プロでの実戦経験はまだ、二軍で2ヵ月――。

 今から4年前の2014年5月、西武ライオンズの潮崎哲也二軍監督は大卒ルーキーの山川穂高に対し、最大級の期待を寄せていた。



さらなる飛躍を誓ってキャンプインした山川穂高

「将来的には一流プレーヤーになっているんだろうなって。おかわり君に近づいているんじゃないかなという期待がありますね。性格的には癒しキャラで、野球界の”ふなっしー”みたいな感じ。しゃべって面白い、プレーで面白い。早く一軍のファンにも見せてあげたいプレーヤーのひとりです」

 ぱっちりした目と、愛くるしい笑顔。176cm・100kgのどっしりした体型。沖縄出身で、底抜けに明るい。

 そんな山川は西武第二球場に足を運ぶファンからすぐに愛されるようになり、ついに大卒4年目の2017年、その名を全国に知らしめた。夏場から4番に座って23本塁打・61打点・打率.298と打棒を爆発させ、8月と9・10月の月間MVPを連続受賞。出場こそ78試合だったが、中村剛也と遜色ない活躍でライオンズの4番の座を奪い取った。

「一軍に上がって、最初は代打から始まって、『今日打たないと明日がない』と思っていました。そういうプレッシャーのかけ方をしてきたので、4番に座っても、『今日も絶対、結果を出しにいく』という気持ちをしっかり持ってやってこられた。でも、まだまだ中村さんには及ばない。4番を何年も打って、初めて真のライオンズの4番と思ってもらえると思います」

 山川がプロ入りから描いてきた成長曲線を振り返ると、改めて、プロ野球選手が才能を開花させるために大切な要素が浮かんでくる。メジャーリーグのスカウトたちが「メイクアップ」と呼ぶ能力だ。日本語にすれば「精神力」や「勝負強さ」などと訳されるが、「自分を成長させていくためのメンタル」と言えばわかりやすいだろうか。

「俺の知っている子豚ちゃんじゃないねえ」

 二軍では本塁打を量産しながら、一軍になると大味な空振りを繰り返していたルーキーイヤーの夏場、潮崎二軍監督は山川の”上と下”での違いをこう指摘していた。

「一軍では、アウトコースも打たなあかん、インコースも打たなあかん、追い込まれて三振したらあかんと、バタバタしているようなところがありました。ファームにおったらホンマにどっしりして、自分の形で振りにいけるところが、上ではみんな打ちにいくような仕草になる。あんな姿、二軍では見せないのに」

 観客が数百人の二軍では自分の力をのびのび発揮できても、相手の実力やネームバリューが格段に上がり、大観衆の視線を浴びる一軍では持てる力を出せなくなる若手選手が数多くいる。

 山川もそんなひとりだったが、数段階のステップでこの壁を乗り越えた。まずは大卒3年目の2016年後半、一軍の消化試合で実戦経験を重ね、「雰囲気に慣れた」。

 ふたつ目のステップは、2017年シーズン前半に訪れる。一軍の開幕メンバーに名を連ねたものの、時折巡ってきた出場機会を活かせず打率1割台と苦しみ、5月1日、登録抹消された。

「二軍に行くと、どうしても落ち込みます。(次に)いつ一軍に呼ばれるかわからないですし、気持ちの持ち方がすごく難しい。高卒1~2年目の選手のように、ただガムシャラにやればいいのとは違うので」

 自分は二軍の主砲から、どうすれば一軍の戦力になれるか――。そこで思い至ったのが、気持ちの持ちようと、切り替えだった。

「僕みたいに一軍で生き残っていこうとする人には、1日1日が勝負。毎日結果を出さないといけないのは、二軍でも一緒だなと。だからチャンスで回ってきたときにただ打つのではなく、一軍だったらこの球はこう打つだろうなと想定するようになりました」

 そうして打席での集中力、状況判断力に磨きをかけたことが、技術力の向上に結びついていく。

 山川の最大にして、周囲より秀でる能力は、強く振れることだ。ただしそれは、フルスイングで本塁打になれば「持ち前のパワー」と称賛される一方、低めの変化球に崩されると「大雑把」と批判される。そのギャップを埋めるために、打撃練習では普段の試合以上に思い切り振るようにした。

「僕のバッティング練習は雑に振っているように見えるかもしれないけど、それでもいいと思っています。身体をとにかく強く、大きく、速く使う。そうやってキレを出しておく。試合になったとき、僕的にはあれでも抑えて振っているつもりなんですよね。だから、当たる瞬間の部分で速く振れているのかなと思います」

 練習でキレを出しておけば、試合では少し力を抑えても出力が高まる。さらにスイングの力を調整することで、コンタクト率を上げることができる。その結果、一軍再登録された7月8日以降、猛烈な打棒を発揮していった。

 真っすぐに対してはフルスイングできなくても本塁打にすることができる一方、変化球に対してはすべて思い切り振りたいというのが、山川の根本的な考え方にある。それを打席で実行し、かつ結果に結びつけるために不可欠なのが、”振りにいく”姿勢だ。

「自分が打とうとしたボールに打ちにいけて手が出たか、あるいは打ちにいって見逃すことができたかが、すごく重要です。見逃そうと思って見逃すのはものすごく簡単なので、そうではなく、打ちにいこうと思って打つ、打ちにいこうと思って見逃す」

 球界屈指のパワーを誇る長距離砲が、超積極的に打ちにくる。威圧感に晒(さら)される相手バッテリーは低めに外れる変化球を振らせようとし、その罠に引っかかっていたのが、プロ入りからの数年間だった。

 だが、技術と心を一本につなげることで自分自身をうまく操れるようになり、相手の攻めに対処できるようになった。だからこそ2017年後半、パ・リーグのどんなバッターよりも強烈なインパクトを残し、2ヵ月続けて月間MVPを獲得することができた。

 山川の活躍は西武にとどまらず、11月のアジアプロ野球チャンピオンシップ2017ではU24の侍ジャパンにオーバーエイジ枠で選ばれている。西武の二軍から一軍の4番に成り上がり、日の丸の4番を狙えるところまでたどり着いた。

 着実にステップアップすることで、さらに上を狙いたい欲求は増している。同大会終了後、山川は2018年シーズンをこう見据えた。

「2017年の成績は当たり前のように超えていきたい。2018年はもちろんチームが優勝することを第一目標に置いて、2017 年の8~9月の状態で3月からすぐにいけるようにしたいです。2017年は試合に全部出ていないし、ホームランも打率もまだまだという気持ちのほうが強いので。2018年に向けて、ちょっと休んだらすぐに始めようと思っています」

 それから2ヵ月強が経ち、球春到来した春季キャンプ初日の練習後、辻発彦監督が目についた選手として挙げたのが山川だった。

 結果が出るから、自信が出る。自信が出るから、意欲が湧く。意欲が湧くから、成長する。成長するから、結果が出る……。心と技術の好サイクルを回す山川は今季、昨年モノにしかけた4番の座をかけて、中村、メヒアらと本当の勝負に挑んでいく。