大人になっても自転車に乗れない人は多いようです。必要性を感じて自転車に乗りたくなったけれど、どこで練習したら良いかわからない、という人もいるのでは? こうした人々のために、日本サイクリング協会では、自転車の乗り方教室を開催しています。具体…

 大人になっても自転車に乗れない人は多いようです。必要性を感じて自転車に乗りたくなったけれど、どこで練習したら良いかわからない、という人もいるのでは?

 こうした人々のために、日本サイクリング協会では、自転車の乗り方教室を開催しています。具体的にどんな指導方法を行っているのか、どんなことに工夫すれば自転車に乗れるようになるのか、お話を伺いました。

朝から受付でも予約がすぐ埋まるほどの人気

 東京の神宮外苑といえば、絵画館前のイチョウ並木や神宮球場が有名ですが、日曜になると目立って増えるのが、自転車を楽しむ人々の姿です。

 「神宮外苑周辺は、日曜・祝祭日はサイクリングコースになっています」と、公益財団法人日本サイクリング協会神宮外苑サイクリングセンター責任者の土田正友さん。

▲取材を受けていただいた土田正友さん

 排気ガスによる公害が問題視されていたころ、神宮外苑の緑を守ろうという目的で神宮外苑周辺はサイクリングコース(周回コース1.2km)となったそうです。1982年からは、自転車に乗れない人のための教室も開催するようになったんだとか。

 この自転車の乗り方教室は、日曜・祝祭日の午前(9:30~12:00)と午後(13:00~15:30)、開催しています。受講料は1回1000円(保険料含む)。雨天は中止です。対象は、5歳以上であれば誰でもOK。14インチの幼児クラスと16インチ以上の児童・大人クラスに分かれます。16インチ以上は、大人と子どもも同じコースで練習します。

 「クラスは、午前・午後とも幼児30名、児童・大人が20~25名で定員です。大人は多い時で、25名中10名ぐらいですね」と土田さん。多い時、というのは、季節でいえば春。子どもを保育園や幼稚園に送り迎えするために自転車に乗りたい、という人が多くなるからだそうです。

 ちなみに、この日の大人の参加者は、25名中3名。女性が2名、男性1名でした。

 教室は人気で、土田さんと話している間も、「今から参加できますか?」とひっきりなしに声がかかります。しかし、残念ながら、すでに定員はいっぱい。8時30分から10時30分までが午前の受付時間。午後は8時30分から14時までが受付時間ですが、余程寒い時期を除いて、すぐに満員になってしまうそう。

 「遠く北海道や福岡から来られる人もいますよ」と土田さん。東京観光がてらだそうですが、それほど人気なのだとか。

 若い男性が参加していたので、ちょっと話を聞いてみました。

―― 今回、自転車の乗り方を習おうと思ったのはなぜですか?

男性参加者「生活するにしても遊ぶにしても、選択肢が広がるのでは、と思ったからです」

 確かに、歩いていくところを自転車で行けば、時間が短縮できます。最近は、満員電車を避けて自転車で通勤する人もいるほどです。運動不足解消にもなりますね。

ペダルを外してバランスを取る練習から始めよう 

 では、乗り方教室では、実際にどんな指導をしているのでしょうか?

 「最初は、ペダルを外した自転車にまたがり、足を着いて蹴りながらバランスを取って進みます」(土田さん)

▲まずはペダルのない自転車にまたがって練習

 両足を地面に着けなければならないので、自分の体に合ったものより、一回り小さな自転車で練習した方がうまくいくそうです。サドルの高さは、またいだ時に、両足が地面にしっかりと着いて、膝が軽く曲がる位置に固定してください。

▼ペダルを取っての練習

① 自転車にまたがるのは、必ず左側から。またがったら、ハンドルを軽く握り、走る前方を見るようにします。この時に手前の地面を見てしまうと、バランスが取りにくくなるので要注意です。

② 両足で同時に地面を蹴り、前に走り出します。ある程度、強く蹴った方がバランスを取りやすくなります。

③ 前に動き始めたら、両足を地面から上げます。自転車はハンドルを曲げてバランスを保つので、足の着きたいと思った方にハンドルを少し曲げることで、長く足を着けないで走れるようになります。

