永井秀樹「ヴェルディ再建」への道(8)~ユース指揮官としての1年(中編)教え子たちの最後の試合前に語ったこと・前編は…
永井秀樹「ヴェルディ再建」への道(8)
~ユース指揮官としての1年(中編)
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永井監督の話を真剣に聞くヴェルディユースの選手たち
「このままで大丈夫なのか」
選手たちには不安が募った
2017年、東京ヴェルディユースの指揮官となった永井秀樹。彼の指導スタイルは、それまでのものとは明らかに違った。
選手たちはその指導をどう受け止めたのか。
「最初は、ほとんどの選手が(監督の考えていることを)理解できず、戸惑っていました。練習試合で大敗が続いたときは、正直『このままで大丈夫なのか』と不安に思っていました」
そう語るのは、キャプテンのDF谷口栄斗(たにぐち・ひろと/3年)である。
永井が目指すサッカーは、「常に数的優位を維持し、90分間のボール保持とゲーム支配」「全員攻撃、全員守備のトータルフットボールで、90分間、ボールを持ち続けて(相手を)圧倒して勝つ」というスタイルだ。
ディフェンスの選手でも、相手からボールを奪われない足もとの技術、ピッチ全体を見渡せる視野と予測、さらにGKも含めた11人全員がフィールドプレーヤーとしての意識を持って「組織として戦う」ことを求められた。
球際での競り合いや1対1に自信を持つ谷口にとって、それは自分の得意とするスタイルとはかけ離れたものだった。
「最初は自分の武器を生かせず、つらかった。でも、少しずつ(最終ラインから)攻撃を組み立てることの大切さを知りました。同時に『永井監督は、僕たちに対して、(目先のことだけでなく)もっと先のサッカー人生を考えて教えてくれている』と気づきました。
それは例えば、世界のトップレベルの国、選手を相手にして戦うためには、僕ら日本人はどういうサッカーが必要なのか、ということ。組織として戦うことによって、自分たちよりもフィジカルに優れたチームにも勝てる、ということ。ユースの選手相手にも『(永井監督は)世界基準で教えようとしているのだ』と思いました」
谷口は、世代別の日本代表にも名を連ねるなど高い評価を得ていたが、今回のトップ昇格は見送られた。今後は大学に進学し、大学のサッカー部で自分に足りないものは何か、プロになるためには何が必要かを考えて、自らを磨いていく。無論、そこでは永井の教えも胸に刻んで、4年後のプロ入りを目指すことになる。
谷口とコンビを組んでいたセンターバックの羽生識(はにゅう・しき/3年)も、永井の指導のもと、大きく成長した選手のひとりだ。
「基本はセンターバックですが、ひとつのポジションにこだわらず、さまざまなポジションを経験する機会をいただいたことで、プレーヤーとして幅が広がりました。相手の縦パスに対するインターセプトや逆サイドへのロングボールなど、プレーひとつひとつに対する意識、こだわりが持てるようになりました」
羽生について言えば、シーズン当初の試合では基本に忠実で献身的なプレーが目につく一方で、ここ一番での思い切りのなさ、というものが感じられた。しかし、シーズン終盤の試合では迷いなく的確にポジションを取って、ゲーム作りに貢献する姿が際立つようになった。自信にあふれた顔つきや、堂々とプレーするその姿は、春先とは明らかに別人だった。
世代別代表の各カテゴリーで背番号「10番」をつけてきた経験を持ち、唯一トップ昇格を果たしたMF藤本寛也(ふじもと・かんや/3年)は、永井から「本当の意味での視野の広さを学んだ」という。
「よく『相手を見ながらプレーしろ』と言いますよね。自分は永井監督が来る前から、相手が見えているつもりでした。でも、永井監督と出会ってから、自分の考えが甘かったというか、浅かったことに気づかされました。相手の動きを見て、どう動くべきか、という判断の部分ですね。”視野を広く”というのは、単純に全体を見渡すこととは違う、ということを学びました。
そうして、(相手の)次の動きを予測して(相手を)見る、ということの大切さを知って、個人的には”どうすれば相手(マークを)をはがせるか”“抜けるか”という点がレベルアップしたと思います。というのも、トップチームの練習に参加しても、通用する場面が多かったですから。(永井監督から学んだことが)これからトップでプレーするうえでの自信につながりました」
攻撃を組み立てる役割を担い、柔軟な判断が求められるフリーマンを任された東山直樹(ひがしやま・なおき/3年)。彼の胸には、永井から言われ続けた”ある言葉”がしっかりと刻まれているそうだ。
「自分の場合、もともと周りの選手を動かすことが好きだったので、永井監督のサッカーに戸惑うこともなく、最初から楽しかった。
ただ以前は、自分がいいプレーをできれば、それで満足していた部分がありました。永井監督から『仲間のために戦え』と言われ続けたことで、その大切さを知り、自分のプレーよりも、チームにどれだけ貢献できたか、そちらのほうに満足感を覚えるようになりました。
ひとりではできないことも、チーム全員で力を合わせれば、より大きな力になる。今は控えの選手も含めて全員が、『仲間のため』という気持ちで戦えるようになったと思います」
来季の「10番」を託され、キャプテンにも任命された森田晃樹(もりた・こうき/2年)は、プレーヤーとして新たな境地を見出していた。
