近年、ACLの舞台において、中国勢は日本のチームにとってもっとも警戒すべき存在となっている。最大のライバルと言える…

 近年、ACLの舞台において、中国勢は日本のチームにとってもっとも警戒すべき存在となっている。最大のライバルと言えるのが、爆買い中国の象徴――広州恒大だろう。現在はファビオ・カンナヴァーロ監督が率いるこのチームはこれまでにも数多くのビッグネームを擁し、2013年と2015年の2度、アジアの頂点に立っている。



終了間際に同点弾を決められて愕然とする柏レイソル

 ほかにも昨年までFWカルロス・テベスが所属していた上海申花や、山東魯能、北京国安あたりが日本でもお馴染みのチームだろう。MFオスカルやFWフッキを擁して昨年のACLで浦和レッズと死闘を演じた上海上港も、近年はその名声を高めつつある。

 しかし今回、柏レイソルと対戦したのは、ちょっと聞きなれないチームだった。

 天津権健(てんしんけんけん)。

 どこか町の中華料理屋さんを思い起こさせる響きのこの中国のチームは、知名度から言えば、それほど脅威には映らないかもしれない。もっともメンバーリストを見れば、なるほどと唸(うな)らされた。

 アフロヘアのベルギー代表MFアクセル・ヴィツェルや、ケルンでFW大迫勇也と同僚だったフランス人ストライカーのFWアントニー・モデストがスタメンに名を連ね、ベンチには元セレソンのFWアレシャンドレ・パトが控える。

 そしてこのチームを率いるのは、パウロ・ソウザである。バーゼルやフィオレンティーナで指導者として実績を積んだ元ポルトガル代表の名手が、今季よりこのチームを指揮することになったのだ。

 天津権健の歴史は浅く、クラブ創設は2006年。昨年、初めて昇格した中国超級リーグ(1部)でいきなり3位となり、ACL出場権を獲得した。豊富な資金をバックに急激に力をつけてきた新興クラブのひとつと位置づけられる。つまり、町の中華屋さんとは大きくかけ離れた、新たな「爆買い軍団」だったのだ。

 もっとも、そのタレント力とは裏腹に、天津権健は決して破壊力を備えたチームではなかった。立ち上がりから主導権を握ったのは、柏のほうだ。

 この日の柏は相手の高さを警戒し、普段とは異なる4バックを採用。高さのあるDFパク・ジョンスを中央に置き、いつもはセンターバックを務めるDF中山雄太を左サイドバックに起用した。

 そのため、必然的に攻撃はFW伊東純也とDF小池龍太が組む右サイドに偏ったが、そのエリアをやすやすと攻略すると、27分には小池のクロスを合わせにいったMF江坂任が顔を蹴られてPKを獲得。このチャンスはFWクリスティアーノが逃したものの、終始相手を押し込んだ柏がゴールを奪うのは時間の問題だった。

 対する天津権健は、ヴィツェルこそ中盤の底で質の高いプレーを見せていたが、センターフォワードを務めるモデストの動きにキレはなく、前半途中からピッチに立ったパトも身体が重そうに映った。とりわけ守備時における動きが緩慢で、”アリバイ作り”のようなプレスをかけには来るのだが、まるでプレッシャーにはならず、この対応が柏のビルドアップを大いに楽にしてくれた。

「相手は守備が組織的ではなかったし、人にも食いつくのでスペースはあった」

 キャプテンのMF大谷秀和が指摘したように、最終ラインから楽にボールを回せた柏は、トップ下を務めた江坂がうまくボールを引き出し、リズムを作っていく。

 52分に生まれた先制点の場面も、巧みなパス回しで相手を動かすと、中山からのくさびを受けた江坂がドリブルで持ち上がり、右サイドを駆け上がった小池に絶妙なスルーパスを通す。小池からの折り返しをクリスティアーノが豪快に叩き込んだ一連の流れは、まるで練習でも見ているかのような見事なものだった。

 その後も柏は多くのチャンスを作り、次々に決定機を迎える。追加点こそなかなか奪えなかったものの、個の力を組織力で完全に凌駕した展開を見るかぎり、柏に不安要素はないと思われた。

 ところが、終了間際に落とし穴が待ち受けていた。長い縦パスに反応したモデストにディフェンダーが置き去りにされると、一度はGK中村航輔のセーブでピンチをしのいだかに思われたが、こぼれ球に反応したパトに同点ゴールを奪われてしまう。

 まるでやる気の感じられなかったふたりに、最後の最後で決定的な一撃をお見舞いされてしまった。これが、サッカーの怖さなのだろう。89分眠っていても、1分間だけ仕事をすればいい。そんなしたたかさが垣間見えたシーンだった。

 対する柏は献身的に走り、味方をサポートして、よどみない攻撃を披露していた。しかし、いい形を作りながらも、フィニッシュが決まらない。決定力不足と言えばそれまでだが、大谷の言葉を借りれば「覚悟」が足りなかったのかもしれない。

 3度のACL出場を誇る経験豊富なキャプテンは、厳しい表情で試合を振り返った。

「自分が決めるという覚悟だったり、強い意志が足りなかった。組織としては戦えていたし、球際のバトルでもひるまなかった。でも、勝負を分けるのは、結局はゴール。チャンスがありながらも、自分が決めるという覚悟でゴールに突っ込んでいく選手がいなかった。綺麗に入れば理想ですけど、泥臭くても1点は1点。そういう部分をもっと求めていかなくてはいけない」

 これは柏だけではなく、日本のサッカー全体に言えることかもしれない。内容で勝っていても、結果がついてこない。国際舞台ではそんな光景が、何度も繰り返されている。

 殺るか、殺られるか――。アジアを勝ち抜くために必要なのは、まぎれもない「覚悟」である。覚悟が足りなかった柏が、ホームで痛恨の引き分けを演じた。