2月3日~4日、スポーツクライミングのボルダリング日本一と日本代表を決める「第13回ボルダリング・ジャパンカップ(BJC)』が東京・駒沢球技場にて開催された。結果は、男子は藤井快(ふじい・こころ)が94選手の頂点に立って3連覇を達成。…

 2月3日~4日、スポーツクライミングのボルダリング日本一と日本代表を決める「第13回ボルダリング・ジャパンカップ(BJC)』が東京・駒沢球技場にて開催された。結果は、男子は藤井快(ふじい・こころ)が94選手の頂点に立って3連覇を達成。60選手が出場した女子では野口啓代(のぐち・あきよ)が女王の座に返り咲いた。



観客を魅了した14歳・森秋彩のクライミング

 野口は決勝戦の3課題目、制限時間の残り4秒で完登に持ち込んで1661人の観客を沸かせると、第4課題も完登してゴールし、満面の笑顔でガッツポーズ。若い力が台頭するなか、決勝の課題をすべて完登して2年ぶり11回目の優勝を手にした28歳は、「本当にもう、優勝できるとは思っていなかったので」と目を潤ませた。

 ボルダリングW杯通算28勝を誇る野口を、それほどまでに追い込む若手の代表格として、前回大会で最年少優勝を果たして今大会でも3位になった15歳の伊藤ふたばに脚光が集まる。だが、それ以上に輝きを放っていたのが、野口と同じ茨城出身の中学2年生――14歳の森秋彩(もり・あい)だ。

 初日の予選5課題をすべてオンサイト(1度目のトライで完登すること)し、野口や伊藤とともに1位タイで準決勝進出を決めた森は、予選直後に仰天告白で取材陣を驚かせる。

「年明けから練習が楽しく思えなくなって、モチベーションが上がらないし、精神的にも不安定になって。調子も悪いし、気持ちも大会直前まで切り替えられなくて、予選を突破できるか不安だったので、(突破できて)安心しました」

 好結果を残したことで「メンタル的にはいい感じになった」という森は、2日目の準決勝・決勝でも圧巻のパフォーマンスを見せる。

 準決勝では3連続完登で迎えた最終課題で、スタート直後に左斜め後方に飛び出すランジ(ジャンプ)に苦戦したものの、10トライ目で1手目を掴むと、残り2秒で完登して観客から盛大な拍手が送られた。

 準決勝課題をただひとり全完登した森は、決勝戦の競技順は大トリとなったが、気負いのない登りで観客を魅了していく。

 決勝課題はどれも距離が遠かったり、パワーが求められたりする内容で、身長154cmの森にとっては厳しい結果が予想された。だが、そうした課題で”らしさ”を存分に発揮する。

 身長164cmの野口や160cmの伊藤がその手足の長さ、パワーを生かしたムーブで問題を解消したのに対し、森は足を置く位置やホールドを持つ場所を工夫しながら、課題の核心部(課題のなかでもっとも難度の高い箇所)を攻略していった。

 森が完登するたびに会場全体が大きく盛り上がる光景を、「体格的が不利なことへの判官びいき」と見る記者もいたが、満員の客席から何度も起こった驚嘆のどよめきや、割れんばかりの拍手の大きさは、観る者の想像を超えた次元にある「森のクライミング能力への賞賛」であったことは間違いない。

 ただ、3課題を終えて3完登で1位に立った森も、4課題目は成長過程ゆえの弱点に泣いた。この課題はスタートのしゃがんだ体勢から後方上部のホールドに飛びつくランジ課題で、身長が160cmを超えて、肩から背中にかけての筋肉も発達している野口、伊藤、野中生萌(のなか・みほう)は完登した。だが、森は制限時間4分間で12回スタートを切ったものの、1手目のホールドに両指は触るものの、保持できずに終わった。

「ランジの技術や単純なジャンプ力や全身のパワーがまだ足りなかったと思います。去年も同じようなランジ課題で順位を落としてしまったので、今年はランジを練習してきた。来年こそはランジ課題も登りたいです」

 前回大会の4位から初の表彰台となる2位にステップアップしながらも、「登れた決勝の3課題もオンサイトができなかったので悔しい」と今後の課題を口にする森だが、モチベーション面での収穫はあったようだ。

「2位という結果で自分の登りに自信がついたので、明日から練習のモチベーションも上がると思います。これからの練習は楽しみながらがんばっていきたいです」

 その森が次に出場する大会が、3月3日~4日に埼玉・加須市で開催される「リード日本選手権」になる。制限時間内なら課題に何度もトライできるボルダリングとは異なり、リードは課題にトライできるのは1度だけと、緊張感の高い一発勝負が醍醐味の種目だ。

 抜群に強い保持力や多彩なムーブを持ち、この種目を得意にする森は、「オリンピック強化選手の選考会になっているので、リード日本選手権は結果を出したいです」と、すでに照準を合わせている。

 2020年の東京五輪に向けて、日本山岳スポーツクライミング協会は昨年10月から半年ごとにオリンピック強化選手を男女各6名ずつ選出し、国際大会への優先的な派遣や強化合宿などを行なっている。

 第1期強化選手には、男子が楢﨑智亜(ならさき・ともあ)、渡部桂太、藤井快、緒方良行、是永敬一郎、楢﨑明智(ならさき・めいち)。女子は伊藤ふたば、尾上彩、谷井菜月、野口啓代、野中生萌とともに、森秋彩も名を連ねる。

 そして、4月からの第2期強化選手を選出するための選考会となっているのが、今回のBJC、来月のリード日本選手権、スピード日本ランキング(2018年3月19日時点)である。

 各種目の順位を乗算したポイントで、第1期選手のなかで上位3名になれば無条件で第2期になれる。しかし、下位3名になると強化選手以外とのポイントランキングで上位3名に入らなければ、その座を失うことになる。

「オリンピック強化選手になって、合宿などに積極的に参加したいと思っています」と言う森をはじめ、リード日本選手権にはBJCに出場した多くの選手が登場する。BJCで観客を圧倒した森が、果たしてリード日本選手権でどんなクライミングを見せるのか。