今、皆さんがご覧いただいている「MELOS」という媒体は、日々スポーツとライフスタイルにまつわるさまざまな記事を配信しています。私もいくつか記事を執筆していますが、実は運動音痴・運動大嫌いライターなんです! 運動音痴エピソードは数知れず、…

 今、皆さんがご覧いただいている「MELOS」という媒体は、日々スポーツとライフスタイルにまつわるさまざまな記事を配信しています。私もいくつか記事を執筆していますが、実は運動音痴・運動大嫌いライターなんです!

 運動音痴エピソードは数知れず、跳び箱は3段まで、逆上がりは人生で一度もできたことがなく、50m走は10秒台、ドッジボールは避ける競技、後転ができるようになったのは16歳……。

 しかし、「MELOS」を通じてスポーツの楽しさを生き生きと語ってくださるみなさまを見て、『私も運動してみたい…!』という気持ちが湧いてきたのです。同時に30歳を過ぎてから、肩こり、腰痛、疲れが取れない、痩せない…など、運動をしない弊害が体にあらわれ、健康問題も気になっています。しかし、運動嫌い、運動音痴はまず何から着手すればいいのでしょうか。

 そこで、運動音痴に関する著書や研究を多数発表されている柳原大さん(東京大学・生命環境科学系准教授)に運動音痴にまつわるあれこれをお伺いしました。

運動音痴はいない!? 失敗が成功の元とは

――早速ですが、運動ができる人と私のような運動音痴がいるのはなぜでしょうか。

そもそも運動音痴な人はいないと考えています。確かに、多少練習しただけで運動をうまくこなせる人はいます。しかし、それは過去の経験に裏打ちされているからであって、運動神経の良さは遺伝的な要因は見つかっていません。

運動を学習している……つまり練習量がどれだけあるかで、運動ができるかできないかが決まってきます。

――ということは私を含めて運動音痴の人は練習量が足りないということでしょうか?

運動をすることによって、脳は失敗経験を蓄積していきます。運動がうまくできないというのは、つまり無駄な動きをしているため。効率的に体を使えていないと考えられます。これらの情報は一度小脳に「失敗に基づいた情報」として貯められていきます。 

小脳には、プルキンエ細胞という運動するための動きを脳の中で運動指令のプログラムを作り出すメカニズムがあります。そもそも練習と失敗の経験が少ないと、情報も少ない。だから運動がうまくいかないということになります。

――少し話が難しくなってきましたが、つまり“とにかく練習する”、“失敗を繰り返す”ことによって小脳に情報が溜まっていき、スポーツができるようになるということなんですね。

簡単に言えばそうですね。また運動をした時、脳の中では小脳のプルキンエ細胞において情報のフィルタリングが行われ、それがうまく行われないと余計な筋肉がはたらき、かたい動きになってしまうと考えられます。

一方で運動が得意な人は信号が厳選されるので、運動に適切な筋肉しか働かないので、運動の誤差が少ないんです。その誤差を少なくするためには、少ない刺激・練習ではダメ。実験的には数百回の刺激で学習が生じますので、人間がスポーツを上達する際にも反復練習は必然なんです。

運動は物理学! 効率的な体の動きを知る

――しかし、何度練習しても全然うまくいかないことが多く、体育の授業は苦痛な時間だったのですが、さらなる練習が必要だったということでしょうか?

おそらくですが、運動音痴と呼ばれる人の多くが、自分本位な動きをしているのではないでしょうか。球技のときはボールに合わせて体を動かさなかったりと、効率的に正しい動きができていないママなのかと推測されます。

――確かにその自覚はあるのですが、上手な人から教えてもらっても、抽象的な説明が多く、「勢いよく腕を回してー!」とか「ぐっと引けば回れるよ」とか……。運動神経悪い人にはよくその説明が分からなくて、運動できないママ、今に至っています。

そこは体育教育の問題になってしまうので、また話が変わってきてしまうのですが、運動は物理学であることはもっと広く知られないといけません。力の強い弱いではなく、効率的に体が動かせれば非力でもうまく運動ができるようになるんです。

また初期姿勢というのがとても大事になります。姿勢が整っていないと左右の体の動きがバラバラになってしまう、スタートからつまずいてしまいますね。

前準備が必要! 失敗は必然!

――初心者は姿勢が違うのはわかります。そうしたら大人でこれから運動をはじめるにはどうすればいいでしょうか。

やみくもに運動をはじめるのではなく、以下の点を考えることからはじめてください。

・何をしたいのか
・何が足りないのか
・どんな筋肉をつけたいのか

痩せたいのか、健康が目的なのか、楽しく運動したいのかそこを明確にしましょう。例えば、とりあえず手軽にできるからと急にマラソンをはじめてしまうと、足を痛めてしまい結局やらなくなってしまいます。

もしマラソンをはじめるなら、歩いて距離感をつかむことからはじめてください。10kmがどれくらいの距離感なのかつかんでみる。そうすれば、意外と短い距離なのか、それとも思ったより長い距離なのか。そこで、自分がイメージしていた距離がわかれば走る時の目処が容易につきますから。

もし他者が関わるスポーツなら最初はインストラクターをつけて、客観的に指導してもらう。今のインストラクターは効率的な体の動かし方の指導に長けていますから、運動苦手な人も理解しやすいと思いますよ。

――そう言われると少しできる気がしました。

あとは先ほども申した通り、失敗をすることで脳が学習するので、運動でのネガティブな体験は必然です。

まず行動、そして失敗をすることで経験値がたまります。数回の失敗で諦めずに頑張って続けること。そうすればどんどんできるようになるから、運動が楽しくなってきますよ。

――とりあえず5kmを歩いて距離感をつかむことからはじめたいと思います。

[プロフィール]
柳原大(やなぎはら・だい)
1964年東京生まれ。東京大学生命環境科学系准教授。専門分野は「神経生理学」「運動生理学」。また講義では「身体運動科学」「適応生命科学」などを担当。運動に関する著書も多数執筆している。

<Text:高橋優璃/Photo:Getty Images>