「永井監督になってから、逆サイドにチェンジするなど、攻撃パターンが増えました。普段の練習では”止める”“蹴る”“運ぶ”という、サッカーの基本を重視しています。個別には、オフ・ザ・ボールの動き、ポジショニングについて丁寧に教えていただき、選手としての幅が広がりました」
森田は現役時代の永井のように、切れ味鋭いドリブルと足もとの技術に秀でた、かつての”ヴェルディらしさ”が漂う選手だ。これまで世代別の日本代表にも選出されてきて、周囲からは「トップ昇格は間違いない」と言われている。
しかし永井は、そんな森田に甘い言葉をかけることはなかった。永井が言う。
「トップに昇格できても、(チームに)貢献できる選手でなければ何の意味もない。『うまいね、天才だね』ともてはやされて、3年後、消えた選手を大勢見てきた。晃樹には『彼、うまかったけど、今何しているの?』という選手にはなってほしくない。(チームに)本当に必要とされる選手になってほしいし、世界で活躍できるレベルの選手にまで育てたいと考えている。
そのため、中途半端な実力で勘違いしないように、あえてベンチから試合を見させたり、本来のポジションとは違うセンターバックで起用したりもした。選手から嫌われようと、憎まれようと、一向に構わない。自分の仕事は選手に好かれることではなく、選手の将来、未来を切り開くことだから」
「日本サッカー界の宝物になる」
永井がそう絶賛する1年生プレーヤーとは
2017年12月10日、高円宮杯U-18サッカーリーグ・プリンスリーグ関東の最終節、ヴェルディユースはジェフユナイテッド市原・千葉U-18と対戦。開始3分、初先発を果たした1年生GK佐藤篤輝(さとう・あつき)の痛恨ミスで失点し、いきなり劣勢を強いられた。
しかし先制を許してから5分後、佐藤と同じ1年生のMF山本理仁(やまもと・りひと)が自ら得たPKをゴール右隅に決めて、1-1の同点に追いついた。
山本は、たやすく褒め言葉を並べない永井にして、「(中村)俊輔を超える。大げさに言うと”日本サッカーの宝物”になる」と言わしめる逸材だ。
ゲーム勘のよさや視野の広さは誰もが認めるところ。そのうえで、永井が最も評価しているのは、周囲に騒がれようと謙虚さを失わず、愚直に学び、努力する姿勢にあった。
山本が語る。
「(永井監督は)質問をすれば的確な答えが返ってくるので、次にどうすればいいか、考えやすい。そういう意味でも、頼れる監督です。
『どうすればスルーパスが通るか』といった技術面もそうですが、サッカーをどのように見ればいいか、ということも教えてくれます。より高いレベルの選手になるための勉強として、テレビで海外サッカーを見ることを勧めてもらい、その試合について、どういう視点で見ればいいかということも、きちんと解説してくれます」
ジェフU-18戦の前半は1対1で終了した。
ハーフタイム、永井は全体への指示を終えると、初先発の1年生GK佐藤をつかまえて、こうアドバイスを送った。
「大丈夫。十分やれているから、自信を持って挑戦しろ」
「わかりました!」
佐藤は永井のアドバイスに大きな声で返事をした。
永井が言う。
「ミスを引きずってパフォーマンスが落ちて、何もできなくなってしまうことが一番怖い。でも佐藤は、『わかりました!』と笑顔で答えて、そのときの生き生きとした目が印象的だった。その際、『篤輝は(この試合で)何かをつかめるかもしれない』という予感がした」
後半、序盤の硬さがとれた佐藤は、安定したプレーを見せてゲームを落ちつかせた。得点を奪われてもおかしくないような場面が2度ほどあったが、いずれもファインセーブを見せてチームの窮地を救った。
「ファインセーブもそうだけど、自分が一番うれしかったのは、フィードがノーミスだったこと。自分が目指すサッカーのスタイルは、GKもフィールドプレーヤーのひとりという考え。手が使えるフィールドプレーヤーと思っているから、その観点でいくと、後半の篤輝のパフォーマンスは十分に合格点に値する。右から来たボールを、きちんと(左サイドの)ワイドまで正確に渡せた。あれは、見事だった。
前半開始早々にあり得ない失敗をして、試合が終わったあと、篤輝本人に確認したら『頭の中が真っ白になりました』と言っていた(笑)。でも、最悪な状況からスタートしたにもかかわらず、同じ1年生の理仁が同点ゴールを決めてくれて、気持ちが楽になったのかもしれない。
仲間の助けで、そこから見違えるように成長した。『これこそが育成』ということを改めて感じた。ちょっとしたきっかけで気持ちにスイッチが入ったり、自信が持てたりして(選手は)大きく成長できる。(この試合では)それを実感できたのが、自分にとっては一番の収穫だった」
佐藤は『運』を自ら『動』かした。新シーズンでは一躍、新3年生とともに正GK争いをすることになりそうだ。
試合は後半、ヴェルディユースも何度かチャンスを作ったものの、得点を奪うまでには至らなかった。結局、1-1のまま終了した。
2017プリンスリーグ関東、ヴェルディユースは7勝4分7敗。10チーム中、6位という成績で終えた。
試合後、永井は選手全員をクラブハウス内にあるトレーニングルームに集めて、最後のミーティングを開いた。
1年生代表と2年生代表が3年生に言葉を送る。続いて、3年生全員がユースで過ごした日々を振り返るとともに、後輩たちにエールを送った。
涙を流す3年生。永井はその様子を見たとき、「試合の勝ち負け以上に大切なこともある」と改めて思った。
(つづく)