④ 止まる時は、必ず左足から先に地面に着けて止まるようにしましょう。慣れたら、ブレーキをかけて止まる練習もします。

 なおブレーキレバーは、右手が前ブレーキ、左手が後ろブレーキです。止まる時は、必ず、左手の後ろブレーキからかけるようにしてください。

▲両足を地面から上げることで、バランスを鍛えることができる

「これで何回も繰り返し練習し、足を上げたままでコーナーを曲がれるようになれば、ペダルをつけても大丈夫ですね」(土田さん)

 とはいえ、ペダルをつけても良い、と指導員の方からOKが出るまでが大変です。繰り返しコーナーを曲がって往復しても、なかなかペダルをつけての練習まで行きません。バランスが取れていなければ足を上げてカーブを曲がるのは難しいものです。ついつい怖くて足を着いてしまいがちなので、ここは繰り返し練習してくださいね。

ブレーキをかける時は必ず左手からかける

 子どもでもペダルをつけるまでには時間がかかるようです。まして大人は怖さが先立ちますから、なかなか難しいかもしれません。もっとも、これには個人差もあるようで、早い人だと1時間ぐらいでペダルをつけることができるようになります。

▼ペダルをつけての練習

① ペダルに足を乗せる時は、靴の真ん中にペダルがくるようにすると、バランスよく漕ぐことができます。

② スタンドを立てて、両足で漕ぐ練習をします。スタンドには必ずロックをかけ、前方を見ながら両足に同じ用に力をかけ、スムーズに回転できるようになるまで繰り返します。

③ 下におろしたペダルに右足を乗せ、左足だけで地面を蹴って、走り出します。

▲右足はペダルに乗せ左足だけで地面を蹴り、自転車を走らせる

④ バランスが取れたら、左足もペダルに乗せ、スタンドを立てて練習した時の感じを思い出しながら、両足で漕いでみましょう。

⑤まっすぐ走れるようになったら、ハンドル操作を覚えるために、S字を描いて走る練習をしましょう。曲がる方向に視線を動かすと、自然に曲がることができるようになります。

 注意するべきことは、スピードが出過ぎたら、必ずブレーキをかけて速度を調整すること。早く走っている時に、右手の前ブレーキをかけると大変危険です。必ず、左手の後ろブレーキをかけてから、右手の前ブレーキをかける習慣をつけてください。また補助輪があれば、補助輪をつけてペダルを漕ぐ練習をするのも良いそうです。

指導員たちが生徒たちを丁寧にサポート

 取材をしていて感心したのは、指導員の方々の丁寧な指導です。一人一人をこまめに見て、注意点を守らなかったり、危険な乗り方をしていたりすれば、ちゃんと指摘してくれます。

 指導員の方々は、お一人を除いては現役からリタイアされた人ばかり。皆さん、自転車が好きで指導員になられたのだそうです。中には飛行機の整備士をされていた方もいるとか。こうした方々によって自転車の乗り方教室は支えられています。

 無事に自転車に乗れるようになると、修了証が手渡されます。この修了証が欲しくて練習しに来る人もいるのだとか。

▲自転車に乗れたら修了証が渡される

 修了証を貰うとすぐに、貸自転車(管理料1台300円保険料含む)を借りてサイクリングコースを走る人も多いそうです。風を切って走る爽快感は、何ものにも代えがたい喜びですよね。

 自転車に乗れなくて悔しい思いをしている方は、一度、練習に来てみませんか? 遠くて来られないという方は、ぜひ、上記の練習方法をお試しください。ただ、練習する時は、必ずきちんとした靴を履き(サンダルや脱げやすい靴は不可)、体にぴったりとした動きやすい服装で行ってください。

 また自転車に乗れるようになったら、必ず交通ルールを守って運転してくださいね。

<参考サイト>
・公益財団法人日本サイクリング協会
http://www.j-cycling.or.jp/

<Text:斉藤裕子(H14)/Photo:辰根東醐>