2月17日、東京・江戸川陸上競技場。オール明大は来日していたシドニー大クラブとの国際親善試合をおこない、14-12で迎えた後半から田村煕を起用した。

 2015年度の卒業生である田村は、4年の梶村祐介副将、1学年下でホンダの新人だった尾又寛汰といった在学中にプレーしていた元同僚をCTBに従え、首尾よく両タッチライン際のスペースを攻略。自身と入れ替わる形でクラブに加わった2年の山村知也の3トライを演出した。54-12で快勝し、こう振り返った。

「(コンビネーションは)昨日しか合わせていないんですけど、学生たちにはこういうチームはコミュニケーションを取るのが大事だと言っていました。僕の方から発信して、外の方からも発信してもらって…。少し(呼吸が)合わない部分もありましたけど、十分な内容だったと思います」

 この国のラグビー界では、一部の伝統校がOBと現役選手を交えた「オール」を編成する時がある。OBから現役学生への伝承が主目的のひとつとされるが、この日の田村が伝えたかったのは意思伝達の重要性だった。

 折しも今年1月、後輩たちは19季ぶりに出場した大学選手権決勝で帝京大に20-21と肉薄している。副将の梶村らが悔し涙を飲んだこの一戦から、田村は「そこで足りなかった点には、ひとつのチャンスを仕留めきれなかった点もあると思う」と感じた。山村ら来季以降も在籍する部員には、「チャンス」のありかを共有すべく素早く声を掛け合って欲しいと思っていたのだろう。

 その延長で自身が心掛けたのは、彼我の特徴を見定めての好判断だ。

 敵陣深い位置で味方FWが右へ、右へと順にラックを形成していたシーンで、田村は一転して左へ回り込む。そちらへ梶村らが並走したことも相まって、対するシドニー大クラブの防御網は逆を突かれたような格好だった。このシーンは得点にこそつながらなかったが、味方と連携してスペースを切り裂く田村の真骨頂のようでもあった。本人は述懐する。

「相手はコンタクトの強いチームなので、近場(接点周辺)のディフェンスにはたぶん、自信を持っている。それに対してオール明大も縦(突進)のチーム。そこでバランスを取りながら、ラック周りに(たまっている選手が)多いな、と思ったら、逆目(それまでの攻撃方向と逆側)に動いて…。一緒にやっていた梶村も同時に動いてくれて、やりやすかったです」

 ちなみにその梶村は、以前の田村といまの田村の違いをこう表現していた。

「コミュニケーションの量と質が、全然、違います。(学生時代の)煕さんはプレー中も寡黙なイメージがあったんですが、いまはいろんな選手に積極的に話しています。ゲームに必要なコミュニケーションを取っている。こういうことは僕も含め、現役の学生は見習わなきゃいけないなと思います」

 田村は2017年度、公式戦に出場できなかった。2016年度入部の東芝では開幕から主力としてプレーしながら、同年オフにサントリーへ移籍。当時の規定では移籍元から移籍先への移籍承諾書の発行がないと移籍後1シーズンの出場が叶わない。移籍に関するコミュニケーションがもつれたことで、田村は雌伏の期間を過ごすこととなった。

 新天地ではオーストラリア代表の経験豊富なマット・ギタウらと練習を重ね、梶村の指摘するような「コミュニケーション」やプレー選択の質などを向上させられた。もっとも実戦から遠ざかったことへ、サントリー陣営は残念がっている。この日が、田村にとって年明け後初のゲームとなった。

 2018年度4月1日から、トップリーグ規約にある〔第93条 選手の移籍〕が見直される。

 移籍を希望する選手が他チームと交渉する場合の方法が「シーズン終了日(筆者注・当該シーズン最後の試合)の2か月前までは、選手は、移籍に関して、直接または間接を問わず、所属チーム以外の他のチームと接触または交渉を行ってはならない」などと明確化される一方、もともと引き抜き行為や給与高騰などを防ぐためにあったとされる移籍承諾書の条項は削除された。

「シーズン終了日の2か月前」より先の移籍交渉があった場合は「当該シーズン又は翌シーズンにおける勝ち点の減点(最大-5)」「当該シーズン又は翌シーズンにおけるトップリーグ公式試合の出場停止(最大でトップリーグ公式試合数の50%+1試合)」などの罰則が設けられる一方、ルール下で適切なコミュニケーションを取る選手への足かせは減るとの見方もある。
 
 この件が発表される2月19日を前に、田村は「僕が言えた立場ではない」としながら「ルールが変わるのは、前向きではあると思う」と答えた。

 もちろん、いまは前だけを見る。2017年はサンウルブズに入って国際リーグのサンウルブズでもプレーしたとあって、日本代表入りへも再度アピールしたいだろう。

 レベルアップに際し、やはり「コミュニケーション」が気になるという。サントリーには日本代表でバイリンガルの「コス」こと小野晃征がいるからか、こんなことを思う。

「いま、サンウルブズも外国人が増えてきている。僕は英語が話せないのは痛いところですが、ラグビー中のコミュニケーションぐらいは(どの国の選手とも)取れないと。コスさんは日本で唯一それができるSOだと思うのですが、(自分も外国人選手と)10番(SO)としてのコミュニケーションを取れないと。いくら外国人選手が日本語を覚えてくれるからといっても、です」

 2019年のワールドカップ日本大会出場に向け、急ピッチでレベルアップしたい。(文:向 風見也)