにしている40km走には否定的な意見を持つ。

「『距離を踏まないとマラソンは走れない』という声はたくさん聞きますけど、もうそんな時代ではありません。僕は40km走をやらなくてもマラソンを走れます。今は環境にも恵まれているので、いいシューズを選び、効率よく練習すれば結果はついてくるんじゃないでしょうか。マラソンの1週間、2週間前まで試合に出るのも、周りからは『考えられない』という声は聞きますけど、僕の中では普通です」

 設楽は昨年9月のチェコで、ハーフマラソンの日本記録を10年ぶりに塗り替える1時間0分17秒を樹立(1週間前には10kmレースにも出場)。その1週間後のベルリンマラソンでは、2時間9分03秒の自己ベストで6位に食い込んでいる。

 日本マラソン界の常識でいうと、ハーフマラソンで日本記録をマークした1週間後に、フルマラソンでも好タイムを残すことは考えられなかった。不可能を可能にしたのは、ナイキの厚底シューズによるところも大きいだろう。設楽は昨年9月から、『ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%』を履いて、連戦でも快走を続けてきた。

「昔は薄いシューズが当たり前だったんですけど、今は厚いシューズになって、疲労感が違います。僕の感覚では、毎週ハーフくらいの距離だったら走れるくらいのシューズです。足を置くだけで前に進む感じがありますし、それが結果につながってきているかなと思います」

 1月は元日のニューイヤー駅伝4区で、区間2位の井上大仁(MHPS)に34秒差をつけて区間賞。21日の都道府県駅伝でも最終7区でぶっちぎりの区間賞を獲得している。他の選手が走り込みをしているとき、設楽は20km前後のレースを立て続けにこなして、スピードと持久力を高めてきた。

 東京マラソンは日本人向けのキロ3分で進むペースメーカーも用意される予定だが、前世界記録保持者のウィルソン・キプサング(ケニア)ら世界の強豪たちの背中を追いかけるつもりでいる。

「自分のためではなくて、みなさんのために僕は走っています。見てくれている人たちのことを考えたら、一番の楽しみは日本記録の更新だと思うので、その思いを背負って挑みたい。キプサング選手にもチャレンジしたいですし、前半から攻めていこうかなと思います」

 昨年12月の福岡国際マラソンでは、同学年で同じナイキの厚底シューズを履く大迫傑(Nike ORPJT)が現役日本人最速の2時間7分19秒をマークした。東京では新発想のマラソントレーニングをこなす設楽悠太が、どんなタイムを刻むのか。