蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.9 2017-2018シーズンの後半戦、各地で最高峰の戦いが繰…
蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.9
2017-2018シーズンの後半戦、各地で最高峰の戦いが繰り広げられる欧州各国のサッカーリーグ。この企画では、その世界トップの魅力、そして観戦術を目利きたちが語り合います。
サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎──。
今回のテーマは、チャンピオンズリーグ(CL)、決勝トーナメントもうひとつの注目カードである、チェルシー対バルセロナ。今シーズン好調のバルセロナをホームに迎えるチェルシーは、攻めるのか、守るのか。コンテ監督はどのような戦術を採用するのか? メッシ対策をどうするのか? 欧州サッカーに詳しすぎる3人が予想しました。
連載記事一覧はこちら>>

チェルシーとの対戦でゴールのないメッシは今度こそ得点を決めるか
――今回の決勝トーナメント1回戦で、もうひとつの注目カードとなっているチェルシー対バルセロナ(第1戦;2月20日、第2戦;3月14日)についてはいかがでしょう? 現在は両チームの状況がかなり対照的になっていますが、この対戦の見どころはどんなところにありますか?
中山 確かに順風満帆なバルサに対して、最近のチェルシーは絶不調と言っても過言ではない状況にあります。リーグカップ(カラバオカップ)でアーセナルに負けた後、ボーンマスに0-3、ワトフォードに1-4で敗れて、まさかのリーグ戦2連敗。とりわけ失点の多さが目立っていて、守備の堅さが光っていた昨季の面影はまったくありません。アントニオ・コンテ監督の去就問題も囁かれていますが、彼にとっては崖っぷちの状況でバルサ戦を迎えることになりそうです。
リオネル・メッシがまだチェルシー戦で無得点という点、あるいは両チームの過去の対戦成績など、チェルシーにも好材料があっただけに、そこが残念です。個人的には、密かに波乱が起こるかもしれないと見ていたんですが……。
倉敷 守備が崩壊してしまった試合も続きましたが、それまではクリーンシートをいくつも作りながら競り合ったゲームで決勝点が決められず、勝ち点を落としてきたという印象でした。チェルシーは開幕前から攻撃陣の課題、センターフォワードの問題を引きずったままですね。アルバロ・モラタはいてもディエゴ・コスタがアトレティコに去り、冬にはミシー・バチュアイもドルトムントに移籍しました。冬の移籍でアーセナルからオリビエ・ジルーを獲得しましたが、問題の解決にまでなるでしょうか?
中山 コンテのサッカーからすると、ジルーはスーパーサブとしての起用がメインになりそうです。少なくとも、モラタが故障で戦列を離れている間にテストしていたエデン・アザールのゼロトップ起用は失敗だったと思うので、バルサ戦でその策は使わないでしょう。ただ、もしモラタの復帰が間に合わないとすれば、ジルーを含めてメンバー編成を考え直さなければなりません。コンテにとっては実に悩ましいところです。
小澤 このカードは戦術的な見どころが多いですよね。基本的にはバルサがボール保持を前提として攻撃を組み立てていき、チェルシーがそれに対して守備からアクションを起こしていく展開になるとは思っていますが、コンテは戦術的に対策をしっかり練って試合に臨むでしょう。
おそらくコンテはバルサのボール保持エリアをできるだけゴールから遠ざけにいくと考えています。たとえば、バルサがビルドアップ局面でCBがボールを持った時や、GKテア・シュテーゲンまでボールを下げた時には、積極的にハイプレスを仕掛けてセンターバック2人に対して2トップを、ピボーテのセルヒオ・ブスケツにセスクをあてるなどの同数を作って、バルサのビルドアップをしっかり潰しにかかるのではないかと思います。なるべくロングボールを蹴らせて、セカンドボールをしっかり回収するというかたちは、イタリア代表監督時代のコンテがスペイン代表と戦う時に使って成功させた戦略でしたから。
