「優勝を狙います。アジアチャンピオンになる、というのはクラブとして掲げている目標なので」 柏レイソルの下平隆宏監督は…

「優勝を狙います。アジアチャンピオンになる、というのはクラブとして掲げている目標なので」

 柏レイソルの下平隆宏監督は試合後の会見で、高々と宣言している。アジアチャンピオンズリーグ(以下ACL)本戦出場を決めた安堵感もあったのだろう。

 1月30日、日立柏サッカー場。ACL出場を懸けたプレーオフで、柏はタイのムアントン・ユナイテッドを3-0で下している。スコアもそうだが、内容も完勝に近かった。昨シーズン、Jリーグで優勝争いをした若いチームに新戦力が加わり、確実に層は厚くなっている。

 では、クラブとして悲願とするアジア制覇に近づけるのだろうか?



今季から柏に加入、ムアントン戦でも存在感を発揮した江坂任

 序盤、柏は動きにぎこちなさがあった。スタメンの10人が昨シーズンと同じメンバーで、プレーコンセプトも変わっていないが、今季が始動してからわずか20日間。試合勘の鈍さやコンディショニングの難しさが見受けられた。単純なミスも目立ち、攻撃のリズムが合わない。プレスも外され、単調な1本のパスを通されるなど、危うい場面もあった。

「シーズン1発目の試合だけあって、フィットネスの面で思うようには入れなかった」(柏・クリスティアーノ)

 もっとも、前半10分を過ぎると柏がペースを握る。ひとりひとりの選手の技術格差がじわじわと出てくる。

「レイソルの強さを認めざるを得なかった。スキルの点で、我々はまだそのレベルに追いついてない」(ムアントンのトチタワン・シーパーン監督)

 ムアントンは、バックラインから有効な組み立てができなくなる。5-3-2の守備的フォーメーションで”籠城”。時間稼ぎのようなプレーも目立った。

 柏の攻撃で特筆すべきは、大宮アルディージャから新戦力として加わったFW江坂任だろう。前線でプレーメーカーの役割を見せる。2列目でボールを弾くと、相手の逆をとった形になって、「何かが起きる」という予感が生まれる。ダイレクトのフリックパスは出色。ポジショニングがよく、受け、弾くタイミングは淀みなく、美しい。誇張が過ぎるが、「Jリーグのカリム・ベンゼマ」のようなテンポで攻撃を活性化した。

「(江坂は)すごく賢い選手。両足使えて万能型で。最近、いなかった前線のタイプで、やりやすいです」(柏・大谷秀和)

 柏のプレーの根幹を担うMF大谷とはすでに縦のホットラインが開通していた。江坂はボールを呼び込む能力にも優れ、この日、シュートもチーム最多の5本を打っている。どれもわずかに外れたが、彼が創り出したチャンスによって、相手を追い詰める。

 前半は無得点で折り返したが、後半、柏は一気呵成となった。

 ムアントンがジリ貧に耐えきれず、ラインを高くし、攻撃に出てきたところで、柏は空いた裏のスペースにボールを入れる。撃ち合いになったら、柏有利は歴然だった。51分、ムアントンが跳ね返したボールを右サイドから崩し、伊東純也が折り返すと、クリスティアーノが押し込んだ。

「シーズン初めての試合で硬さはありましたが、守備は安定していました。そこでハーフタイムは、『守備はできているから、サイドからポイントを作っていこう』と。去年から積み上げてきた戦いが1点目につながった。そこからはうまく攻撃できたと思います」(柏・下平監督)

 62分の2点目もクリスティアーノが守備網を食い破り、豪快にネットを揺らしている。これで楽になった柏ベンチは、瀬川祐輔、小泉慶、亀川諒史という新戦力を試す余裕があった。89分には伊東がとどめの3点目を突き刺した。

<1試合目にしてはよかったが、チームとしてはこれからで、ACL本戦に出られてよかった>

 それが選手たちに共通した心情だろうか。まだアジア制覇を云々するタイミングではないだろう。

 ACL本戦は、戦力差のない相手とのゲームになる。例えば、この試合でもムアントンの7番、ヘベルチのボールキープに手こずる場面があったが、このレベルの選手がずらりと並ぶチームもある。強敵と戦う中、個人としても、チームとしても成長を遂げていくしかない。

 もっとも、ポテンシャルの高さは示した。昨シーズン、日本代表に選ばれた中村航輔、伊東純也は風格が出てきたし、小池龍太もプレーの質が高い。また、近年の柏にはトップ下で違いを見せられる選手がいなかったが、江坂にはその役目が期待できる。これで他の新戦力が上積みとなり、ケガで戦列を離れているMF手塚康平が戦列に復帰すると、面白い陣容になるはずだ。

 ACLグループリーグは、W杯得点王のディエゴ・フォルランらが加わった傑志(香港)、元ブラジル代表FWアレシャンドレ・パトらを擁する天津権健(中国)、韓国王者の全北現代(韓国)と同じ組に入った。簡単な相手はひとつもない。2月13日の初戦は、まず全北との戦いになる。