3時間28分の死闘の末にもぎ取ったその勝利は、彼にとって実に11年ぶりとなる5セットマッチのフルセット勝利であった――。 デビスカップ、対イタリア戦のシングルス第2試合。エースが敗れれば崖っぷちに追い込まれるその一戦で、杉田祐一は終始…

 3時間28分の死闘の末にもぎ取ったその勝利は、彼にとって実に11年ぶりとなる5セットマッチのフルセット勝利であった――。

 デビスカップ、対イタリア戦のシングルス第2試合。エースが敗れれば崖っぷちに追い込まれるその一戦で、杉田祐一は終始リードしながら追い上げられる、精神的に苦しい戦いを強いられた。




11年ぶりにフルセットで5セットマッチを制した杉田祐一

 第5セットではマッチポイントに追い詰められるも、強打がライン際を叩くほどの勇気を示し、この最大の危機を切り抜ける。命運をかけたタイブレークでは、ひとり静謐(せいひつ)な別空間にいるかのような集中力で、相手に1ポイントしか与えず一気に勝利まで走り切った。

 11年前――。杉田が掴んだキャリア最初の5セットの勝利も、やはりデビスカップで手にしたものだ。

 デビュー戦となる中国戦で、いきなり演じた3時間40分の死闘の末に掴んだ殊勲の星。時に杉田は、高校卒業を控えた18歳。激闘を物語る7−6、0−6、6−7、6−3、6−4のスコアは、当時の「日本デビスカップ史上最年少勝利」としても記録に刻まれた。

 その初勝利と今回の2勝目との間に横たわる11年の歳月は、杉田のキャリアをそのまま映しているとも言える。テニスの公式戦で5セットマッチが採用されているのは、基本的にデビスカップとグランドスラムのみ。つまりは各国を代表するひと握りの選手か、あるいはグランドスラムに継続的に出場できる世界100位内の”トップランカー”でなければ、5セットマッチの経験を踏むことすら困難なのが現状だ。

 2007年のデビスカップデビューでスポットライトを浴びた杉田だが、以降の彼は迷いを深め、徐々に同世代の陰に隠れるようになり始める。1歳年少の錦織圭が台頭し、さらに同期の伊藤竜馬が急成長した2011年ごろからは、代表に選ばれてもプレーの機会はダブルスが中心となった。

 とはいえ、杉田がダブルスに出ることは、日ごろのツアーではほとんどない。2013年デビスカップのダブルスでコロンビアに完敗したときは、こみ上げる悔しさを必死に抑えつつ「僕はシングルス選手なので……」とかろうじて言葉を絞り出す。そしてそのとき以来、2016年9月の対ウクライナ戦まで、杉田はデビスカップチームからも離れていた。

 ツアーにおいても、大躍進を果たした2017年以前で杉田がグランドスラム本戦――すなわち5セットマッチのフォーマットで戦ったのは、わずかに3大会を数えるのみ。それらの3大会ではいずれも、初戦でトップ選手に当たったこともあり3セット(ストレート)で敗退した。

 また、2007年から2016年の間で杉田が5セットのフルセットを戦ったのは、例外的に5セットマッチが採用されているウインブルドン予選決勝の1試合だけである。

 その彼が、2017年の全仏オープン以降はグランドスラムに4大会連続出場し、うち3大会で5セットを戦うも、いずれも僅差で涙を飲んだ。

 全仏では追い上げる展開のなか、日没順延に水を注されて、最後は26位のスティーブ・ジョンソン(アメリカ)に逃げ切られた。

 連戦のなか迎えたウインブルドンの2回戦では、追いつきフルセットに持ち込むも、それまでにエネルギーを使い果たし、最終セットで力尽きた。

 そして先の全豪オープンでは、身長211cmの「ビッグサーバー」イボ・カルロビッチ(クロアチア)と行き詰まるサービスキープ合戦を演じた末に、第5セットを10−12で失う。長い試合になれば、サーブに勝(まさ)る相手に分があったことを認めたうえで、早い段階でブレークできずに相手の土俵に乗ってしまったことを彼は悔いた。

 それら重ねてきた経験と、コートから持ち帰った課題が結んだ果実こそが、今回のデビスカップでの11年ぶりの勝利である。

 さらに杉田は2日後にも、イタリアのエース、ファビオ・フォニーニとフルセットの熱戦を繰り広げた。この試合は僅差で敗れるも、「フォニーニ戦ではどんどんいいプレーができたし、終盤でもプレーが落ちることがなかった。体力、フィジカル的に問題はなかったので、そこは自分のなかで大きなステップアップ」と、数字には表れぬ大きな戦果を持ち帰る。

「全体的に5セットの経験が少ないので、この経験を積むことができたのはよかった」

 敗戦にことさら悄然(しょうぜん)とするでも、かといって強がるふうでもなく、杉田は手にしたものの重みを淡々と言葉にした。

 2007年から11年の月日をかけて積んだ5セットの2試合を、彼は今回のデビスカップのわずか3日間で自身のレジュメに刻み込んだ。凝縮された時を駆け、ひとつの試合を、1本のショットをも意義ある財産として掴み取りながら、杉田祐一は「ツアー(旅)」の先へと進む。