特にバルサは、アタッキングサードまでボールを運んでフィニッシュ局面に入るところでのサイド攻撃で強みを作り出しています。左はメッシが一度ジョルディ・アルバにボールを預けて、アルバがダイレクトでライン間に入るメッシに折り返して、それをメッシがフィニッシュするというかたち、連係ができあがっています。
一方、右サイドのセルジ・ロベルトは、スアレスとそのような連係を作り、左のアルバ、メッシの関係での得点と同じ5ゴールを生み出しています。押し込まれたチェルシーが5バックで対応してくるとは思いますが、フィニッシュ局面でのバルサの崩しは相手が「消した」と考えたスペースでもお構いなしに高速、高精度のパスを差して崩してくるため押し込まれた状況でチェルシーが守り切るのは難しいでしょう。
ですので、そういう局面をなるべく作らないことを前提に、まずはビルドアップのところをしっかり潰すという戦い方、ハイプレスありきの守備でバルサに挑むと思います。
中山 そこで気になるのが、チェルシーのエース、アザールの存在です。前からはめようとした時、彼が前線にいるとそれが機能しなくなってしまう。守備面での働きが期待できないという面が、コンテにとっての悩みの種になりそうです。
小澤 たぶん、そこが穴になるでしょうね。実際、3-5-2でバルサのビルドアップを潰そうとすれば2トップのプレッシングとスライドの繰り返し、ハードワークは必要不可欠な要素ですので、アザールがそれを90分実行できるかというと難しい。バルサ相手に前線でのプレスで1人でも穴になればそこから見事にはがされて、簡単に自陣ゴール前まで運ばれてしまいます。
しかも、今季のバルサは試合の入り、前半にうまく機能しなかったとしても、後半に巻き返せるだけの力をラ・リーガの試合でみせています。エルネスト・バルベルデ監督は、前半の戦いを見てハーフタイムや後半の早い時間帯で交代カードを切りながら修正を加えて、戦況を大きく変える手腕を披露しています。チェルシーが前半からハイプレスを実行してそれをうまく機能させてきたとしても、その対応策を即座に、効果的に打つ監督の采配力が今季のバルサにはありますし、戦術バリエーションを持つだけの選手層の厚みも持っています。
倉敷 僕は、ビクター・モーゼスとマルコス・アロンソのところが気になります。バルサ両サイドのコンビネーションはとても良いですし、この2人はそれほど1対1に強いというイメージはない。では、バルサのジョルディ・アルバとセルジ・ロベルトに対し、ウィリアンやアザールが前線から守備のための圧力をかけ続けられるかというと、それも望めそうにないでしょう。
では、どう打開するか? キエッリーニが言うにはユベントス時代には選手が倒れるほど厳しい練習をさせていたコンテですから、過密日程のプレミアでも、できる限りのアイデアや戦術を選手に落とす練習時間が欲しいでしょうね。
中山 今季のチェルシーは、1トップのモラタの下にアザールとペドロ、もしくはウィリアンをシャドーにした3-4-2-1のパターンと、エンゴロ・カンテをアンカーにして、モラタとアザールを2トップにした3-1-4-2のパターンを使い分けていますが、対バルサを考えた時にコンテがどっちを採用するかが、興味深いですね。
僕は、押し込まれることを前提にして、完全な5バックと中盤3人の計8人で重心を低くして守って、ロングカウンターを狙う戦略もアリだと思っています。バルサの両サイドバックに関しては、カンテ、バカヨコ、セスク、あるいはドリンクウォーターを並べてケアしながら、ボールを奪ったら前線のアザールかモラタに預けてカウンターを狙うというかたちです。場合によっては、干され気味のダビド・ルイスを中盤に入れて、カンテとバカヨコをその両脇で固めるという極端な戦い方もあるかもしれません。
