以前、雪山でコーチがこう言ったのをおぼえている。
「彼女は脚力が強いのでスキーに向いているんです。足も速い。つまり瞬発力がある。それが、ターンするときに活きる。杏実の体は全部ラグビーで作られたものですが、すべてがスキーに向いているんですよ」
 本堂杏実(ほんどう・あんみ/日体大スキー部/21歳)だ。
 日体大ラグビー部女子で活躍していた2016年の途中(日体大2年時)から、スキーヤーとして新たな世界にチャレンジしていた。

 その本堂に嬉しい知らせが届いた。
 1月22日、日本パラリンピック委員会(JPC)は3月9日~18日におこなわれる平昌パラリンピック(韓国)に参加する日本代表(5競技33選手)を発表。アルペンスキーの欄に本堂の名前があった。

 本堂は父・勝之さんの影響を受け、5歳で川越ラグビースクールに通い始めた。先天性左全手指欠損も、仲間たちと同じようにラグビーをプレーした。弟の杏虎(あとら)さんも現在日体大ラグビー部に所属(1年/U20日本代表候補)。ラグビー一家で育った。
 中学時代には関東ユースに選ばれ、高校時代(日体桜華)はU18日本選抜として国際試合に出場したこともある。日体大に入学してからもラグビー部に所属。ポジションはBKからFLへ。2015年のピンクリボンカップ(夏に菅平でおこなわれる15人制大会)ではタックルを評価されてMVPにも選ばれた。

 スキーへ転向したきっかけは周囲のすすめだった。
 2016年、本堂の素質を知る大学関係者からラグビー部にパラリンピック競技への転向打診があった。その声が本人にも届く。陸上かスキーか、という話の中で、高校時代にスキー検定2級を取得していたスキーを選んだ。
 話はとんとん拍子に進んだ。次世代育成選手に指定され、世界を飛び回った。2016年10月以降、オランダ、オーストリア、スイスへ。2017年2月のスロベニアの大会では大回転で3位となり、3月にはジャパンパラアルペンスキー競技大会で女子スタンディング大回転優勝。
 その後も努力と経験を重ね、今回の選出につながった。
「平昌にはなんとしても出たいですね。そして、その次の北京ではメダルをとりたい」
 昨年5月、そう話していた。

 思い描いているような人生を歩んでいけたなら、もっと人前に出ていく自分でありたい。そんな話しもしていた。
「パラで活躍したからとか、障がいを持っているから(メディアに)取り上げられるのではなく、ひとりの人間として人に影響を与えるようになれたらいいな、と思うんです。障がいを持っていて、自分はスポーツなんて無理だろうな…と思っている子が、そんなことはないんだと殻を破ってくれたら嬉しいですね。私はいま、いろんな人たちがここに導いてくださったお陰で、これまで分からなかった障がい者の世界のことを知ることができました。これまでの人生を通して、健常者の世界、その中で自分に向けられる目のことも分かる」
 だから、教科書にはない考えが持てるし、言葉を発せられる。区別や差別をしない社会にするため、自分にできることをしていきたい。
 まだスタート地点に立ったところではあるが、これまで以上に多くの人が自分のことを知ることになった。
 大舞台でも活躍し、たくさんの人に勇気を与えたい。