昨年3月、フィラデルフィア・イーグルスのハウィー・ローズマンGMは、QB(クォーターバック)ニック・フォールズと2年総額1100万ドル(約12億円)の契約を結んだ。イーグルスには前年のドラフト全体2番目指名で獲得したカーソン・ウェンツという先発QBがいる。フォールズに対してのその契約内容は、エースQBに何かが起きないかぎり出番のないバックアップへのものとしては破格だった。



控えQBから主役の座に躍り出たイーグルスのニック・フォールズ

 それが結果的に、「当たった」形となった。ウェンツがレギュラーシーズン第14週に大ケガを負って今季絶望となったものの、その控えQBがポストシーズンに入って存在感を示したことで、最高峰の舞台までたどり着くことができたのだ。

 現地2月4日(日本時間2月5日)、NFLの頂点を決めるスーパーボウルがミネソタ州ミネアポリスのUSバンク・スタジアムで開催される。52回目となる今年は、ディフェンディング王者のニューイングランド・ペイトリオッツと、13年ぶりの出場となったイーグルスとの対戦となる。

 2005年の第39回大会で対戦している両チーム。そのときはペイトリオッツが24-21でイーグルスを下し、2004年に続いてスーパーボウル2連覇を達成している。

 21世紀に入ってからのペイトリオッツの強さは、他球団の追随を許さない。同軍は今回で史上最多10回目のスーパーボウル進出となったが、ビル・ベリチックHCとQBトム・ブレイディの体制となった2001年シーズンから数えると、その出場回数は実に8度目。大逆転で頂点を掴んだ昨年も含め、このコンビで合計5つものスーパーボウルリングを手にしている。

 よって今回も、メディアやファンの勝敗予想、そしてラスベガスのオッズはともにペイトリオッツの絶対的優位。これまでの実績を考えれば、戦前の下馬評は当然のことだろう。

 その憎らしいほどの強さゆえに、今やペイトリオッツはパブリックエネミー(社会の敵)といった存在に感じる人も増えている。過去のいくつかの不正疑惑も、それに拍車をかけているだろう。相手チームのディフェンスシグナルをビデオで撮影したとされる「スパイゲート事件」や、ブレイディが投げやすい状態にまでボールの空気圧を減圧したとされる「デフレートゲート事件」など、世間を騒がせた行為でペイトリオッツを嫌うNFLファンは少なくない。



試合日時は現地時間。チーム名の丸数字はシード順位

 事実、ファン投票でもペイトリオッツの地元ニューイングランド地方(マサチューセッツ州ボストン近辺)など一部をのぞき、全米の多くの州のファンが「ペイトリオッツの対戦相手を応援する」という傾向が見られる。今回のスーパーボウルにおいても、一部アメリカメディアの調査によると、全米50州のうち45州がイーグルスを応援しているという結果が出たほどだ。

 まさにペイトリオッツは、野球でいえばニューヨーク・ヤンキースのように「負けるところが見たい」と大衆から残酷な感情を引き出してしまうNFL唯一のチームと言える。

 ましてや今回の相手は、バックアップQBが率いてスーパーボウルまで上り詰めたイーグルスだ。スーパーボウル進出は3度目だが、まだ一度も頂点を掴んだことがない(スーパーボウルが始まった1966年シーズン以前にはNFLのタイトルを3度獲得している)。「ペイトリオッツに対して勝ち目はない」と思われており、彼らが同情されるのも仕方のないことだろう。

 しかし、世間が思うほどイーグルスのチャンスが小さなものかといえば、そうではないかもしれない。たしかにQBとしての力量も、実績も、ブレイディとフォールズの間には大きな差がある。しかし、チームの総合力という点において、イーグルスはペイトリオッツに伍する力があるのだ。

 まず、ペイトリオッツおよびブレイディに勝つためには、イーグルスの守備ラインはパスラッシュでQBにプレッシャーをかけることが必須だ。ただ、今年のAFCチャンピオンシップ・ラウンドのジャクソンビル・ジャガーズしかり、昨年スーパーボウルのアトランタ・ファルコンズしかり、リードを奪いながらも試合終盤に守備ラインがガス欠を起こし、ブレイディに逆転劇を演じられてしまった。

 ブレイディが「史上最高のQB」と呼ばれる理由のひとつは、その勝負強さにある。前出のジャガーズ戦では第4クォーターに10点差をひっくり返してみせたのだが、ポストシーズンにおいてブレイディが第4クォーターで10点差以上のビハインドから逆転したのは4度目。こんな劇的なことを複数回も達成しているのはNFL史上ブレイディしかおらず、今年40歳になっても勝負強さに衰えは見られない。

 ただ、イーグルスの守備ラインはリーグ屈指のユニットを誇っている。特にDT(ディフェンシブタックル)フレッチャー・コックスとDE(ディフェンシブエンド)ブランドン・グラハムは、近年のNFLでもっとも止められないパスラッシュデュオのひとつだ。

 しかも、イーグルスの守備ラインは選手層が厚い。試合時間の60分間、常に選手の体力をフレッシュな状態に保っておけるため、試合終盤にガス欠になって足が動かなくなることもないだろう。

 一方、イーグルスはオフェンス面も上昇機運にある。カギとなるのは、フォールズがいかにランパスオプションを機能させることができるかだ。

 ランパスオプションとは、QBがRB(ランニングバック)にボールをハンドオフするランプレーと見せかけ、相手ディフェンスの動き次第でパスプレーにスイッチするという戦術のこと。通常はボールがスナップされる前にランプレーかパスプレーかを決めているが、このオプションを用いるとディフェンス陣は反応しづらく、相手のプレーの速度を遅らせる効果がある。

 フォールズは2012年から2014年にかけて、イーグルスに在籍していた過去を持つ。チップ・ケリー前HCはこのオプションプレーを多用して成功を収め、フォールズもその活躍が認められてプロボウルに選出された。

 現在のダグ・ペダーソンHCも控えQBを起用するにあたり、フォールズの慣れ親しんだランパスオプションを取り入れるオフェンスに変更した。すると、これがポストシーズンで「当たった」。NFCチャンピオンシップ・ラウンドのミネソタ・バイキングス戦ではオフェンスが大爆発し、38得点を奪って快勝している。フォールズのランパスオプションに対し、ペイトリオッツがどんな対策を練ってくるのかも見どころだ。

 インディアナポリス・コルツを率いて第41回スーパーボウルを制し、現在はアメリカ4大ネットワークのNBCで解説者を務めるトニー・ダンジー氏は、「フォールズのランパスオプションを用いたオフェンスがペイトリオッツのディフェンスを困惑させるのではないか」と話す。そして今年は「フィリー(フィラデルフィア)の年だ」と述べ、「最後はイーグルスが接戦をモノにするのでは」と予想している。

 最後に少し、トリビアを紹介したい。イーグルスHCのダグ・ペダーソンは現役時代、キャリアの大半を控えQBとして過ごした。しかし、グリーンベイ・パッカーズ在籍時の1997年、第31回スーパーボウルでチームは優勝を果たし、ペダーソンはスーパーボウルリングを手にしている(先発QBはブレッド・ファーブ)。そのとき下した相手は、ペイトリオッツだった。

 優勝杯ヴィンス・ロンバルディ・トロフィーを、NFL屈指の熱いファンが待つフィラデルフィアへ--。イーグルスは前評判を覆し、絶対王者ペイトリオッツを破ることができるだろうか。