特に最近のチェルシーは守備が連動せず脆さを見せるシーンが多いですし、コンテがそういった奇策を考えても不思議ではありません。
倉敷 圧倒的な得点が見込めない以上、やはり守備が礎(いしずえ)になります。でも現在のチェルシーは、かつてイニエスタが劇的な同点ゴールを決めてアウェーゴールでバルサが勝ち上がったフース・ヒディンク監督時代(2008-2009)に代表されるランパード、テリーが輝いていた時ほどソリッドな守りは期待できませんね。3バックにしても、ガリー・ケイヒルがやや不安定です。アンドレアス・クリステンセンを起用したほうがいいかもしれません。
小澤 バルサのような機動力のあるチームに対して、前には強いが脇や背後のケアが甘いケイヒルを使ってしまうとスコンと抜かれる画が簡単に浮かんできます。おそらくクリステンセンを使ってくるんじゃないでしょうか。CLはプレミアリーグのジャッジとは異なりますし、バルサに押し込まれる状況が続くと、どうしてもエリア内でファールを犯してPKを献上してしまうリスクも高まります。
倉敷 昨季のように右のモーゼスや左のマルコス・アロンソから素晴らしいクロスがゴール前に入れば活路も見出せそうですが、多くの時間で押し込まれることは確実なのでカンテのインターセプトからのカウンターしかないかもしれない。ただ、バルサはカウンターもうまい。特にプレミアで実績のあるスアレスがここに来て絶好調なので、カンテの仕事は重要ですね。
小澤 仮にチェルシーがハイプレスでブスケツを潰しにきたとして、キーマンになるのはパウリーニョだと見ています。12月のエル・クラシコのように、ハイプレスを受けた時は彼が前線に顔を出してGKテア・シュテーゲンからのロングボールを受けて起点になることもできます。しかも、サイド攻撃を仕掛けた時には、彼がボックスに入ってワンタッチゴールを決めるというオプションにもなれます。
年明けからコパ・デルレイの試合がミッドウィークに続き、40日間で12試合という驚異的な過密日程を消化してきているバルサですが、バルベルデ監督がうまくターンオーバーを使ってメッシまでもを休ませていますので、主力メンバーの調子、コンディションは万全です。ウスマン・デンベレも第23節(2月11日)のヘタフェ戦で復帰していますし、チェルシー戦までにケガ人が新たに出なければほとんど死角はないでしょうね。
中山 総合力ではバルサに軍配が上がりますよね。一方、チェルシーが勝つためには、やっぱりアザールの活躍が絶対条件になると思います。いい時のチェルシーは、必ずと言っていいほどアザールがチャンスに絡んでいますし、自分でゴールを決めなくても、1人、2人をはがして、一気に局面を打開できる。調子さえ良ければバルサにとっての脅威になれるはずですし、逆に彼がゲームから消えてしまうと勝ち目はないと思います。アザールの場合、そういう試合が意外とあるので、チェルシーのキーマンはアザールになるでしょうね。
彼はまだ今回のようなチャンピオンズリーグの大一番で結果を残した経験がないので、彼にとっても自身のキャリアの分岐点になる可能性もあります。その壁を打ち破ることができれば、まさしく世界トップにランクされるスーパースターに飛躍するきっかけにできるかもしれません。
倉敷 チェルシーにとって気になるのは、第2戦の準備にも影響を与えそうな過密日程の影響です。FAカップ5回戦の3日後にバルサとの第1戦、週末には以前にコンテ監督と舌戦を繰り広げたモウリーニョ監督率いるマンチェスター・ユナイテッド戦、その翌週には首位マンチェスター・シティ戦が控えています。プレミアをもうひとつこなしてまたバルサ戦ですから、FAカップの再試合なんて絶対に避けなければなりません。
来季のプレミアリーグは4位までがチャンピオンズリーグストレートインですが、現在チェルシーは4位、すぐ後ろにはトッテナムやアーセナルがいます。チャンピオンズの出場権を取り損ねたらそのシーズンは失敗です。いつ、どこにプライオリティを置くのか? 監督の去就にも繋がる正念場がいよいよやってきますね。
連載記事一覧はこちら>>