専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第140回 ちょっと前の話ですが、とあるコンペで「昔はすごく飛んでいた~」と毎ホール、ぼやくオジさんに遭遇しました。これでもかっていうぐらい昔を懐かしみ、嘆く姿は、あまりにも面…
専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第140回
ちょっと前の話ですが、とあるコンペで「昔はすごく飛んでいた~」と毎ホール、ぼやくオジさんに遭遇しました。これでもかっていうぐらい昔を懐かしみ、嘆く姿は、あまりにも面白すぎて……。
今回は、その詳細をレポートし、飛ばないなりの”謙虚なシニアゴルフ像”も探ってみたいと思います。
“昔は飛んでいたオヤジ”は、まず年齢不詳です。おそらく70歳前後だと思いますが、聞いても教えてくれませんでした。
ラウンド前、一緒の組になった面々がそれぞれ挨拶をかわしてスタートしますが、そのオヤジはそこで、自らの”取扱説明書”的なコメントをこう付け加えました。
「(自分の)動きが遅く、みなさんに迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いいたします」と。
マナーはしっかりしていて、昔からきっちりとゴルフをやってきたことがうかがえます。
いざプレーが始まると、さすが言うだけあるわぁ~。そのオヤジは、本当にものすごく動きが遅いのです。
ボールのところまではスタスタと歩いていきますが、そこから素振りのテークバックが超スローで、しかもトップ手前で腕が上がらず、フリーズしてしまうのです。その遅さを例えて言うなら、約20年前の『Windows95』の起動ぐらいでしょうか。
素振りがそれですから、本チャンのスイングは『Windows98』くらいかな~……って、大して違いはありません。
とにかく、スイッチが入って起動するまでが、恐ろしく遅いのです。でも、最初に「遅い」って言われましたから、これは優しく見守るしかないです。
そういえば、うちの親戚や、70歳を過ぎた漫画家の方も動きが遅くなって、「みんなについていけない」と言っていました。
ゴルフって、体調不良や故障で引退するケースが多いという話を以前にしましたが(※2017年10月13日配信「終活ブームの今、『人生最後のゴルフ』を考える」)、実は動きが遅くなり、みんなについていけなくなってリタイヤするケースもあるんですね。
さて、本題の”昔は飛んでいたオヤジ”の昔話自慢のことですが、こんな感じでした。
「残り200ヤード? 昔は4番アイアンでドローボールを打って、軽く(グリーンに)乗ったんだよ」って、言ってきます。
さらに、ティーショットを打つたびに「ドライバーは250ヤード飛んでいた」とか言って、セカンドでグリーンを狙う際には「7番アイアンなら、160ヤードは飛んだ」などとあらゆる場面で発し、それはもう昔を懐かしむコメントのオンパレードですよ。
彼のゴルフは、フランス絵画に例えれば”印象派”ですね。ここぞ、という一発を放ったナイスショットばかり覚えているんですな。
印象派のゴルフだからって、昔の栄光や一番いいときの瞬間を切り取って言われても、それは所詮、過去の自慢でしかないのです。
シニアの方々はみなさん、かつては本当にすごかったと思いますけど...
じゃあ、飛ばなくなったゴルファーはどんなゴルフをすればいいのか?
80歳近くになり、まったく飛ばなくなった大御所の漫画家先生と、以前一緒にラウンドしたときの話を紹介しましょう。
大先生に誘われて行ったコースは、超名門の距離の長いコースでした。大先生はそこでも、まったく迷うことなく、レギュラーティーからボールを打ち始めます。
400ヤード程度のミドルホールもありますが、そんなことも意に介さず、平然とドライバーを打っていきます。ドライバーの飛距離が180ヤードぐらいで、セカンドショットが150ヤードぐらいでしょうか。
ゆえに、長いミドルではさすがにパーオンは望めませんが、残り70ヤードぐらいのサードショットをきっちり乗せて、3オンのボギー。毎ホールこんな感じプレーしていて、気づくと大先生は「92」くらいで上がっており、危うく負けるところでした。
何よりすごいのは、愚痴ひとつ言わず、己の飛距離と相談しながら、淡々と戦略的なゴルフを展開していったことです。歳をとったら、こうでありたい、という理想形ですよね。
老化が進めば、筋力は衰え、体も硬くなっていきます。それは、仕方がないことです。そういう現実をしっかり受け入れられるかが、シニアゴルフの大事なポイントじゃないですか。
「昔は飛んでいた~」という方は、ゴルフに限らず、すべての生活に対しても同じようなことを言っていると思いますよ。
ごはんを食べているときには「昔はおしんこと味噌汁だけで、茶碗3杯はいけた」とか言って、キャバクラに行った際には「昔は会ったその日に(目当ての女の子を)口説けた」とか言っているんですよ。
人はそれを”ホラ話”とも言いますがね。
昔自慢の人には悪いのですが、反面教師として、自分のゴルフに役立ててみたいと思います。
はたして自分は、今の年齢に合ったゴルフをしているのだろうか。自問自答して、今後のシニアゴルフの戦略を考えてみます。
例えば、こんなのはどうでしょう。
木村和久(きむら・かずひさ)
1959年6月19日生まれ。宮城県出身。株式をはじめ、恋愛や遊びなど、トレンドを読み解くコラムニストとして活躍。ゴルフ歴も長く、『週刊パーゴルフ』『月刊ゴルフダイジェスト』などの専門誌で連載を持つ。
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