鮮烈な世界デビューだった。 そう言っていいだろう。 1月26~28日にシドニーでおこなわれた「HSBCワールドラグビー女子セブンズシリーズ 」第2ラウンド。 予選プール初戦でニュージーランドと対戦した日本は、女王たちのパワーとスピードにつ…

 鮮烈な世界デビューだった。
 そう言っていいだろう。

 1月26~28日にシドニーでおこなわれた「HSBCワールドラグビー女子セブンズシリーズ 」第2ラウンド。
 予選プール初戦でニュージーランドと対戦した日本は、女王たちのパワーとスピードについていくことができず、試合開始キックオフからのノーホイスルトライ(0分)を皮切りに2分、4分とトライを重ねられる苦しい展開に持ち込まれた。

「まず初戦の入り。キックオフの最初のところの集中力。そこからアタックの継続。仮に失点したとしても、もう一度集中し直して、自分たちのやるべきことをやっていく。この前のドバイ(第1ラウンド)のような大差のゲームではなく、くらいついていって、最後僅差で勝つというゲームを予選プールでやる」

 大会開幕前に稲田仁ヘッドコーチがそう語っていたとおり、沖縄で1週間、シドニー入りしてからの10日間の事前合宿でも、試合の入りにつながる練習の入りの部分は常に意識してきた……はずだったのだが、前半4分で早くも17点をリードされるという厳しい戦いを余儀なくされていた。
 そんな苦しい状況の中で生まれたのが、過去のサクラセブンズのパフォーマンスとしてはお目にかかったことのないようなビッグプレーだった。

“3度目の正直”でキックオフを確保した日本が自陣22メートル付近でパスをつなぎ、中村知春主将、小笹知美、田中笑伊などの仕掛けの後、ボールはこの試合がサクラセブンズの一員としての世界デビュー戦だった大竹風美子へ。
 前述のチームメイトたちの努力もあって、ちょっとしたギャップが生じたNZディフェンスの隙間を緩急のチェンジオブペースも生かして突破。追いすがるキウイたちをハンドオフで払いのけながらもスピードは緩めず、そのままNZトライライン手前まで快足を飛ばす。NZが誇るスピードスター、ミカエラ・ブライドに足元に飛び込まれて、トライまではあと1メートルほど届かなかったが、忠実にサポートしてきたチームメイトがラックからの球出しに成功して、最後は大竹の快走を生み出すパスを出した田中が余裕を持ってNZインゴールに飛び込んだ。

 その直後のキックオフをミスして、NZに4トライ目を奪われ、さらに後半も一方的に4トライを重ねられるなど、「アタックチャンスがほとんどなかった」(稲田HC)初戦の中で、大竹のビッグプレーが強烈な印象を残したのは確かだった。

 日本が世界でワールドシリーズで戦っていく場合に、世界のトップアスリートを向こうに回して、トップスピードのまま長い距離を走りきる能力の欠如が大きな弱点になっていることは否めない。
 いきなり初登場となったニュージーランド戦で18歳の新鋭・大竹が見せた爆走は、そんなサクラセブンズのウィークポイントを十分に補填するポテンシャルを感じさせるものだった。

「まだ、ラグビーは1年くらいしか経験がないが、アタックでボール持った時のスピードやパワーに関しては、いままでにいなかったポテンシャルの持ち主。ワールドシリーズでも通用する素材」(稲田HC)

 いきなり、そんな期待に応えるかたちでのビッグランを見せた大竹は、結局、シドニーセブンズ5戦全試合で先発出場を果たした。

「ずっと画面の先だった世界が目の前にあったので、ワクワクした。ラグビーを始めた時からの憧れだったサクラのジャージーも着ることができた。でも、そこだけで満足してはだめ。
 見ているだけじゃ、どんな感じなのか、どんな雰囲気なのか、どんな感触なのかわからない。(実際にワールドシリーズでプレーできて)こういう感じなのかと自分の中では得たものがたくさんある。
 強い選手は取り切ることができる。しっかり勝負して、ゲインして、チームのラインを前に出す。チームが苦しい時でも取り切ることが今後の課題。しっかり鍛えて、修正して、次リベンジしたい」

 大竹以外にも、シドニーでの事前合宿で足首を痛めた長田いろはは大会開幕前に日本に帰国したが、ドバイ大会でコアチームの一員としてのワールドシリーズを経験していた平野優芽、田中の2人の高校生も全5試合で先発出場を果たした。

 ドバイ大会では、「中村とともにあのレベルでもパフォーマンスを出せた」(稲田HC)という高い評価を受けた平野は、肩を痛めて離脱していた影響もあって、「個人としてはドバイの時よりもチームに勢いをつけられなかった。悔しい大会になった」と、自分のパフォーマンスには不満が残る大会になった。
「自分の持ち味はステップでずらして、ハンドオフで仲間を生かすプレー。前の感覚は戻ってきていない。そのぶん、ディフェンスで体を張れたかなというのはある。今回、ワールドシリーズで勝てたことは素直に嬉しいが、アタックではオフロード、ディフェンスではスイーパーとして1対1で止められるように、がんばりたい。北九州(第3ラウンド)では必ずベスト8以上になれるように、もっともっと準備していきたい」

 貴重なワールドシリーズでの勝利となったイングランド戦で、独走した相手を諦めずに追いつきトライを食い止めたシーンや、フィジー戦でタックルを受けながらも体をひっくり返してトライを奪ったシーンなど、向こうっ気の強さが生んだような好プレーはシドニーでも見られた。

 一方、ドバイ大会からの成長ぶりという意味では、平野以上とも言えるプレーぶりを見せたのが田中。
「去年の6月のクレルモンフェランでは緊張して何もできなかったことを考えると、今回先発で全部出て、すごい成長ぶりを見せている」(稲田HC)
 世界のトップチーム相手にも、落ち着いて自分のプレーができていた印象だった。
「信頼されて先発で使ってもらっているので強気でいこうと決めていた。アタックはいけるところもあるが、相手の方が一歩早かったりする。通用したのはブレイクするところで、通用しなかったのは相手の方が力が強く倒せないところ。イングランド戦で勝った時は嬉しくて、楽しくて、勝つのはいいなと。勝利に貢献できるように成長していかないといけない」

 前述のNZ戦での大竹のビッグランも「視野が広く、仲間を生かすプレーが得意」という田中が生み出したものであったのも確かだった。

「一歩なのか、半歩なのか。前進してはいる」
 稲田HCはドバイから順位をひとつ上げたシドニーでの戦いをそう総括。その象徴だったのが、高校3年生2人(平野、田中)と大学1年生(大竹)のティーンたちだったのは確かだろう。

「17歳、18歳が、これだけワールドレベルでの経験値を積めているのは2020年に向けて明るい材料」と中村主将が言うように、世界トップと対峙しながらイングランド戦勝利という成功体験もつかんだ若いチームの、成長スピードに拍車がかかる手応えを感じさせたワールドシリーズ第2戦となった。(文:出村謙知)