レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップの2018年シーズン開幕戦がUAE・アブダビで行なわれ、昨季の年間総合王者、室屋義秀は2位となった。エアレース年間総合2連覇へ好スタートを切った室屋義秀 過去に2年連続でオーバーG(規…

 レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップの2018年シーズン開幕戦がUAE・アブダビで行なわれ、昨季の年間総合王者、室屋義秀は2位となった。



エアレース年間総合2連覇へ好スタートを切った室屋義秀

 過去に2年連続でオーバーG(規定の重力加速度を超える反則)による敗退を味わうなど、とても相性がいいとは言えなかったアブダビでの開幕戦で、ディフェンディング・チャンピオンは上々のスタートを切った。表彰式後の室屋が語る。

「(優勝と3位はあったが)2位は今まで取ったことがなかった。それを狙ったわけではないが、戦略通りに飛んで2位なので満足している」

 優勝には届かなかったにもかかわらず、室屋が満足だと言えるのは、まさに「戦略通り」のレース運びができたからだ。

 今季の室屋、というより、チーム・ファルケンは、すべてのレースで安定して上位に入ることを目標に掲げている。必ずしも1戦ごとの優勝にこだわる必要はなく、確実にポイントを重ねていこうというのである。

 フィギュアスケートや体操などの採点競技に例えれば、無理に難度の高い技を入れ、ミスの危険を抱えるくらいなら、成功率の高い安定して得点が稼げる技で演技構成を組む。それが今季の戦略だ。当然、ライバルたちがより難度の高い技に(ときに無茶を覚悟で)挑み、成功させれば上回られてしまう可能性はあるが、年間全8戦でコンスタントに結果を残して連覇を目指そうと思ったとき、確実性を優先することこそがその近道というわけだ。

 果たして今季開幕戦での室屋は、憎らしいほどにステディなフライトを続けた。予選からファイナル4まで一度もペナルティを犯すことはなく、全14パイロット中でただひとり、すべてのラウンドで53秒台のタイムを残した。今の室屋は、いわば技の難度を落とした演技構成で臨んでも上位につけられる状態にある。

 そんな戦略を可能にしているのが、レース前の準備における「ルーティーンの確立」だと室屋は言う。

「昨季からの同じルーティーンを続け、それで結果が出ているので、多少の変化はあるにしても、基本的には同じペースでやっていけばいいと思う」

 もちろん、「レースの1週間前くらいから、一度筋肉に負荷をかけてリカバリーし、レースデイは軽く筋肉に負荷をかけてやると、筋肉の反応がいいとか、そういうことは続けている」と話すように、室屋がアスリートとして勝負を前にしたルーティーンを続けているのは当然のことである。

 だが、レース前のルーティーンとは、必ずしもパイロットだけの話ではない。むしろ今の室屋の強さを支えているより大きな要素は、チームとしての準備におけるルーティーンの確立である。室屋が語る。

「ベン(チーム・ファルケンのタクティシャン、ベンジャミン・フリーラブ)がチーム全体の作業リストを作り、レース会場に入った日から、この日にはこれをやって、この日に機体をレディにして、公式練習からレースに入っていく、ということを昨季からずっとやっている」



室屋を支えるチーム・ファルケンのスタッフたち

 気象条件の変化や故障によるトラブルなど、常に変化する状況に対応しなければならないエアレースにおいて、「やりたいこと、やっておいたほうがいいことを挙げれば、果てしなくある」と室屋。当然、チームスタッフもレースが近づけばナーバスになる。やりたいこと、やっておいたほうがいいことの優先順位が整理されていないと、「ハンガー全体がバタバタして落ち着かなくなってしまう」。室屋が続ける。

「作業ごとのプライオリティを考え、(優先度の低いものは)無理してやらないというくらいに、時間にちょっと余裕を持たせてプランを立てる。そうすると、みんながレースデイに落ち着いて動ける。やりたいことはあまりにたくさんあるので、どこかで線を引かないと、みんなが慌ててしまうから。

 それでグチャグチャになっていたのが2年前のシーズン。昨季からシステムを変え、ルーティーンを確立したことが今はうまくいっている。常に一定のペースを保っていかないと、1、2戦は頑張れても8戦はもたない。そこをうまくコントロールすることが、長いシーズンを戦うコツのような気がする」

 今回の開幕戦では、こんなこともあった。

 レッドブル・エアレースは競技の進行上、ラウンド・オブ・8からファイナル4までの間にほとんどインターバルがない。一度レースエアポートに着陸し、再び離陸するまでのわずかな時間に、どれだけ周到な準備ができるかが結果を大きく左右すると言ってもいい。

 チーム・ファルケンはラウンド・オブ・8を前に、すでにファイナル4へ進出することを前提にしたブリーフィングを行なっていた。「今季から加わった初めてのスタッフもいるので、ファイナル4の前には何をするかということを確認しておいた」と、室屋は振り返る。

 ブリーフィングを終え、ラウンド・オブ・8へ向けて離陸した室屋。そこで、はたと気がついた。

「もうファイナル4を飛ぶような感じになっていて……、『違う、違う、もう1本あるんだ』と(苦笑)。そう思ってしまうくらい、気持ちに余裕があったし、しっかり先を見通した準備ができていた」

 パイロットの能力、機体の性能が着実に高まっているのに加え、チーム体制も徐々に盤石な組織となりつつある。

 年間総合2連覇へ向け、視界良好である。